契約2025年03月04日 日本代表の法務 ~プロ選手が参加する日本代表をめぐる問題 執筆者:松本泰介

前回は日本代表の報酬、報奨金をめぐる問題を概説してみました。その中で、特にプロ選手が出場する場合についてご質問を受けたりしましたので、今回はプロ選手が出場する日本代表をめぐる問題に関してもう少し解説してみたいと思います。
1. プロ選手が参加する日本代表
近年は、オリンピックやパラリンピックも、純粋なアマチュア選手だけでなく、プロ選手が日本代表の中心的なメンバーであることも増えてきました。
わかりやすいのは、サッカー日本代表や野球のWBC日本代表など、日本や海外でプレーするプロ選手が参加することが前提になっている場合です。野球も以前オリンピックは社会人や大学生などのアマチュア選手中心に日本代表が構成されていましたが、現在、トップチームは基本的にプロ選手で構成され、WBCやオリンピックに出場し、社会人代表やU-23代表などはアマチュア選手にて構成されています。
オリンピックやパラリンピック出場選手も、もちろん企業に所属しており、スポーツ活動自体で報酬をもらっているわけではない純粋なアマチュア選手も出場していますが、一方、企業から独立し、複数のスポンサー契約先を抱えてプロフェッショナルに活動している選手もいます。彼らは個人事業主として独立採算で活動しているため、ある意味プロ選手ともいえるでしょう。あとは、日本では企業に所属する選手が多いものの、海外では完全プロとして活動されている選手とミックスされている日本代表も存在します。
このように現代の日本代表選手は、アマチュア選手だけでなく、いろいろなタイプのプロ選手が参加するようになっています。
2. プロ選手にとっての日本代表
このようなプロ選手に対する日本代表の報酬、賞金分配も、近年重要な問題になっています。前回も説明しましたが、プロ活動は、日程的にも移動的にも過密になってきており、競技によっては、日本代表活動に関して有力選手が集まらない競技も存在します。日本代表の名誉はないのか、と思われるかもしれませんが、実際日本代表活動でけがをしたとしても、プロ選手としての報酬を補償してくれるものは何もありません。サッカーや野球のようなチームスポーツで所属するクラブから多額の報酬をもらっている場面はもちろん、多くのスポンサーを抱える選手の場合、そのスポンサーの露出のためにもプロ活動を継続する必要があります。したがって、以前のような日本代表の名誉だけで参加できるものではなくなっています。
また、欧米を中心として、海外に生活の本拠をおき、プロ選手としてプレーすることが増えてきた今の時代では、日本に帰ってきて日本代表の試合に出場することもまた別の意義が必要になっています。某競技団体で、選手と監督の関係がクローズアップされていましたが、やはり今の時代は、どのように日本代表活動を理解してもらうか難しい時代であることを痛感させられました。競技団体も選手への報酬や賞金分配を検討し、どのように日本代表の強化や価値を向上させるのか考えなければならない時代です。
3. プロゴルフ選手が出場するオリンピック
ゴルフは、リオオリンピックから、112年ぶりにオリンピック競技に復活しました。ランキング上位選手が出場できる制度になっているため、普段のプロ選手として出場するプロゴルフトーナメントも、オリンピックに出られるか出られないか白熱の順位争いが繰り広げられています。オリンピックにはプロゴルフトーナメントのトップランカーが出場しているため、1992年バルセロナオリンピックに、アメリカのプロバスケットボール選手が「ドリームチーム」を結成して参加したときのような興奮を覚えます。国別の対抗戦をやっているのもとても興味深い点でした。
このようなプロ選手は、普段1試合1試合のプロゴルフトーナメントにて賞金を獲得しているため、オリンピック参加のインセンティブ含めて、多額の報奨金などが設定されていました。ただ、前回解説しましたとおり、オリンピック競技に復活して期間が浅いことやプロ選手向けの国別対抗戦が少ないためか、どのプロ選手も賞金のないプレーに新鮮さを持っていたようです。普段何億も稼いでいるプロ選手が、賞金のない、純粋に順位を競った結果のメダル獲得に歓喜の表情を浮かべていたことは、非常に印象的でした。ゴルフは各国協会にて育成されたジュニア世代の選手が世界のアマチュアトーナメントで戦い、プロ活動につながっているので、プロ選手にとってオリンピックのような大会はなじみやすい大会なのかもしれません。
とはいえ、これも何回か開催していると、上記プロ選手にとっての日本代表で述べた課題と同様に、報奨金の金額の多寡やけがのリスクなどを踏まえ選手が出場するかしないかといった課題は発生してくると思われます。
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
(2025年2月執筆)
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執筆者

松本 泰介まつもと たいすけ
早稲田大学スポーツ科学学術院教授・博士、弁護士
略歴・経歴
専門分野はスポーツ法、スポーツガバナンスなど。
主な経歴は、日本プロ野球選手会監事、日本プロサッカー選手会執行理事、日本スポーツ仲裁機構スポーツ団体のガバナンスに関する協力者会議委員、早稲田大学競技スポーツセンター副所長、早稲田大学スポーツビジネス研究所(RISB)研究員など。
主な著作に、「スポーツビジネスロー」(大修館書店)、「代表選手選考とスポーツ仲裁」(大修館書店)、「標準テキスト・スポーツ法学」(エイデル研究所刊。編集委員)、「理事その他役職員のためのガバナンスガイドブック」(日本スポーツ仲裁機構刊。共著)、「トラブルのないスポーツ団体運営のために ガバナンスガイドブック」(日本スポーツ仲裁機構刊。共著)など。
その他経歴、肩書などは、https://wasedasportslaw.amebaownd.com/参照。
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