企業法務2025年01月21日 仕事と育児の両立に向けて導入される制度 執筆者:矢吹保博

1 はじめに
令和6年5月24日に「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び次世代育成支援対策推進法の一部を改正する法律」が成立し、同月31日に公布されました。改正の目的は、出産育児等による労働者の離職を防ぎ、希望に応じて男女ともに仕事と育児等を両立できるようにすることにあります。
この改正法は令和7年から順次施行されることとなっており、本稿では、特によく相談を受ける育児休業に関する新制度について、概略を説明します。
2 令和7年4月1日から施行される制度
⑴ 子の看護休暇の見直し
現行法第16条の2第1項では、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者は、1年度において5労働日(子が2人以上の場合は10労働日)を限度として、①病気にかかった子や負傷した子の世話、②予防接種・健康診断を受ける子の世話のために休暇を取ることが認められています。
改正法では、①②に加えて、③感染症に伴う学級閉鎖等が実施されている子の世話をするため、④入園式・卒園式・入学式等への参加をするためにも休暇を取ることが認められるようになります。さらに、対象についても、小学校3年生修了前の子を養育する労働者に拡大されることになります。
⑵ 残業が免除される対象の拡大
現行法第16条の8第1項では、3歳未満の子を養育する労働者が請求したときは、原則として、所定労働時間を超えて労働させてはならないとされています。
改正法ではこの対象について、3歳未満の子を養育する労働者から、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者に拡大されます。
⑶ 短時間勤務制度の代替措置の追加
現行法第23条1項では、3歳未満の子を養育する労働者であって育児休業をしていないものについて、その申出により利用できる短時間勤務制度を設けなければなりません。ただし、労使協定により、①勤続期間が1年未満の労働者、②週の所定労働日数が2日以下の労働者、③短時間勤務が困難な業務に従事する労働者については、短時間勤務制度の適用対象から除外することができます。
そして、現行法第23条2項では、③の労働者に対しては、短時間勤務制度の代替措置として、ア:育児休業に関する制度に準じる措置、イ:始業時刻変更等の措置を講じなければならないとされています。
改正法では、これらの措置のほかに、在宅勤務(テレワーク)等の措置が追加されることになりました。
⑷ 在宅勤務等の導入に関する努力義務
また、改正法では、上記⑶に当てはまらない場合であっても、3歳未満の子を養育する労働者のうち育児休業をしていないものに対して、在宅勤務等の導入に関する努力義務が設けられることになりました。
3 令和7年10月1日から施行される制度
⑴ 柔軟な働き方を実現するための措置
改正法第23条の3第1項では育児期の柔軟な働き方を実現するための新しい制度として、事業主は、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対し、次の5つのうち2つ以上の措置を選択して講じなければならないことになりました。
①始業時刻等の変更(1号)
②在宅勤務(テレワーク)(2号)
③所定労働時間の短縮制度(3号)
④養育両立支援休暇の付与(4号)
⑤保育施設の設置運営等(5号・厚生労働省令第75条の4)
労働者は、事業主が講じた措置の中から1つを選択して利用することができるようになります。
さらに、事業主は、3歳未満の子を養育する労働者に対して、子が3歳になるまでの適切な時期に、上記で選択した制度に関する周知と、制度利用の意向の確認を個別に行う必要があります(改正法第23条の3第5項)。
⑵ 仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮
改正法第21条2項では、労働者またはその配偶者が妊娠・出産等を申し出たときと、労働者の子が3歳になる誕生日の1か月前までの1年間において、仕事と育児の両立に関する事項として、次の事項を個別に聴取しなければなりません。聴取の方法は、面談、書面、FAX、電子メール等のいずれかとされており、FAXと電子メールは労働者が希望した場合のみで、面談はオンラインでも構いません。
①始業および終業の時刻
②就業の場所
③両立支援制度等の利用期間
④仕事と育児の両立に資する就業の条件
さらに、事業主は、聴取した意向について、自社の状況に応じて配慮しなければならないとされています。
4 最後に
これまで、多くの人たちが仕事と育児のどちらかを犠牲にし、片方を諦めざるを得ない状況が続いてきた結果、日本は超少子高齢化の時代を迎えています。今後は、仕事と育児の両立できる環境を整備し、労働者と事業主が互いに協力する必要があります。
事業主は、改正法で導入された制度に対する知識を深めるとともに、各種制度を導入するため、就業規則をはじめとする社内ルールの見直し・改定を行う必要があります。あらゆる業種において優秀な人材の取り合いが行われている今、仕事と育児の両立を図ることができない職場では、ますます人材不足に陥ることは間違いないでしょう。
(2025年1月執筆)
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