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一般2020年08月04日 新型コロナウイルス対応の電話相談を受けて 執筆者:冨田さとこ

新型コロナウイルスが、社会の様々な側面を変容させている。リモートワークをはじめとする働き方改革が促進されたというプラスの効果もある一方、やはりその多くは人々の生活を追い詰める「災害」としての影響だろう。私は5~7月、1か月に1回の頻度でコロナの影響に苦しんでいる人たちの電話相談会に参加した。ここで出た相談から考えたことを書いてみたい。
相談の中に一定割合を占めるのは、新設された経済的支援策に関するものだった。曰く「生活保護を受け取っていても、定額給付金は受け取れるのだろうか」「私は持続化給付金の対象だろうか」等々。行政の窓口が問合せ対応にパンクしていたため、こちらにかけてきたという人もいた。生活保護を受給しても受け取ることができることを説明するとほっとした声がする。持続化給付金の要件を見ながら、その人の経済状況を確認し、経済的に切迫していない人であれば、行政窓口が設置したホットラインが空くまで少し時間をおいて連絡するようにアドバイスした。
行政のウェブサイトだけでなく報道でも、各種支援メニューは分かりやすく一覧として提示されていた。通常の政府の施策よりも多くの分かりやすい情報が目に付く状態にあったように思う。それでも、「私はどの制度を使えるのだろう」「この制度が使えると思うが正しいか」と確かめたい人が多いことが印象的だった。切羽詰まっている人はメニューを総覧して自分に当てはまる制度を探す余裕がないだろうし、見つけることができても自分が使えるかどうかまず確認してから申請したいのだろう。東日本大震災の支援に当たった人が「被支援者が使える制度をこちらが選んで、オーダーメイドとして提示しなければならない」と言っていたことを思い出した。
「休業手当が全く支払われていない」「コロナを理由に整理解雇されたが、周囲を見れば自分しか解雇されていない。口実に切られたとしか思えない」といった、使用者側の労働基準法違反が窺われる相談も複数あった。こういった相談には個人で加入できる労働組合の連絡先や、労働弁護団のホットライン、労働基準監督署の相談先を伝えた。職場に労働組合があれば、おそらく彼らが個別に苦しむことはなかったと思われる。
また、仮に平均賃金の6割である休業手当を支払われていても、それでは生活ができないという人もいた。振り込まれた手取りの休業手当は12万円、そこから家賃9万円を支払ったら、生活費として残るのはごく僅かといった内容だった。こういった人にも、組合に加入して会社側に10割を支払うよう交渉することが可能だとアドバイスした。
私は弁護士登録をして15年余りになるが、労働組合が日本社会で大きなプレゼンスを発揮する場面はあまり見てこなかった。組合の名前を耳にするとしたら、毎年の春闘のぱっとしない賃上げ交渉。社会人としては、超就職氷河期と呼ばれる時期に就職活動をした、いわゆる「ロスジェネ世代」だが、同世代で組合の話を聞くのは裁判所職員くらいだった。
この間、景気が上向いても企業は内部留保を優先し、平均賃金は遅々としてあがらず、先進国の中でもっとも低水準の最低賃金という実情になった。コロナの電話相談を受けていると、普段から賃金が低いために預金をする余裕がなく、休業による影響で給与が減ったり、あるいは支払われなかったりしたために、すぐに生活が行きづまる人が数多くいるという現実を突きつけられた。
もし、私たちが「ロスジェネ世代」の社会人として過ごしてきた20年の間、労働組合が活力を保っていたら、いまここにある現実は違ったものになったのだろうかと思わざるを得なかった。ユニオンへの相談も増えていて、あちこちで新しい労働組合ができていると聞いた。コロナの影響で労働組合が息を吹き返し、プレゼンスを見せて、最低賃金を上げるなど労働者の置かれた現状全体を変えることができるなら、リモートワーク以外の数少ないポジティブなコロナの影響と言えるのかもしれない。
(2020年7月執筆)

執筆者

冨田 さとことみた さとこ

弁護士

略歴・経歴

【学歴】
2002年(平成14年)11月 司法試験合格
2003年(平成15年)3月 東京都立大学法学部卒業
2013年(平成25年)9月 Suffolk大学大学院(社会学刑事政策修士課程(Master of Science Crime and Justice Studies))修了

【職歴】
2004年(平成16年)10月 弁護士登録(桜丘法律事務所(第二東京弁護士会))
2006年(平成18年)10月 法テラス佐渡法律事務所赴任
2010年(平成22年)3月 法テラス沖縄法律事務所赴任
2015年(平成27年)9月 国際協力機構(JICA)ネパール裁判所能力強化プロジェクト(カトマンズ、ネパール)チーフアドバイザー
2018年3月~現在 日本司法支援センター(法テラス)本部
2020年7月~現在 法テラス東京法律事務所(併任)
※掲載コラムは、著者個人の経験・活動に基づき綴っているもので、新旧いずれの所属先の意見も代表するものではありません。

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