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家族2023年10月20日 親子に関する法制の改正 執筆者:矢吹保博

1 はじめに

 令和4年12月10日に「民法等の一部を改正する法律」(以下「改正民法」といいます。)が成立し、令和6年4月1日から施行されることが予定されています。
 改正民法では、現行民法から、親子に関する法制の一部が改正されており、実務的にも影響があります。本稿では、影響が大きいと思われる次のポイントについて概説したいと思います。
 ①嫡出の推定の見直し
 ②再婚禁止期間の廃止
 ③嫡出否認制度の見直し

2 嫡出の推定の見直し

 ⑴ 背景
現行民法772条2項では、婚姻成立日から200日を経過した後または婚姻解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎した子であると推定されます。
つまり、離婚してから300日以内に生まれた子は、離婚した夫の子であると推定されることになります。生物学的には前の夫の子である可能性が無い場合であっても、戸籍では前の夫が父親として記載されることになるわけです。このため、離婚した夫が子の父親であると戸籍に記載されることを避けるために母親が出生届を提出せず、無戸籍の子が発生するケースがありました。
 ⑵ 推定の見直し
この問題を解消すべく、改正民法772条1項では、
「妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。」
という規定に改正されました。
つまり、離婚した日から300日以内に生まれた子であっても、その間に母親が再婚したときは再婚した夫の子と推定されることになりました。
なお、改正民法772条1項後段の文言は、「婚姻期間中」という限定がありませんので、婚姻前に懐胎し、婚姻が成立してさらに離婚に至ったというようなケースでも、その夫の子と推定されます。
 ⑶ 複数回の婚姻があった場合
改正民法772条3項では、子を懐胎した時から子の出生までの間に2回以上の婚姻をしていたときの推定規定を設けており、そのようなケースでは、出生の直近の婚姻における夫の子と推定されることとなりました。

3 再婚禁止期間の廃止

 ⑴ 背景
現行民法733条1項では、前の婚姻が解消または取り消されてから100日を経過した後でなければ、再婚できないと規定されています。再婚後に生まれた子について、前夫の嫡出であることの推定と、再婚の夫の嫡出であることの推定が重複することを回避するためと考えられています。
しかしながら、女性にのみ再婚禁止期間が存在するというのは不公平であるとしか考えられませんし、昨今のDNA鑑定技術の向上という観点からすると、再婚禁止期間を設けること自体の必要性が乏しくなっていました。
 ⑵ 廃止
上記2で述べた改正民法772条によりますと、母の再婚前に生まれた子は前夫の子と推定されることになりますし、母の再婚後に生まれた子は再婚後の夫の子と推定されることになりますので、嫡出推定が重複するという事態が発生することはなくなりました。
このため、女性の再婚禁止期間は不要となり、改正民法では削除されることとなりました。

4 嫡出否認制度の見直し

 ⑴ 背景
現行民法774条では嫡出否認の訴えを提起することができるのは夫のみとされており、かつ、現行民法777条では、子の出生を知ったときから1年以内に提起しなければならないとされています。
このため、家庭内暴力(DV)が起きているケースなど、父親の協力を得ることが困難な場合に嫡出の否認をすることができない事態が発生したり、この事態を避けるためにそもそも出生届を提出しないという事態が発生したりするなど、様々な問題点が指摘されていました。
 ⑵ 見直し
改正民法774条1項及び3項により、父親だけではなく子と母親も嫡出否認の訴えを提起することができることとなりました。
なお、改正民法774条2項では、子の嫡出否認の訴えについては親権者が代理行使することができると定められていますので、母親固有の嫡出否認権を認める同条3項は不要にも思えます。しかしながら、母親固有の嫡出否認権を認めるということは、親権者ではない母親であっても嫡出否認の訴えを提起することができるということを意味しています。この規定により、たとえば、実際には生物学上の父子関係がないにもかかわらず、様々な事情によって離婚の際に親権者を父親と指定したというケースでも、母親が嫡出否認の訴えを提起することができるわけです。
さらに、改正民法777条では、出訴期間についても見直しがされており、子や母親が嫡出否認の訴えを提起できる期間は子の出生時から、父親が訴えを提起できる期間は子の出生を知ったときから、それぞれ3年とされています。ただ、母親が苛烈なDVを受けていた事案などでは、3年という期間でもなお短いのではないかという意見もあります。

5 最後に

 以上で概説したポイントのほかにも改正民法では親子関係を巡る法制が変化している点があり、実務上も様々な影響があると考えられます。

(2023年10月執筆)

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