一般2024年09月24日 健やかな弁護士生活を送るために③(研修所教官からの教え) 執筆者:冨田さとこ
「同期の友人を大切にしなさい。残念ながら懲戒や不祥事で法曹を辞めていく人が一定数いる。一緒に学んだ同期の仲間に顔向けできる仕事かどうかを考えなさい。特に弁護士は誘惑の多い仕事です。困ったり迷ったりしたら、同期に相談しなさい。」司法修習の弁護教官の言葉です。
最近、司法研修所57期の卒業20周年記念のパーティーに参加しました。教官も含め540名余りが参加する全体会は懐かしい顔にあふれ、その後のクラス別懇親会では、1人1人の近況報告を聞けて、とても楽しい一日でした。ロースクールが産声を上げる前の私たちの修習は、前期・実務・後期に分かれていて、司法研修所に集まって3か月間主に座学をしたのち、各地で1年間の実務修習を受けて、最後に再び司法研修所に3か月間集まるというものでした。毎日の新しい経験に心を奪われるばかりだった私は、教官に頻繁に呼び出されては「落ち着け。ちゃんと勉強しろ」と諭されるダメ修習生でした。当時を思い出すと赤面することばかりです(SNSが無い時代でよかった。同期のみんなが早く忘れてくれますように)。それでも、何とか二回試験に合格して研修所を卒業する時に、弁護教官が私たち70余名のクラスメートの前で話してくださったのが、冒頭の言葉です。
弁護士は名称も業務も独占できる資格で、強い力(と、それに伴う社会的責任)を持っています。即ち、うまく使えばお金になる。一方で、事務所を経営していく責任や、家族を守っていくために、自営で一定の収入を得るプレッシャーに晒されています。そこに付け込んでくる業者の餌食にならないように伝えてくださったのだと、非弁提携で身を持ち崩した方の話を聞くたびに思い出します。弁護士としてのほとんどの期間を給与所得者(あるいは実質的に無職)として過ごしている私は、ダイレクトに非弁提携の誘いを受けたことはありません。ただ、横で見ていて「危ない」と思ったケースはあります。
ある時、裁判所から破産管財人就任の依頼がありました。応諾して記録を見てみると、給与所得者の自己破産。弁護士代理もついていて、大きな浪費がある訳でもなく、なんの変哲もない事件です。当時、その地裁の基準では通常なら同時廃止となるもので、管財人を付ける意味がよく分からないと首をひねりながら仕事を始めました。
怪しい雰囲気を感じ始めたのは、郵便物の転送がかけられたあとに、「管財人からの質問に対する想定問答集」が届いてからです。詳しくは覚えていませんが、申立人からしっかり事情を聴きとって打合せの上で作成したものとは思えず、ともすれば手続を「スムーズに」進めるために事実と異なる回答をうながすような代物でした。申立代理人の事務所について調べてみると、借金の整理について大きな広告を出している割に登録弁護士はわずか2~3人でした。ベテラン弁護士である申立代理人は、遠隔地であることを理由に面談に同席せず、私が電話をしてもいつも不在で、事務員を通じた伝言が返ってくるだけでした。申立人本人に聞くと、電話で依頼をして書類を送っただけで、代理人には一度も会ったことがないとのことでした(今なら、日弁連の「債務整理事件処理の規律を定める規程」第3条に違反します)。
仕方がないので、自分が申立代理人だったら見落としていることがないか…という点にも気を付けながら処理を進めました。そして、債権者集会の日に現れたのは、申立代理人であるベテラン弁護士のもとに就職したばかりの新人弁護士でした。債権者集会自体は滞りなく進みました。手続が一通り終わり、もはや管財人として便宜をきかせるような余地もなくなったあと、裁判所の出口で新人さんをつかまえて、「大丈夫?」と声をかけてみました。すると、「誰にも言えなかった」と、自分が入所してから先輩が次々と辞めていき、事務所内の弁護士はボスと2人になったこと(危ない事務所あるある)、事務職員から仕事の指示をされていることに強く不安を感じていることを話してくれました。私にできたのは、「弁護教官に相談してみなよ。あとさ、困った時は同期に話せばいいんだよ」と伝えることだけでした(完全なる受け売り)。その後、彼は教官の紹介で別の事務所に転職し、それから間もなく、ベテラン弁護士は非弁提携で業務停止となりました。
20年前、私にとっての司法研修所の教官は、大先輩で自分の未来の先に重ねてみることなんて想像もできない先達でした。いま、あの頃と大して変わらない自分の周りで、同期の弁護士が教官を務めています。彼らに混ざって修習生と飲みに行ったりすると、その前途の安全を祈願するような気持ちになります。乾杯しただけの私でもそうなるので、修習生の近くで応援する教官は、もっと強く修習生たちの幸せを祈っているはずです。司法研修所を卒業したら、同期の顔を思い浮かべつつ、困った時は教官に相談しちゃいましょう。もちろん、ロースクールの教官にも!
(2024年9月執筆)
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執筆者
冨田 さとことみた さとこ
弁護士
略歴・経歴
【学歴】
2002年(平成14年)11月 司法試験合格
2003年(平成15年)3月 東京都立大学法学部卒業
2013年(平成25年)9月 Suffolk大学大学院(社会学刑事政策修士課程(Master of Science Crime and Justice Studies))修了
【職歴】
2004年(平成16年)10月 弁護士登録(桜丘法律事務所(第二東京弁護士会))
2006年(平成18年)10月 法テラス佐渡法律事務所赴任
2010年(平成22年)3月 法テラス沖縄法律事務所赴任
2015年(平成27年)9月 国際協力機構(JICA)ネパール裁判所能力強化プロジェクト(カトマンズ、ネパール)チーフアドバイザー
2018年3月~現在 日本司法支援センター(法テラス)本部
2020年7月~現在 法テラス東京法律事務所(併任)
※掲載コラムは、著者個人の経験・活動に基づき綴っているもので、新旧いずれの所属先の意見も代表するものではありません。
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