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民事2024年04月14日 「2人の命無駄にしない」 事故なき社会へ活動続け 変わらぬ愛、原動力に 東京・池袋の暴走事故5年 提供:共同通信社

 東京・池袋で乗用車が暴走した事故から19日で5年を迎える。妻子を亡くした松永拓也(まつなが・たくや)さん(37)は裁判終了後も交通事故防止に向けた活動を続けている。原動力は変わることのない2人への愛。「個人が罰せられておしまいでは同じことが起こり続ける。2人の命を無駄にしないためにも、事故をなくしたい」と前を向く。
 「毎年、桜が咲き始めると苦しくなる」。3月初旬、松永さんはそう話した。沖縄県出身の真菜(まな)さん=事故当時(31)=とは親族の紹介で知り合い2014年に結婚。16年に長女莉子(りこ)ちゃん=同(3)=が生まれた。「僕と結婚しなければ真菜は死なずに済んだ」と自分を責めたこともあったが、そんな時、生前の真菜さんの言葉を思い出した。
 「たく。あなたと一緒に暮らせて、私はもう十分幸せなんだよ」
 松永さんが「2人を幸せにできるかな」と将来への不安を漏らした際、笑いながらかけられたひと言。一緒にいた日々を否定せず、自分と同じ思いをする人を減らすために活動しようと決めた。
 できることは全てやった。21年に刑事裁判は終わり、昨年には損害賠償を求める民事訴訟の判決も確定した。心ない誹謗(ひぼう)中傷を受けることもあるが、各地での講演などさまざまな活動を続ける。自動車運転処罰法の危険運転致死傷罪の要件を分かりやすくするよう国に要望もした。
 心境の変化もある。昨夏には自分が父親だったことが現実ではないように感じ、感覚が薄れていくことに落ち込んだ。だが「変わってしまうのは多くの人に支えられ多様な経験をしたからこそでもある。悪いことばかりじゃない。愛や思い出は消えない」と受け入れられるようになった。
 旧通産省工業技術院元院長の飯塚幸三(いいづか・こうぞう)受刑者(92)に対する思いも変わりつつある。当初原因を車の故障だと主張した受刑者は、21年に初めて過失を認めた。松永さんは受刑者を批判し厳罰を望んだこともあったが、今では高齢者の免許返納が十分に進まない現状自体に目を向けている。
 今年3月には刑務所職員を通じ「命を奪いたくて奪ったわけではないのは分かっている。あなたは日本を支え人々を幸せにしてきた。今回も社会のために立場を超えて一緒に発信しませんか」と伝えた。すると今月、謝罪の意を示す回答が届き、面会希望にも「分かりました」と返答が。うれしかった。「初めて彼と会話ができた気がする」
 時を経ても愛する家族を失った悲しみが消えることはない。2人の物を捨てるのがつらく、共に暮らした都内の家の片付けは途中で止まったまま。7日には現場の横断歩道を初めて渡り、2人の恐怖や無念を想像し、涙した。「こんなに苦しいからこそ、事故は起きちゃいけない」。改めて思いを強くした。
 講演の前には、スマートフォンで必ず莉子ちゃんの写真や動画を見る。松永さんの誕生日に真菜さんと作ってくれたケーキ、水族館で夢中でカメを見る姿、生まれて初めて食べたかき氷がおいしくてニヤッと笑う顔…。いとおしく、力が湧いてくる。今後も活動を続け、いつか自分の命が終わる時、「真菜、莉子、お父さん頑張ったよ」と天国で胸を張って言うつもりだ。そして2人をもう一度抱きしめたい。

東京・池袋暴走事故の経過

 2019年4月19日 東京都豊島区東池袋4丁目で旧通産省工業技術院元院長の飯塚幸三(いいづか・こうぞう)受刑者の車が暴走。松永拓也(まつなが・たくや)さんの妻真菜(まな)さんと娘莉子(りこ)ちゃんが死亡、9人が重軽傷
 9月 遺族が厳罰を求める約39万人分の署名を東京地検に提出
 11月 警視庁が自動車運転処罰法違反(過失致死傷)容疑で書類送検
 20年2月 東京地検が在宅起訴
 10月 東京地裁の初公判で、受刑者が事故原因は車の異常として無罪を主張。遺族は受刑者らに損害賠償を求め提訴
 21年9月 地裁が原因をアクセルとブレーキの踏み間違いと認定し、禁錮5年の判決。後に確定
 10月 東京拘置所に収容された受刑者が初めて過失を認め、遺族らに謝罪するコメントを出す
 23年10月 損害賠償訴訟で地裁が受刑者らに計約1億4千万円の支払いを命じる判決。後に確定
 24年3月 松永さんが法務省の「被害者等心情聴取・伝達制度」を利用。受刑者への思いや質問を刑務所職員に伝える
 4月 受刑者が松永さんに謝罪の意を示す回答

東京・池袋の暴走事故

 2019年4月19日午後0時23分、東京都豊島区東池袋4丁目で、旧通産省工業技術院元院長の飯塚幸三(いいづか・こうぞう)受刑者(92)の車が暴走し、横断歩道を自転車で渡っていた松永真菜(まつなが・まな)さん=当時(31)、長女莉子(りこ)ちゃん=同(3)=が死亡、9人が重軽傷を負った。飯塚受刑者はアクセルとブレーキを踏み間違えたとして自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われ、21年9月に禁錮5年の実刑判決が確定。遺族らが飯塚受刑者らに損害賠償を求めた訴訟では、東京地裁が23年10月の判決で計約1億4千万円の支払いを命じ確定した。

(2024/04/14)

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