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民事2023年02月13日 日常生活に関係する労働法制の改正 執筆者:矢吹保博

 近年、いわゆる働き方改革の観点から、労働法制に関する改正が頻繁に行われています。令和5年にも、日常生活に関係する新しい労働法制の施行が予定されており、本稿ではそのうち、①中小企業における時間外労働割増賃金率の引き上げ、②給与のデジタルマネー払いについて概説します。
1.中小企業における時間外労働割増賃金率の引き上げ
平成20年12月に労働基準法が改正され、1か月に60時間を超える時間外労働を行った場合、50%以上の割増賃金率による時間外労働割増賃金を支払わなければならなくなりました(労働基準法第37条1項ただし書き)。それまでは25%以上と定められていましたので、割増賃金率が2倍になったわけです。これにより長時間残業の抑制が図られました。
ただ、中小企業では、人材不足や高額な割増賃金を支払うことによる財務状況の悪化といった問題から、改正法の適用はしばらく見送られることになっていました。しかし、令和5年4月からは、中小企業にもこの割増率が適用されることになります。
多くの中小企業では、就業規則や賃金規程において、労働基準法で定められている割増率をそのまま引用して時間外労働割増賃金の割増率を定めていると思います。つまり、1か月60時間を超えるかどうかにかかわらず、時間外労働割増賃金の割増率を、一律、25%以上と定めているケースが多いでしょう。令和5年4月以降には、この規定のまま残業代の計算を行っていると、労働基準法違反ということになってしまいますので、対応がまだの事業者は、早急に就業規則の変更などの手続を行う必要があります。
ちなみに、月60時間を超える時間外労働を22時から5時の深夜時間帯に行った場合、深夜労働に対する割増賃金率25%と、月60時間を超える割増賃金率50%が加算され、75%の割増率による残業代を支払うことになりますのでご注意ください。
なお、月60時間を超える時間外労働を行った場合、割増賃金を支払う代わりに、代替休暇を付与することができるようにもなっています。代替休暇付与の制度を導入するにあたっては、ⅰ代替休暇の時間数の具体的算定方法、ⅱ代替休暇の単位、ⅲ代替休暇を付与することができる期間、ⅳ代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日について、労使協定を結ぶ必要があります。
2.給与のデジタルマネー払い
労働基準法では、給与は通貨で支払わなければならないと定められています(労働基準法第24条1項)。通貨とは、貨幣と紙幣のことですので、給与は原則として現金で支払う必要があるわけです。
ところが、ここ数年で○○ペイなどのデジタルマネーが社会に広く浸透し、キャッシュレス決済が日常的に利用されることが多くなり、現金よりもむしろデジタルマネーを利用することの方が多いという人も増えています。デジタルマネーをメインで利用している人からすれば、給与を現金で受け取っても、一旦これをデジタルマネーに換金するという手間が必要になりますので、給与を最初からデジタルマネーで払って欲しいというニーズが高まっていました。
このような社会情勢の変化に基づき、令和5年4月から、給与のデジタルマネー払いが認められることとなりました。
デジタルマネー払い制度を導入するためには、デジタルマネー払いの対象となる労働者の範囲や利用する資金移動業者などについて労使協定を結ぶ必要があります。また、当然ですが、給与のデジタルマネー払いを行うためには、給与を受け取る従業員の個別の同意も必要になります。
ただ、デジタルマネー払いに利用することができる資金移動業者は、厚生労働省の審査を経て指定を受けることができた資金移動業者(指定資金移動業者といいます。)に限定されています。この審査は令和5年4月1日から申請を行うことができることになっていますので、実際にデジタルマネー払いが開始されるのは、もう少し先になります。
 働き方改革といった観点や、給与を現金ではなくデジタルマネーによって支払うことが可能になることなど、少し前の時代では想像もつかなかった時代がやってきました。今後も新しい技術の発展や、社会常識の変化に従い、様々な規制改革が行われることになると思います。労働法制については常に知識のアップデートが必要です。

(2023年2月執筆)

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