民事2022年10月26日 共有関係に関する民法改正 執筆者:矢吹保博
令和3年4月21日に民法の一部が改正され、共有に関する規律が変更されることになりましたので、本稿では、そのポイントを概説します。なお、改正後の民法のことを便宜上「新民法」と表記します。
1 使用対価償還義務の明文化
新民法249条2項で、「共有物を使用する共有者は、別段の合意がある場合を除き、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を償還する義務を負う。」という条項が新設されました。
不動産など物理的に分割できない物を共有する場合、共有者の一部が全てを利用することが少なくありません。こういったケースでは、これまで実務上、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求という法律構成によって共有者間の公平を図っていましたが、新民法により、その使用対価の償還義務が明文化されたということになります。
なお、この条項は、相続によって共有が発生した場合にも適用されると解されています。ただし、被相続人との関係で、明示または黙示により、無償で使用することの「別段の合意」すなわち使用貸借契約が認定できるようなケースでは、使用の対価を償還する義務はないということになります。
2 共有物の変更・管理に関する規律の改正
⑴ 「変更」の意味
現行民法251条により共有物の変更を行うときは他の共有者全員の同意が必要とされていますが、具体的に「変更」とはどのような行為を指すのか、必ずしも明らかではありませんでした。
そこで、新民法251条1項では、「変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)」という文言に改正され、軽微な変更については、新民法252条1項に基づいて、管理と同様に共有者全員の同意ではなく持分価格の過半数によって決定することができることとなりました。
とはいえ、この改正でもまだなお、「著しい変更」に該当するかどうかの判断基準が明確になっているとは言い難く、今後の裁判例などの集積が待たれるところです。
⑵ 全員の同意を得ることができない場合の裁判
また、共有者の一部が行方不明になっていたり、連絡を取っても無反応であったりするなど、共有者全員の同意を取り付けることができない状態になっている場合には、共有物に手を付けることができないという事態があり得ました。
そこで、新民法251条2項及び252条2項では、①共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときや、②共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないときは、他の共有者の同意を得て、共有物に変更や管理を行うことができる旨の裁判を行うことができるという制度が設けられました。
①の場合は、裁判所が、異議があるときはその旨の届出をすべきこと等について公告を行います。また、②の場合は、裁判所が、共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにするよう催告を行います(改正後の非訟事件手続法第85条)。それぞれ、一定期間内(一か月以上とされています。)に、異議がなかった場合や賛否を明らかにしなかった場合には、裁判所が共有物の管理に係る決定を行います。
⑶ 管理費用と実務上の影響
ところで、共有物の軽微な変更や管理に要した費用は、現行民法253条(新民法でも改正はありません。)により、その持分に応じて共有者が各自負担を負うことになります。
相続を原因として、見ず知らずの資産について、知らないうちに共有者の1人になっていたという場合も珍しくありません。しかし、たとえそういった場合でも、共有物の軽微な変更や管理に要した費用の負担を免れるわけでありません。将来の世代にトラブルの種を残さないよう、共有状態を安易に放置しておくことは避けるべきでしょう。
3 所在等不明共有者の持分に関する制度の創設
さらに、新民法では、他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、その共有者(「所在等不明共有者」)の共有持分を、裁判所の決定に基づいて、所在等不明共有者以外の共有者が取得したり(新民法262条の2)、第三者に譲渡したり(新民法262の3)することができるという制度も設けられました。
ただし、例外として、所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合は、相続開始時から10年を経過していないときは、裁判所はこの決定をすることができないと定められています。
本実務上、長年にわたって共有関係が放置され、その解決に困難を伴うケースが少なくありません。本稿で概説した制度は、共有関係の解消を促す制度として運用されていくものと思われ、その積極的な活用が期待されます。
(2022年10月執筆)
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