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一般2026年02月04日 健やかな弁護士生活を送るために④ 私の仕事術(受任時の工夫) 執筆者:冨田さとこ

駆け出しの弁護士や司法修習生、ロースクール生と関わることが増えています。自分の修習時代等を振り返ると、事務所訪問をさせてもらってもお礼のメール1つ送らず、弁護士1~2年目は「公設」と名の付く事務所であれば都内・過疎地を問わずに遊びに行き、時には愚痴まで聞いてもらい、たくさんの先輩に迷惑をかけていました。いま出会う折り目正しい若者と、「あの頃の自分」を比べると恥ずかしいばかりですが、彼らの悩み自体は、自分が苦しんだこととあまり変わりません。あの頃の無礼な自分の罪滅ぼしに、今回は、受任時の工夫について書いてみようと思います(なお、町弁的な仕事に限る)。

まず、事件の性質で考えると、①刑事事件は、受け身であるため、先を見据えて準備をしておかないと後手に回って、時には取り返しのつかないこともあります。これを避けるためには、手続を予想して、先へ先へと必要な防御を検討しておく必要があります。②債務整理・民事事件は、自分で手を動かさないと進みません。受任したら、忘れずに着手をして、どこにボールがあるか把握しておくことが必要です。さらに、③債務整理は、負債総額と依頼者の支払能力を把握すれば自ずと方針は絞られますが、④民事事件は着手した後に方針が揺れ動くことが少なくありません。

どの事件類型にも言えるのは、「最初が一番大変」ということです。刑事であれば、釈放や見込みをたくさん聞かれて、「証拠開示も受けていないのに処分の見込みなんて分からないよ!!」と心の中で叫びながらも、敢えて落ち着いた様子で想定されるシナリオを場合分けして説明して、検察官や関係者に連絡して状況把握に努めます。やっと少し先が見えてきて、それを説明しようと再度接見に行くと、被疑者の頭の中は勾留のことでいっぱいで、「早く出して」と繰り返される…、というのが被疑者国選を受けた直後によく苦しむことです。債務整理や民事事件も、弁護士に依頼するのが初めてだという(ことの多い)依頼者に1から10まで説明して不安を軽減しつつ、基礎となる事実関係を把握して、事件の見込みを説明して、契約書をまいて、何が何やら分からない資料をたくさん預かることになります。

複数の事件の初期対応が重なると、「電話をかける先がたくさんだ…、預かった資料も整理しなきゃいけないけど、そうだ、民事法律扶助の申込もしなければ…、債務整理の受任通知は事務員に頼もう…、あっ…!!個人債権者の連絡先に記載漏れがある…」などという事態に陥ります。

「あれもこれも」という状況にパニックになってしまいそうですが、その時は思い出してください。「最初が一番大変(たぶん)」。これを過ぎれば、少なくとも事務処理のタスクは減るはずです。さらに、この初期対応をしっかりやっておくと、少なくとも民事事件では後がずいぶん楽になります。

訴訟を起こした場合の相手方からの抗弁を見据えて事情を聴取し、時系列を整理して、メモに残しておきましょう。そのメモは、後々までずっと役に立ちます。忘れられないのは、十数年前に同期の仲間が、同じ支部に赴任した裁判官から言われていた「〇〇弁護士は、弁論準備の直後に準備書面が出てきていた。抗弁や釈明まで予想して事情聴取をして訴訟に臨んでいるからだと思う。あれは素晴らしい」という言葉です。その境地にはとても至っていませんが、事案の概要や予想された争点、そこで使える証拠などをまとめたメモは、いつも頭の整理に役立ちます。さらに、記録の最初に綴じておくと、突然の相手方からの電話にも的確に対応できます(法テラスへの申込にも使えますし、私の場合、いまは外国人の依頼者しかいないので、彼らの在留期限も書き込んで、見落としのないようにしています)。

なお、初回相談で受任するのは債務整理だけにして、民事・家事なら受任までに最低でも2回は相談ないし打ち合わせをすることをお勧めします。頭に血が上って相談に来た方は、とにかく弁護士に依頼したいと思っていますが、時間が経つと熱が冷めることがあります。また、弁護士側も、事件の見込みを具体的に伝えきれず、「これは可哀そうだ」と方針を明示せずに受任してしまうことがあり、後のトラブルの原因となります。受任の前の打ち合わせは、依頼者と弁護士の双方にとって、委任の範囲を明確にし、現実的な解決見込みについて双方の意識をすり合わせる最大のチャンスです。最初の相談で「見切った」と思っても、相手のためにも一度冷却期間を置いて、委任前に質問を出し尽くさせるべきです。そこで依頼事項を具体化しておくことは、弁護士側の身を守ることにも繋がります。

着手後に方針が動くことのない事件については、受任後の初期対応のうちに、事案概要のメモだけでなく、終了までのタスクを具体的に記載した工程表を作ってしまうことをお勧めします。例えば、公正証書遺言を作成する場合や、争いの少ない事案で家事審判を取る場合、相続財産管理人として財産を調査して配当する場合、特別代理人を選任して債務名義をとって執行まで進める場合などが考えられます。財産や相続人に係る書類を集めて、揃ったところで淡々と申込等を行っていく…。当たったことのない事件でも、初期対応の時点でよく調べてタスクに落として、その段階で工程表を作ってしまえば、同じことを何回も調べる手間が省けて、効率的に事件処理を進められます。

そうやって作った時間を、着手後に方針が揺れる事件をしっかり検討するために、いつ入ってくるか分からない刑事事件のために、あるいはよく遊んで休養をとるために使う…、これが理想だと思います(なかなか理想通りにはいきませんが)。

(2026年1月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

執筆者

冨田 さとことみた さとこ

弁護士

略歴・経歴

【学歴】
2002年(平成14年)11月 司法試験合格
2003年(平成15年)3月 東京都立大学法学部卒業
2013年(平成25年)9月 Suffolk大学大学院(社会学刑事政策修士課程(Master of Science Crime and Justice Studies))修了

【職歴】
2004年(平成16年)10月 弁護士登録(桜丘法律事務所(第二東京弁護士会))
2006年(平成18年)10月 法テラス佐渡法律事務所赴任
2010年(平成22年)3月 法テラス沖縄法律事務所赴任
2015年(平成27年)9月 国際協力機構(JICA)ネパール裁判所能力強化プロジェクト(カトマンズ、ネパール)チーフアドバイザー
2018年3月~現在 日本司法支援センター(法テラス)本部
2020年7月~現在 法テラス東京法律事務所(併任)
※掲載コラムは、著者個人の経験・活動に基づき綴っているもので、新旧いずれの所属先の意見も代表するものではありません。

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