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一般2023年03月15日 私の「スター弁護士」たち 執筆者:冨田さとこ

私には、全国に数百人の頼れる仲間がいます。それは、法テラスの常勤弁護士(通称スタッフ弁護士、「スタ弁」)と、その卒業生たちです。今回は、そんな仲間たちの最近のエピソードをいくつかお伝えします。

72期のNさんは、東大を出てメガバンクに勤務していましたが、司法試験を受けて50代で弁護士になりました。法テラスのスタ弁になったのは、「今までと全く違うことをしたい」と思ったからだそうです。ご家庭の事情で地方への赴任が遅れ、東京に2年間とどまらざるを得なかったため、私のいる国際室の手伝いをしてくれるようになりました。それまで彼の周囲にいた人と、私たちは、おそらく全く違うのでしょう。当初は、紹介した初対面の弁護士に「大学はどこですか?」と聞いてしまうNさんに面食らいました。でも、仕事と相談者に向き合う真剣さと、業務量をものともしない強さ、空き時間は専門書などを貪るように読み込む熱心さに、あっという間に頼りにするようになりました。

Nさんは、相談者が困窮を極め、弁護士としても手数が増えるため、誰も受けたがらない事件を、「これこそが法テラスの事件ですよね!」と嬉しそうに受任して駆け出していきます。妊娠を理由に解雇されてしまった外国女性のために、Nさんは区役所と交渉して生活保護を受給できるようにしました。当該女性のもつ在留資格は、「永住」や「定住」のように生活保護が出やすい類型ではなかったので、嬉しい驚きでした。

勤務先でのパワハラが原因で3年間失踪していた元技能実習生は、Nさんの支援により、紆余曲折を経て、短期間の一時帰国を挟んで再び日本で働くことができるようになりました。父親の過去の違法行為が原因で在留資格を失ってしまった外国籍の高校生は、Nさんが、1年以上粘り強く熱心に支援した結果、正規の在留資格を得て、本人が希望していた大学進学を叶えることができました。

国際室を立ち上げて間もない時期から約2年間、私の横で一緒に仕事をしていたNさんは、この春地方に旅立ちます。法テラスの常勤弁護士のいいところは、全国異動する中で、各地の特徴に触れられることができることです。赴任先でNさんに救われる人がたくさんいることを確信する一方、私は心細くなっています。

73期のHさんは、司法修習後短期間別の事務所に勤めたあとに、法テラスの常勤弁護士になりました。Nさんと真逆で、20代で「社会人1年生かつ弁護士1年生」という雰囲気を隠せないHさんを、ボランティアのコロナ電話相談に連れて行きました。様々な職種の専門家が一堂に会する相談会場で、Hさんは緊張しながら、とても優しくゆっくりと相談者の話を聞いています。電話をかけてくる方の中には、コロナ禍で孤独を募らせて「話したい」という気持ちが大きい方が一定数いるため、こういう方はHさんの優しさに救われたと思います。気が付くと、Hさんの周りを、長年生活困窮者の支援に携わってきた歴戦の大先輩たちが取り囲んで、目を細めて「フレッシュな様子」をニコニコと眺めるという図式が出来上がっていました。

Hさんは、昨年春に地方に赴任しました。その先で、最近難しい事件を受任したようです。私の席の横には、スタ弁の業務を支援する部署(支援室)があるのですが、そちらにHさんから内線がかかってきました。電話を受けたのは、スタ弁卒業生のK弁護士。支援室では、Kさんを含む、ひまわり公設や法テラスの卒業生が、シフトを組んで、スタ弁たちから電話やメールで相談に乗ってくれているのです。

Hさんが直面している困難は、事件処理の方針について相談するだけでは解決しない種類のものだったようです。話を聞いたK弁護士は、Hさんが赴任している地域に定着している、やはり元スタ弁のS弁護士に連絡をして、Hさんの支援を依頼します。Sさんは、全くお金にならない事件にも関わらず、またHさんと面識もないのに、「後輩」が困っていると聞いて、2つ返事でHさんとの共同受任を引き受けてくれました。3人全員と面識のある私は、勝手に嬉しくなってしまいました。

最後は、法テラス開設から2年ほどしてスタ弁に加わったT弁護士。Tさんは、赴任した地方で任期を全うしたあと、彼の地で独立開業して、地元の方たちの法的支援に尽力しています。最後に直接会ったのは十数年前ですが、Tさんらしく、誰に対しても妥協せずにお金のない人の支援に取り組んでいる様子にはSNSなどで触れていました。

ある日、私のもとに、都内のある子ども食堂の主催者から連絡が入りました。「T先生という方に会いました!!冨田さんのことを知っていて、『あの人は僕の同志みたいな人ですよ』と言っていましたよ!」。最近、Tさんが東京に法律事務所の支店を作ったことは聞いていました。でも、まさか、早速支店周辺の福祉ネットワークに地道に足を運んで、関係を築いているとは思ってもみませんでした。自他ともに認めるひねくれもののTさんからの「同志」は、私にとって最上級の誉め言葉です。

全国にいる私の「同志」たちは、現役も卒業生も、引き受け手のない法律相談について私が連絡をすると「もう、仕方ないなぁ」なんて言いながら引き受けてくれます。最近、ある人から、「スタ弁って、スター弁護士の略なのかなと思っていました」と冗談交じりに言われました。その方は言葉の響きだけでそう思ったようなのですが、私にとっては、全国に赴任する仲間とその卒業生は、間違いなく困っている人の「スター弁護士」です。

(2023年3月執筆)

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執筆者

冨田 さとことみた さとこ

弁護士

略歴・経歴

【学歴】
2002年(平成14年)11月 司法試験合格
2003年(平成15年)3月 東京都立大学法学部卒業
2013年(平成25年)9月 Suffolk大学大学院(社会学刑事政策修士課程(Master of Science Crime and Justice Studies))修了

【職歴】
2004年(平成16年)10月 弁護士登録(桜丘法律事務所(第二東京弁護士会))
2006年(平成18年)10月 法テラス佐渡法律事務所赴任
2010年(平成22年)3月 法テラス沖縄法律事務所赴任
2015年(平成27年)9月 国際協力機構(JICA)ネパール裁判所能力強化プロジェクト(カトマンズ、ネパール)チーフアドバイザー
2018年3月~現在 日本司法支援センター(法テラス)本部
2020年7月~現在 法テラス東京法律事務所(併任)
※掲載コラムは、著者個人の経験・活動に基づき綴っているもので、新旧いずれの所属先の意見も代表するものではありません。

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