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厚生・労働2024年01月24日 フリーランス保護法が今年施行される予定です 執筆者:矢吹保博

1 はじめに

 令和5年4月28日に「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」が成立しました。この法律は、一般にはフリーランス保護法と呼ばれています(以下「保護法」と言います)。公布後、1年6月を超えない範囲で施行されることになっており、今年の11月頃までに施行されることが予定されています。

2 背景

 近年、多種多様な働き方が生み出され、会社などの組織に属さず個人事業主として働く人が大きく増加しました。これまでの常識にとらわれることなく自由に働くことができるという魅力がある一方で、基本的には労働者ではないことから、労働基準法などの労働法制によって保護されず、極めて弱い立場に立たされるケースも頻発し、社会問題化してきました。
 保護法は、フリーランスとして働く人たちが不当な取引条件を余儀なくされないよう、その適正化を図る目的で制定された法律です。

3 保護の対象

 適用対象となるフリーランスは、「特定受託事業者」とされています(保護法第2条1項)。具体的には、業務委託の相手方であって、①個人であって従業員を使用しないもの(1号)、もしくは、②法人であっても代表者1人しかおらず、従業員も使用しないもの(2号)を指すとされています。
 また、特定受託事業者に対して業務を委託する事業者は「業務委託事業者」とされ、業務委託事業者のうち、①個人であって従業員を使用するもの、もしくは、②法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するものを「特定業務委託事業者」といいます(保護法第2条6項)。
 特定業務委託事業者は、業務委託事業者よりも様々な規制を受けることになりますのでご注意下さい。

4 適正化のためのルール

 ⑴ 給付の内容等の明示
業務委託事業者は、特定受託事業者に対して業務委託をする場合、「給付の内容、報酬の額、支払期日」を書面または電磁的方法で明示しなければなりません(保護法第3条1項)。給付の内容とは、委託する業務の内容のことです。
なお、電磁的方法で明示した場合であっても、特定受託事業者から書面の交付を求められたときは、原則として、遅滞なく書面を交付しなければなりません(同条2項)。
業務委託をする際に取引条件を明示させることにより、後日になって取引内容に関するトラブルを予防するために、このようなルールが設けられました。
ただし、業務委託をする時点において、業務の内容が定められない正当な理由があるときは明示しなくてもよいとされています。
 ⑵ 報酬の支払期日
報酬の支払期日については、特定業務委託事業者が特定受託事業者から給付を受領した日から起算して60日以内において、かつ、できる限り短い期間内において定めなければなりません(保護法第4条1項)。
もし支払期日が定められなかった場合や、60日を超える日に設定された場合には、給付を受領した日から60日を経過する日が支払期日とみなされることになります(同条2項)。
また、再委託の場合であり、かつ、再委託であることや元委託事業者の氏名または名称、元委託業務の対価の支払期日を特定受託事業者に明示したときは、報酬の支払期日を、元委託事業者の支払期日から起算して30日以内に定めなければなりません。
このルールは、報酬の支払が不当に遅く設定されることで、特定受託事業者の利益が害されるのを防止するためのものです。
 ⑶ 遵守事項
以上のほかにも、特定業務委託事業者に対する規制が設けられています(保護法第5条1項)。
① 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の受領を拒むこと
② 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること
③ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付を受領した後、特定受託事業者にその給付に係る物を引き取らせること
④ 特定受託事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑤ 特定受託事業者の給付の内容を均質にし、又はその改善を図るため必要がある場合その他正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制して購入させ、又は役務を強制して利用させること
また、次の行為をすることで特定受託事業者の利益を不当に害してはならないとされています(保護法第5条2項)
① 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
② 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の内容を変更させ、又は特定受託事業者の給付を受領した後に給付をやり直させること
 これらの規制は、交渉力で勝る特定業務委託事業者がその地位を濫用して不公正な取引を行うことを禁止しようとする規制であり、下請代金支払遅延等防止法(いわゆる「下請法」)第4条と同じ趣旨のルールです。
 ⑷ 解除の予告
さらに、特定業務委託事業者は、継続的業務委託に係る契約の解除をしようとする場合は、原則として、少なくとも30日前までに予告をしなければなりません(保護法第16条1項)。
継続的に業務を受託している場合、もっぱら当該業務に従事していることが多く、突然解除されると次の仕事を探す余裕が無いなど、深刻な損害を受ける可能性がありますので、このような事態を防止する目的の規制です。

5 特定受託事業者による申出

 特定受託事業者は、保護法第3条ないし第5条に違反する行為があったときは、公正取引委員会又は中小企業庁長官に対して申し出て、適当な措置を講じるべきことを求めることができるようになりました(保護法第6条)。
 以上、フリーランス保護法のうち、実務に対する影響が大きいであろう規制のみを概説しました。
 公正取引委員会や中小企業庁長官に対する申出の数もかなり多くなるのではないかと予想されます。
 今般、労働法制による規制を免れるため、個人事業主に対して業務委託を行っている事業者は非常に多いと思います。施行までに早急に準備を進めることをお勧めします。

(2024年1月執筆)

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