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一般2025年09月05日 高校野球の出場辞退は妥当か 執筆者:堀田裕二

1 2025年、第107回全国高校野球選手権大会(夏の甲子園)において、広島県代表として出場していた広陵高校が1回戦終了後、2回戦への出場を辞退するということになった。

2 発端となったのは、2025年1月22日に発生した部員間の暴力を伴う不適切な行動があったことによるものである。広陵高校は、当該行為について、同年2月14日までに調査をした上で、関係者に対する指導と再発防止策の策定をした。そして、同年3月5日、公益財団法人日本高等学校野球連盟(高野連)の審議委員会により、高野連会長名による厳重注意と対象となった部員の1か月間の選手登録資格の停止の処分がなされた 。1

3 それに対し、被害を受けたとされる元部員の保護者などがSNSで調査の事実誤認とさらなる被害を訴えたことから、この情報が拡散し、大きな反響があり、生徒が登下校時に追いかけられたり、寮の爆破予告があったりしたことなどから、出場辞退を決めたとされている。

4 この点、学校側は、元部員の保護者の要望に応じて、2025年6月、文部科学省の定めるガイドラインに従って、第三者委員会を設置し調査を進めているとしている 2

5 では、広陵高校は出場辞退をすべきであったのか、本件の問題点は何だったのであろうか。
 もちろん、部活動において、部員間で暴力が行われることは許されることではない。ましてやそれが部活動全体に及ぶ問題であったり、寮内全体の問題であったりするのであれば、これは単に部員個人の問題にとどまらず、抜本的に解決が求められることである。
 他方、部員間での暴力などの不適切行為によって、関与していない部員も含め、高校野球において最も大きな大会である夏の甲子園を出場辞退するということは当然に求められるものではない。

6 この点、高野連は、日本学生野球協会が定めた日本学生野球憲章3 、日本学生野球憲章違反行為に関する処分基準4 及び注意・厳重注意および処分申請等に関する規則(日本高等学校野球連盟)5 を定め、暴力行為等の不祥事などがあった際の処分に関する基準を定めている。

7 それによれば、「学生野球は、一切の暴力を排除し、いかなる形の差別をも認めない。」(日本学生野球憲章(憲章)第2条⑤)とし、暴力行為は憲章違反となる。そして、部員の憲章違反行為に対しては、部員個人の違反行為として評価される場合は、憲章第26条に基づき、注意・厳重注意 (同条1項)とし、付随的指導(同条4項)として大会に出場させない措置を認める。そして、部員個人の違反行為にとどまらず、部全体の違反行為と評価される場合には、憲章第27条に基づいて処分がなされ、その処分は憲章第28条により、①謹慎、②対外試合禁止、③部員登録抹消・部員登録資格喪失、④除名の処分がなされることになる6 。そして、2025年4月1日に施行されたものではあるものの、「日本学生野球憲章違反行為に関する処分基準」によれば、「部員の憲章違反行為に対する処分の原則」として、付随的指導の場合の選手登録資格の停止の期間及び部活動の対外試合禁止の期間は1か月を基準とし、加重を行う場合でも3か月を超えない期間とするとされている。

8 本件では、広陵高校に対し、2025年3月5日に厳重注意と部員の1か月間の選手登録資格の停止の措置がなされたとされており、憲章第26条に基づく処分がなされた、すなわち、野球部としての違反ではなく部員の違反行為として評価された結果、処分がされたものと考えられる。
 この点について、加害生徒は4名であるという認定であり、寮内での事象であることから、野球部としての違反行為であるという認定もあり得たかと思えるが、仮にそうであったとしても、対外試合禁止処分は同じ1か月を基準とすることになり、少なくとも3月に処分がなされれば、夏の甲子園出場については問題がないということになる。
 ここで認定された事実以外の違反行為があったのであれば、別途処分するということは考えられるが、同じ行為について二重に処分はできないこと、別の行為については第三者委員会による調査中であることを考えると、それによる処分もあり得ないということになる。
 それゆえ、広陵高校は今回、違反行為に対する事実上の処分としての出場辞退ではなく、SNS上での批判がエスカレートしたことにより生徒などを守るために出場辞退を決めたとしている。

9 繰り返すが、暴力行為は許されるものではなく、高校野球において長らく寮内での暴力行為や暴力的体質は問題視されていたものであり、それは徹底的に排除されるべきものである。
 しかし、今回の広陵高校の出場辞退は、選手達アスリートのスポーツをする権利を考えた時に、果たして妥当な判断であったのであろうか。また、今後もSNSでの炎上によるこのようなアスリートの権利侵害に対して、どのように対処するのが適切であるのか、今回の件は非常に重い課題を突きつけたものであるといえるのではないであろうか。

1広陵高校ホームページ令和7年8月6日付「令和7年1月に本校で発生した不適切事案について」
2 広陵高校ホームページ令和7年8月7日付「本校硬式野球部をめぐるSNS上の事案について」
3 日本学生野球憲章
4 日本学生野球憲章違反行為に関する処分基準
5注意・厳重注意および処分申請等に関する規則
6日本学生野球憲章違反行為に関する処分基準「第2 処分基準の基本的な視点」「7 部員の憲章違反行為に対する『注意・厳重注意』、『処分』および付随した『指導・措置』の運用内規の整備」※2025年4月1日施行

(2025年8月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

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執筆者

堀田 裕二ほった ゆうじ

弁護士/アスカ法律事務所パートナー

略歴・経歴

【経歴】
平成17年10月 大阪弁護士会登録 アスカ法律事務所入所
平成23年 1月 アスカ法律事務所 パートナー

公益財団法人日本スポーツ仲裁機構 スポーツ仲裁人・調停人候補者
一般社団法人奈良県サッカー協会 常務理事
OCA大阪デザイン&IT専門学校eスポーツ学科 講師
日本スポーツ法学会理事・事務局長
大阪弁護士会スポーツ・エンターテインメント法実務研究会世話役
日本スポーツ協会スポーツ少年団協力弁護士等

【主な取扱い分野】
インターネット、コンピュータに関連する法律問題
スポーツ(eスポーツ含む)・ファッションビジネスに関連する法律問題

【書籍】
「eスポーツの法律問題Q&A」 (共著・eスポーツ問題研究会編)民事法研究会
「スポーツの法律相談」 (共著・菅原哲朗・森川貞夫・浦川道太郎・望月浩一郎 監修)青林書院
「発信者情報開示請求の手引」 (共著・電子商取引問題研究会編)民事法研究会
「スポーツガバナンス実践ガイドブック」 (共著・スポーツにおけるグッドガバナンス研究会編)民事法研究会
「スポーツ界の不思議 20問20問」 (共著・桂充弘編)かもがわ出版
「Q&A スポーツの法律問題(第4版)」 (共著・スポーツ問題研究会編)民事法研究会

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