3.国会論議の概要
ここでは、国会での委員会審議の中から今後の解釈運用に関わり得る主な質疑を幾つか紹介することとしたい。なお、紹介する質問と答弁(国土交通大臣、国土交通省職員の答弁)は、いずれも、発言そのままではなく、趣旨をまとめたものである。
→ 建設業界では、長年にわたり低価格での受注競争が繰り返され、技能者の賃金にしわ寄せが及び、処遇改善に努める企業が現れても、競争上不利となるため、他産業より低い賃金水準が改善されない状況が続いてきた。その結果、技能者数がピーク時の3割減にまで落ち込み、担い手確保が発注者や元請にとっても事業の継続を左右しかねない待ったなしの重要課題となっている。
こうした危機的な事情を背景に、従来は意見が一致しなかった発注者、元請企業、専門工事業者の間で、担い手確保に向けた処遇改善の必要性が共通課題として認識され、今般、新たな仕組みを設けることとなった。
新ルールにのっとり適正な見積りと契約を行っていただくことで、適正な労務費の確保と行き渡りを図り、建設業の担い手確保を実現していきたい。
※第213回国会・衆議院・国土交通委員会・会議録第14号・令和6年5月17日・3ページを基に作成
→ 賃金原資となる労務費の適正な確保と行き渡りを徹底させる必要があり、そのため、今回、労務費の基準を国が示して、これを物差しとしながら、著しく下回る積算や契約を禁止することにしている。
地域・職種によって事情が異なると考えられるため、地域差や工種の違いを考慮して、中央建設業審議会で議論することを想定。
※第213回国会・衆議院・国土交通委員会・会議録第14号・令和6年5月17日・1ページを基に作成
→ 市場の動きに合わせて、労務費の基準についても改定していく方向で、今後、中央建設業審議会で、その設定の仕方を議論することを想定。
※第213回国会・衆議院・国土交通委員会・会議録第14号・令和6年5月17日・2ページを基に作成
〇 建設業法第20条第2項において「著しく下回る」とした趣旨
→ 国が示す労務費の基準を著しく下回る見積りや契約を禁止し、勧告や監督の対象にしている。
労務費の基準を著しく下回るどうかは国土交通大臣や知事が判断するということになるが、仮に、著しく下回るという形ではなく、具体的な数値をもって勧告や監督をするというような形で規定した場合は、労務費の交渉で、具体的に示した数値の下限に張り付くような労務費の妥結ということを誘発することになる心配がある。下限に張り付く価格設定となるというのは、今回の法律が目指す適正な労務費の確保という趣旨に合わないと考える。
また、もう一つは、労務費の原資をきちんと確保しないと行き渡りが難しいところ、その労務費の原資は、価格の転嫁の浸透状況に応じても変わってくる。原資の確保状況も踏まえながら弾力的に勧告や監督をするかを判断するということもあるため、具体的な数値という形ではなく、著しく下回るという形で規定を設けた。
※第213回国会・衆議院・国土交通委員会・会議録第14号・令和6年5月17日・3ページを基に作成
〇 いわゆる「手間受け」に係る労務費の基準について
→ 今回の労務費の基準とその行き渡りの確保策については、いわゆる労務のみを提供する手間請けと呼ばれている形態についても、新しくこれから設定していく労務費の基準を著しく下回る契約はやめていただくべきと考える。
労務費の基準の設定の方法は、今後、中央建設業審議会で議論することになるが、労務費の基準というのは、材料と労務を一体で提供する場合でも、また、手間請けのように労務のみを提供する場合でも、大きく変わることはないのではないかと考える。
※第213回国会・衆議院・国土交通委員会・会議録第16号・令和6年5月22日・3ページを基に作成
〇 労務費の基準と公共工事の設計労務単価の関係について
→ 労務費の基準は、公共工事の設計労務単価とは別物である。どういう計算式で労務費の基準を作るかは、これからの議論だが、例えば、公共工事の設計労務単価を用いて、それに歩掛かりを乗じるという方法で作業量当たりの価格、例えば、鉄筋一トン当たり幾らというような形で設定するのが一つの方法ではないかと、今回の改正に係る審議会の中で議論され、提案された一つの手法。
労務費の基準の算出の基に設計労務単価が使われるということは現時点で想定しているが、設計労務単価そのものとはまた違う形で設定することが想定されている。
※第213回国会・衆議院・国土交通委員会・会議録第16号・令和6年5月22日・3ページを基に作成
〇 労務費の基準等の規制が鉄道工事にも適用されるかどうか
→ 今回の法律で新しく導入する労務費の基準などの規制は、建設業者が建設工事の請負契約を締結する際に適用されるルールである。鉄道工事は、建設業法上の建設工事に該当するため、これを請け負おうとする者は許可を受けて建設業者に該当するということになる。したがって、鉄道工事についても本法案の規制の対象になってくる。
※第213回国会・参議院・国土交通委員会・会議録第18号・令和6年6月6日・6ページを基に作成
→ 現状、民間工事の約6割では、契約書に変更条項自体が盛り込まれていない、受注者である建設業者が変更協議を申し入れても門前払いされるケースが多く、初めの契約に変更条項がないという状況。
このような取引実態を踏まえ、今回、まずは、注文者が変更協議のテーブルに着くよう強く促すべく、価格高騰に伴う請負代金の変更方法を、契約書の法定記載事項として明確化し、協議に応ずる法律上の努力義務を課すこととした。
協議が行われたものの、民間発注者が優越的な地位を利用して必要な契約変更を行わなかったことで、結果として原価割れ契約になり、建設業法に違反することも考えられる。こうした発注者の行為が独占禁止法上の不公正な取引方法に該当する場合には、独占禁止法上の適当な措置が取られるよう、公正取引委員会との連絡体制を強化し、緊密な連携を進めていく。これらの取組を通じ、立場の弱い建設業者が価格高騰に伴う不利益を一方的に被ることのないよう努めていく。
※第213回国会・衆議院・国土交通委員会・会議録第14号・令和6年5月17日・2ページを基に作成
〇 工事の請負契約を適正化するための、建設業法と独占禁止法との役割分担について
→ まず、建設業法の方は、適正な施工を確保するという観点から、工事費の内訳を規制し、適正な見積りを促し、あわせて、パートナーシップの考え方から、契約変更のルールを今回構築しようというもの。
一方、独占禁止法の方は、公正かつ自由な競争を妨げる行為を規制する観点から、取引上優越的な地位にある事業者が、取引先に対して不当に不利益を与えるような行為等を規制しようというもの。
例えば、工事費が著しく低く、また、価格転嫁を認めないとした結果、原価割れになるというケースにおいては、通常は、建設業法で、今回新しく設けるルールに抵触をするということになると思われる。
その原因が、発注者が地位を利用したために著しく低い価格となってしまったというような場合には、独占禁止法の問題にもなり得る。公正取引委員会との連携が大事だと思っている。
具体的には、建設Gメンが調査を通じて把握した事実を公正取引委員会に提供をするほか、公正取引委員会での効果的な独占禁止法の執行が図られるように検討をしてまいりたい。
※第213回国会・衆議院・国土交通委員会・会議録第16号・令和6年5月22日・6ページを基に作成
→ この法案では、取引適正化と処遇改善を図るため、国が請負契約の締結状況などを調査することとしている。この規定に基づいて、建設Gメンが、労務費の基準を著しく下回る契約はないか、工期ダンピングが行われていないかなどのルール違反を、広く実地調査する。
この調査によって、違反につながるおそれがある事案が判明した場合は、Gメンが、まずは注意喚起など緩やかな改善指導を行いつつ、悪質な事案を洗い出していく。そして、改善されない場合や悪質なルール違反の疑いのある建設業者には、国と許可権者である都道府県知事とが連携して、強制力のある報告徴収や立入検査を行って、最終的には監督処分につなげていく。
加えて、この調査の結果は、公表するとともに、中央建設業審議会に報告し、施策の分析、改善に役立てていく。
※第213回国会・衆議院・国土交通委員会・会議録第16号・令和6年5月22日・21ページを基に作成
→ 今回のこの調査は、建設Gメンが、この新しい法の規定に基づいて調査を行っていくということを考えている。
体制については、昨年度は約70名体制であったものを、今年度からその約2倍の体制に拡大をさせて、これから本格的な対応をしていく。
このGメンは、実地調査に入って契約の状況などを確認をするが、特定の規模の工事だけに限定する、時期を限定するといったことは考えていない。幅広く業界全体を対象に調査を行っていく。
ただ、効率的に調査を行っていくということは必要であるため、国土交通省で設けている駆け込みホットラインに寄せられる通報などを端緒情報として、違反のおそれがあるものなどを優先しながら実地調査を行い、制度の実効性を確保してまいりたい。
※第213回国会・衆議院・国土交通委員会・会議録第16号・令和6年5月22日・21~22ページを基に作成
〇 リスク情報の通知を受けて、協議の申出を受けた注文者に対しては、誠実に協議に応じる努力義務を課していることについて
→ 注文者に協議に対応することを義務とすると、現状、契約上の義務すらない6割もの民間契約の注文者に、法律上の義務という非常に強い形で協議に応じさせるということになる。多くの方がまだそういう実態にないということを踏まえ、いきなり法律で強い義務を課すことに伴う現場の混乱を招かないように、まずは努力義務という形で現場の実態を改善した上で、その上で、次なる対応については考えていきたい。
※第213回国会・衆議院・国土交通委員会・会議録第14号・令和6年5月17日・4ページを基に作成
〇 資材価格の高騰等に関するおそれの情報について受注者が注文者へ通知する義務及びその通知内容
→ 資材高騰リスクの情報を契約前に通知する義務、これは、事前に情報を共有しておくことで、実際に資材が高騰した場合の協議をより円滑にするということを目的としている。
この際、提供する情報の範囲について、まず受注者側が把握している範囲で提供すれば足りるということで、新しく調べてまでやる必要はない。
また、可能性があるものを全て膨大なリスク情報のリストとして提供するということも想定していない。そのような形で膨大なものを発注者側に渡しても、その通知というのは非常に形式的になってしまい、お互いに協議をする際に円滑になる材料にならないのではないか考えるところ。
したがって通知すべき情報の範囲や内容は、転嫁の協議を円滑にする上で一番いい形で判断していく必要があるため、そういう趣旨を踏まえてガイドラインを策定をし、その制度趣旨にかなうような情報提供の在り方を分かりやすく提供するようにしたい。
※第213回国会・衆議院・国土交通委員会・会議録第14号・令和6年5月17日・4ページを基に作成
→ 今回、まず、無理な工期での受注を防止するためのいわゆる工期ダンピングを受注者に禁ずる措置を盛り込んでいる。また、現場管理をできるだけ無駄なく行うことで働く時間が少しでも短くなるようにという趣旨で、現場管理にICTを活用することについても措置を盛り込んだ。
さらに、技能者の収入を増やすための措置、これは休日を取ると収入が減るということにもつながりかねないということから、そのような懸念がある者にもより休日、週休二日を取りやすくする環境整備として、賃上げを徹底するということについても盛り込んでいる。
※第213回国会・参議院・国土交通委員会・会議録第18号・令和6年6月6日・2~3ページを基に作成
→ 例えば、関係者間の情報共有ソフトというものを活用して、現場の勤怠管理や、バックオフィスと現場との連携を図るということが一つは考えられる。また、ウエアラブルカメラやウェブの会議システムなどを活用して遠隔から現場を管理するという効率的な方法についても考えるところ。
こういった具体的な事例を指針の中で示し、広く関係者がICTの活用に向けて取り組むよう促してまいりたい。
※第213回国会・参議院・国土交通委員会・会議録第18号・令和6年6月6日・9ページを基に作成
〇 建設業法において、ICTを活用した効率的な現場管理の努力義務を特定建設業者に限定した理由
→ まず、特定建設業者は、一言で言えば、少し大きい会社ということ。法律上の言葉で言えば、建築工事であれば7000万円以上、その他の工事であれば4500万円以上の下請契約を締結して工事を施工しようという場合に、特定建設業の許可を取得する必要がある。主に、元請企業ということになり、許可を受けている48万社のうち約1割、4.9万社がこれに該当する。
この特定建設業者は言わば元請だが、遠隔の管理のウェブカメラなど現場管理のICT技術の導入に既に取り組んでいる方が一定数いる。そういう意味で、それ以外の小さい業者の方とは差があり、また、特定建設業以外の建設業者については、ICTを活用するための人材やノウハウにやや不足、リソースが不足をしているということもある。
したがって、全体を今回の努力義務の対象とすると事務負担がやや大きくなるということも勘案して、まずは元請、工事全体に責任を負うことになる特定建設業者から適用を始めるということにした。
※第213回国会・参議院・国土交通委員会・会議録第18号・令和6年6月6日・9ページを基に作成
〇 公共工事入札契約適正化促進法においては、ICTを活用した効率的な現場管理の努力義務を一般建設業者も対象とした理由
→ まず、公共工事においては、民間工事以上により適正な施工というものが求められる。これは、国民の負担で行われるということもあるため。
また、公共工事の方では、より良い取組を率先して行うと、そういう役割、機能も公共事業にはある。今回のICTの導入、活用についても、一定の事務負担が生ずるということではあるが、先導的な役割が公共事業に期待されているということ、また、ICTを活用すれば最終的には小さい企業の方も自社の効率化と利益につながるという側面もある。
したがって、一定の事務負担はあるものの、特定建設業以外の一般建設業についても、今回は、公共事業を行われる方についてはICTを使った現場管理に努めていただくということにした。
※第213回国会・参議院・国土交通委員会・会議録第18号・令和6年6月6日・9ページを基に作成
〇 監理技術者などの専任義務の緩和に係る条件について
→ 今回の改正では、社会にデジタル技術が広く浸透してきているという状況を踏まえ、ICTの機器を活用できるなどの一定の条件を満たす場合に監理技術者などの専任義務を合理化するということにしている。
一定の条件を満たす場合という条件については、まず、請負代金の金額について、建築一式工事の場合であれば2億円未満、その他の工事の場合であれば1億円未満とすることを検討している。また、現場の状況や意思疎通に必要な音声や映像の送受信がしっかりとあり、かつ、施工体制の把握が遠隔でも把握できるということを要件にしたい。さらに、掛け持ちをする現場の間の移動に要する時間が2時間以内であるなど、1日に巡回可能な現場は二つまでという風に限り、さらに、複雑な施工体制の現場は対象外とするという趣旨から、下請次数が3次以内の工事に限るというような条件を検討している。
今後は、政省令に対するパブリックコメントを通じ、さらに、業界の皆様も含めて幅広い意見を聞いた上で、最終的な決定をしてまいりたい。
※第213回国会・参議院・国土交通委員会・会議録第18号・令和6年6月6日・11ページを基に作成