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一般2020年04月20日 加害の背景にある被害体験 執筆者:冨田さとこ

「自分の過去に直面すると、正しいと思っていたものが、そうでなかったと気づくことがある。それは膝から崩れ落ちるような苦しい体験だ。でも、過去への直面を乗り越えないと本当の反省なんてできない。」「被害体験を含めて、過去を振り返るという大変な作業を通じて、自分の行為の意味を痛感するプロセスが重要だ。その結果、心の内側から湧いてくる責任の取り方が生まれる。」
今年1月に公開されたドキュメンタリー映画「プリズンサークル」のプレイベントで開催されたパネルディスカッションで語られた言葉です。
「プリズンサークル」は、映画監督の坂上香さんがクラウド・ファンディングで資金を募り作成した映画で、島根あさひ社会復帰促進センター(半官半民の刑務所)で、受刑者同士が過去を振り返り話し合う過程を通じて、自らの犯してしまった罪に向き合う様子が描かれています。このプロセスは、Therapeutic Community(TC)と呼ばれるもので、日本語では「治療的共同体」とか「回復共同体」と訳されています。日本の刑務所に受刑者一人一人の背景を描くドキュメンタリーのカメラが入ったこと自体が驚きで、公開後の監督の話では、撮影に至る様々な苦労が語られていました。
この映画を撮影し、それを世に出したことは素晴らしいと思います。多くの人に見てもらいたいとも思います。ただ、個人的には、「プリズンサークル」には、「日本の刑務所の中を垣間見ることができた」ということ以上の衝撃はありませんでした。そこに映し出されていたのは、私たちが刑事弁護(特に国選事件)を通じて、よく出会う人々だったからです。虐待、あるいはそれ以外の理由で辛い幼少期を送り、職場や社会から孤立し、加害に至る前に多くの被害体験を抱える人たち。モザイクのかかった顔の奥に、自分が出会った刑事被告人の顔が浮かびました。
私が「衝撃がなかった」と思うもう1つの理由は、坂上監督が十数年前に作った「ライファーズ」の衝撃があまりに大きかったというのがあります。「ライファーズ」は、アメリカ・カリフォルニア州の刑務所で、殺人などの凶悪犯罪の受刑者が、アミティという団体のもとTCを行い、自分の加害体験だけでなく、その背景にある被害体験(性犯罪被害等)や家族との問題など自分の認知・行動を歪めてしまった原因を探り、また人間として尊重されることを通じて、被害者のことを真摯に考える心の余裕を得たり、人間的に成長したりする様子を映しています。
初めてこの映画を観たとき、殺人を犯した受刑者が被害者のことを考えるまでに長い時間がかかったと語る姿が強く印象に残りました。「裁判の時には被害者のことを考える余裕なんてなかった。向こうも悪いのに、なぜ遺族はこんなに自分のことを責めるのだろうと腹を立てさえした。TCを通じて、自分の人生がおかしくなったきっかけを探り、子供の時に性被害にあったことに向き合った。そのあと、少しずつ被害者・遺族のことを考えることができてきた。」殺人という、強烈な痛みを遺族に与えることが誰の目にも明らかな犯罪でさえ、こんなにも時間がかかるのであれば、事件から間もない刑事裁判の場で語るべき「反省」とは一体何なのか考え込んでしまいました。
坂上さんは、「ライファーズ」の公開後、アミティを何度も日本に招き勉強会を開きます。その活動がやがて法務省矯正局の目に留まり、日本の刑務所でのTC実施に繋がります。「ライファーズ」の受刑者がモザイクなしで、話し合う中での表情の変化が鮮やかに伝わってくるのに対して、「プリズンサークル」に出てくる受刑者の顔にはモザイクがかかっていて、もどかしく感じます。だからこそ、TCが日本で実施され、更にそれを映画として撮影することができるまでの壁の高さが自ずと浮かび上がってきます。
そんな閉鎖的な日本の司法行政でも前に進むことがある。島根あさひでTCが導入された背景には、矯正の現場に携わる人たちが、支援者・当局の彼岸・此岸を問わず「加害者と呼ばれる人の多くは過去に被害者だった経験を持つ」と感じてきたという事実があるように思います。
(2020年3月執筆)

執筆者

冨田 さとことみた さとこ

弁護士

略歴・経歴

【学歴】
2002年(平成14年)11月 司法試験合格
2003年(平成15年)3月 東京都立大学法学部卒業
2013年(平成25年)9月 Suffolk大学大学院(社会学刑事政策修士課程(Master of Science Crime and Justice Studies))修了

【職歴】
2004年(平成16年)10月 弁護士登録(桜丘法律事務所(第二東京弁護士会))
2006年(平成18年)10月 法テラス佐渡法律事務所赴任
2010年(平成22年)3月 法テラス沖縄法律事務所赴任
2015年(平成27年)9月 国際協力機構(JICA)ネパール裁判所能力強化プロジェクト(カトマンズ、ネパール)チーフアドバイザー
2018年3月~現在 日本司法支援センター(法テラス)本部
2020年7月~現在 法テラス東京法律事務所(併任)
※掲載コラムは、著者個人の経験・活動に基づき綴っているもので、新旧いずれの所属先の意見も代表するものではありません。

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