一般2026年02月12日 国際社会に「法の支配」はあるのか 執筆者:政岡史郎

 人類が集団生活を始めてから、力をもって集団を動かす者とそれに従う者に分かれ、いつしか支配・被支配関係となり、その縦関係(支配関係)に秩序をもたらすルールが考案されてきました。
 日本のような民主制国家では、『法の支配』というルールに守られて国民が生活していますが、この『法の支配』とは、横暴を働いて人権を侵害しがちな権力者(総理大臣、自治体の長、立法権を有する議員や権力行使の担当者となる公務員)から国民の人権や自由を守るルールです。日本の憲法では、前半は統治機構(公務員)に対して足かせを科す条項が並び、その後、守られるべき国民の人権が記載されています。
 つまり、権力者であっても『法』の制約を受けるということです。
 これは、形式的に法律であれば良いという「法治主義」(法治国家)とは異なり、権力者すら一定の『法』で縛られるというルールです。その『法』は、国民の選挙を経て選出された議員によって作られるもので、要は民主主義の発露と言えます。
 ここでいう民主主義とは、単純な「多数決民主主義」ではなく、「少数者の声を聴き、可能な限り配慮し、人権侵害を少なくしようとする立憲民主主義」です。その声に配慮しなければ、自由が制約され何らかの処分を下される少数者からすれば「他人の意見を聴かない独裁者による支配」と何ら異なりません。同じ処分であっても、声を聴かない者がする処分と声を聴いたうえで下される処分では全く異なります。
 次に、『法の支配』の下で何かしら自由が制約されるとしても、それは「適正手続」(デュープロセス)によるものでなければいけません。「人権保障の歴史は手続保障の歴史」といわれますが、チェック機能の働く適正な手続を経るからこそ、権利や自由の制約が許されるのです。
 そして、『法』を無視して暴走した権力者に対しては、司法が抑止力を働かせ『法の支配』が形骸化しないようにします。

 それでは、国際社会ではどうなのでしょうか。
 国際社会においても『法の支配』が謳われています。
 しかし、国際社会は主権国家によって成り立っていて、国内のような「支配・被支配」という縦関係とは異なる、いわば横関係です。
 そこに存在するのは、武力や経済力という『力による支配』です。
 ロシアによるウクライナ侵攻は『力による支配』の最たるものですし、アメリカのトランプ大統領も『力による支配』に舵を切っています。
 独裁政権のベネズエラ大統領をアメリカに連れ去るのは国際法違反になります。大義名分として挙げていた『麻薬の密輸がアメリカへの武力攻撃に相当する』もその目的は石油資源にあるように見えます。一方アメリカとしては南北アメリカ大陸に干渉させないモンロー主義という外交方針に沿ったものであると主張するのでしょう。
 次は、グリーンランドの領有です(トランプ大統領は「買収」するつもりだそうです)。これにも本腰を入れる気配で、NATO加盟国デンマークの自治領であるにも関わらず、グリーンランドへの武力攻撃も選択肢から外れていないと発言し、アメリカの行動に非協力的な国には関税を課すとしました。
 「グリーンランドは国家防衛戦略上で必要」ということですが、グリーンランドにも膨大なレアアースが眠っているので、結局、ロシアや中国から守る名目でその利権を獲得することがトランプ大統領の目的なのかもしれません。それは『力による支配』による変更であり『法の支配』によるものであるとはいえません。
 残念ながら、国際社会には国内のような「法の支配」を守るための強制力が存在しません(一応、国連軍というものも制度としては想定されていますが、組織されたことはありません)。
 力で支配しようとするアメリカに対し日本は何をすべきでしょうか。また、『力による支配』が厳然と存在する国際社会の中で、日本は主権国家としてどう立ち回るべきでしょうか。非常に気になる状況になっています。
 *このコラムは2026年1月19日時点の情報を基に作成されています。

(2026年1月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

執筆者

政岡 史郎まさおか しろう

弁護士

略歴・経歴

  H7  早稲田大学卒業、小田急不動産(株)入社
  H13 同社退社
  H17 司法試験合格
  H19 弁護士登録・虎ノ門総合法律事務所入所
  H25 エータ法律事務所パートナー弁護士就任

著書
「ある日、突然詐欺にあったら、どうする・どうなる」(明日香出版社 共著)
「内容証明の文例全集」(自由国民社 共著)
「労働審判・示談・あっせん・調停・訴訟の手続きがわかる」(自由国民社 共著)
「自己破産・個人再生のことならこの一冊」(自由国民社 校閲協力)

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