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民事2021年03月16日 弁護士の独立と法律扶助 執筆者:冨田さとこ

「民事法律扶助も刑事国選も9割以上のお金が政府から支出されているのでしょ?それでどうやって弁護士自治を守れるの?」「行政と『連携して』仕事をしていると言うけれど、それで依頼者の権利を守れるの?」国内外の法律家に、私がこれまで携わってきた仕事について話をする機会をいただくことがあります。前者は諸外国の弁護士と話しているときに、後者は日本の弁護士と話している時によく聞かれる質問です。

私は、前者に対しては「総合法律支援法は33条で契約弁護士等の独立をうたっています。法テラスが事件処理に介入することはできません。」と答え、後者に対しては「連携は相談者・依頼者の利益のためのものです。個別案件で対立しなければいけない時に妥協はしません。常勤弁護士も行政訴訟を起こせますし、起こしていますよ。」と答えます。

答えながら、個別の事件処理に介入しないことだけで足りるのだろうかと考えます。弁護士の独立・自治は、個人の権利が伝統的に権力(あるいは国家)によって侵害されてきたことから、依頼者の権利を守る弁護士が、まず権力から独立している必要があるという考えに由来します。法律扶助という枠組みの中での独立を制度的に保障するのに重要なのは、お金です(組織の中にいる弁護士にとっては、お金と人)。

2009年頃にアメリカに視察に行った時、連邦政府が支出する民事法律扶助基金を受け取れる団体は各州に一つと決められていることを知りました。連邦政府支出の資金を受け取ると不適法移民等の支援ができなくなるからと、敢えて連邦政府資金を受け取らないという選択をしている法律扶助団体に複数出会いました。

2014年頃に視察に行ったカナダでは、予算を削られた法律扶助団体が苦肉の策として設置した、裁判所内のカウンタースペースを見学しました。そこには弁護士が常駐し、代理人のいない当事者が裁判所にくると、出廷ごとに、書面作成や法廷での弁論をその場限りでサポートしていました。そして、ベテランの弁護士達は、当然のごとくこれを苦々しく思っていました。

過去には法律扶助に多額の公的資金を投入し、GDPに扶助予算の占める割合を競い合っていたヨーロッパ諸国も、長引く不況で扶助予算の削減に直面しています。ある国際会議では、法律サービス提供のコストを抑える工夫として、当事者が自分で法律書面を作れるコンピューターソフトの開発が報告されていました。また、法律扶助の対象が、複数の法律問題を抱えて危機的状況に陥った人に限定されてしまったという話も報告されていました。

さて、今なぜこんなことを書いているのか。最近、あるオンライン研修で、ミャンマーから参加した若い法律家が、法律扶助の予算を政府から獲得しながら弁護士の独立を制度的に担保する方法論を、周囲の参加者と懸命に議論しようとしていたからです。「それは私の国に当てはめるとどういうことですか?」という彼女の問いに、「それを考えるのは私?あなたのほうでは?」と、戸惑いを覚えました。でも、その数日後に起きたミャンマーのクーデターを受けて、あの質問は強い逼迫感・危機感の発現だったのかもしれないと思いました。

また、今年の司法試験の受験者数の少なさを嘆いた日本の政治家が、法曹離れを防ぐためには「検事は公益のために起訴を行い、裁判官は一部原発判決のような偏向した判決を出さず、弁護士は反政府的な活動を」しないで「国民の期待を担う」ことが必要と書いているのを目にしたからです。

権力が人権を侵害してきた歴史をさておいても、行政が、その性質上、最大多数の最大公約数的な幸福を目指すのに対して、司法はそこから漏れてしまった個人を掬い上げる役割があるはずです。具体的な個人の権利を守ろうとするとき、あるいは憲法が示す高度な価値を埋もれさせないために、法律家は(弁護士だけではなく)、時として政府・行政と対峙する必要があります。そこを粋に感じて法曹になっている人も多いはずで、こんなことは言わずもがなだと思っていたのですが、そうではないのかもしれません。

それならば説明しなければならない。そんなことを考えているうちに、この原稿の締切が近づいてきました。「良いものは往々にして失ってからその価値に気付く」と言います。弁護士の独立を担保することの重要性を、その目的が市民の権利を守るためであることも含めて、常に意識しようと思うのです。ごまめの歯ぎしりにすぎませんが。

(2021年2月執筆)

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執筆者

冨田 さとことみた さとこ

弁護士

略歴・経歴

【学歴】
2002年(平成14年)11月 司法試験合格
2003年(平成15年)3月 東京都立大学法学部卒業
2013年(平成25年)9月 Suffolk大学大学院(社会学刑事政策修士課程(Master of Science Crime and Justice Studies))修了

【職歴】
2004年(平成16年)10月 弁護士登録(桜丘法律事務所(第二東京弁護士会))
2006年(平成18年)10月 法テラス佐渡法律事務所赴任
2010年(平成22年)3月 法テラス沖縄法律事務所赴任
2015年(平成27年)9月 国際協力機構(JICA)ネパール裁判所能力強化プロジェクト(カトマンズ、ネパール)チーフアドバイザー
2018年3月~現在 日本司法支援センター(法テラス)本部
2020年7月~現在 法テラス東京法律事務所(併任)
※掲載コラムは、著者個人の経験・活動に基づき綴っているもので、新旧いずれの所属先の意見も代表するものではありません。

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