一般2025年09月05日 高校野球の出場辞退は妥当か 執筆者:堀田裕二

もちろん、部活動において、部員間で暴力が行われることは許されることではない。ましてやそれが部活動全体に及ぶ問題であったり、寮内全体の問題であったりするのであれば、これは単に部員個人の問題にとどまらず、抜本的に解決が求められることである。
他方、部員間での暴力などの不適切行為によって、関与していない部員も含め、高校野球において最も大きな大会である夏の甲子園を出場辞退するということは当然に求められるものではない。
この点について、加害生徒は4名であるという認定であり、寮内での事象であることから、野球部としての違反行為であるという認定もあり得たかと思えるが、仮にそうであったとしても、対外試合禁止処分は同じ1か月を基準とすることになり、少なくとも3月に処分がなされれば、夏の甲子園出場については問題がないということになる。
ここで認定された事実以外の違反行為があったのであれば、別途処分するということは考えられるが、同じ行為について二重に処分はできないこと、別の行為については第三者委員会による調査中であることを考えると、それによる処分もあり得ないということになる。
それゆえ、広陵高校は今回、違反行為に対する事実上の処分としての出場辞退ではなく、SNS上での批判がエスカレートしたことにより生徒などを守るために出場辞退を決めたとしている。
しかし、今回の広陵高校の出場辞退は、選手達アスリートのスポーツをする権利を考えた時に、果たして妥当な判断であったのであろうか。また、今後もSNSでの炎上によるこのようなアスリートの権利侵害に対して、どのように対処するのが適切であるのか、今回の件は非常に重い課題を突きつけたものであるといえるのではないであろうか。
1広陵高校ホームページ令和7年8月6日付「令和7年1月に本校で発生した不適切事案について」
2 広陵高校ホームページ令和7年8月7日付「本校硬式野球部をめぐるSNS上の事案について」
3 日本学生野球憲章
4 日本学生野球憲章違反行為に関する処分基準
5注意・厳重注意および処分申請等に関する規則
6日本学生野球憲章違反行為に関する処分基準「第2 処分基準の基本的な視点」「7 部員の憲章違反行為に対する『注意・厳重注意』、『処分』および付随した『指導・措置』の運用内規の整備」※2025年4月1日施行
(2025年8月執筆)
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執筆者

堀田 裕二ほった ゆうじ
弁護士/アスカ法律事務所パートナー
略歴・経歴
【経歴】
平成17年10月 大阪弁護士会登録 アスカ法律事務所入所
平成23年 1月 アスカ法律事務所 パートナー
公益財団法人日本スポーツ仲裁機構 スポーツ仲裁人・調停人候補者
一般社団法人奈良県サッカー協会 常務理事
OCA大阪デザイン&IT専門学校eスポーツ学科 講師
日本スポーツ法学会理事・事務局長
大阪弁護士会スポーツ・エンターテインメント法実務研究会世話役
日本スポーツ協会スポーツ少年団協力弁護士等
【主な取扱い分野】
インターネット、コンピュータに関連する法律問題
スポーツ(eスポーツ含む)・ファッションビジネスに関連する法律問題
【書籍】
「eスポーツの法律問題Q&A」 (共著・eスポーツ問題研究会編)民事法研究会
「スポーツの法律相談」 (共著・菅原哲朗・森川貞夫・浦川道太郎・望月浩一郎 監修)青林書院
「発信者情報開示請求の手引」 (共著・電子商取引問題研究会編)民事法研究会
「スポーツガバナンス実践ガイドブック」 (共著・スポーツにおけるグッドガバナンス研究会編)民事法研究会
「スポーツ界の不思議 20問20問」 (共著・桂充弘編)かもがわ出版
「Q&A スポーツの法律問題(第4版)」 (共著・スポーツ問題研究会編)民事法研究会
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