都市・土地2025年03月12日 高低差のある土地のトラブル 執筆者:政岡史郎

近年、地球規模の気候変動の影響か、我が国でも自然災害、特に台風による土砂崩れ等の被害が年々増えている気がします。
土砂崩れは土地に高低差がある故に生じる現象ですから、平坦な地域にしか建物を造らなければ被害は少なくなりますが、狭い国土の7割を山地や丘陵地が占める日本では、崖の直ぐ近くまで市街地が広がり、また丘陵地を切り開いて市街地を造ってきた歴史があります。そのため、隣地と高低差のある住宅等が多く、高低差に起因する様々なトラブルが発生します。
崖とは一般的に傾斜角30度以上の土地を指すようなのですが、崖の下に宅地がある場合、台風等の際に土砂崩れが生じて命の危険にさらされることがあります。また、丘陵地帯の分譲地などでは数メートルの擁壁で隣地と接する宅地は数多くあり、この場合、擁壁の老朽化などによって被害を受ける可能性があります。
土砂崩れで自宅の敷地内に他人の土砂が流れ込み、建物が倒壊するとか避難を余儀なくされた場合、崩れた崖の所有者に損害の賠償を求めることが可能です。通常、民法709条の不法行為責任を根拠とするのですが、この条項を用いて「他人の故意・過失を原因として生じた被害に関して当該他人に損害金の賠償を求める」ことになります。
大事なのが、このうち「…を原因として生じた…」という、いわゆる「因果関係」です。この因果関係は「条件関係」(『あれ』あれば『これ』あり、『あれ』なければ『これ』なし)と「相当因果関係」(『あれ』があったことで『これ』が生じるのが特殊なことではなく社会一般的に相当で、損害の賠償をさせてもやむを得ないという関係)の二つが必要とされています。そして、因果関係の主張・立証責任は請求側(被害者側)にあります。例えば台風をきっかけとした土砂崩れ災害の場合、因果関係の主張・立証の困難なことが多く、人災なのか天災なのか不明となります。そうすると、被害者の損害賠償請求が認められないことになります。
私の実体験ですが、依頼者の敷地が高低差10メートル以上ある急斜面の雑木林と接しており、台風による大雨の影響で雑木林に土砂崩れが発生し、敷地になだれ込んだ土砂や倒木で家屋が倒壊しました。雑木林の所有者に責任追及したものの、発生した土砂崩れのメカニズムの解明(何が原因で、何をすれば防げたのか)が困難で、何年も掛かってようやく和解で裁判を終えました。幸いなことに一定の金銭交付を受けた勝訴的な和解でしたが、雑木林の所有者が最後まで責任を否定すれば敗訴していた可能性が極めて高い事案でした。
また、因果関係以外にも、「他人の故意・過失」が大きなハードルとなります。過失とは「注意義務違反」ですが、要は他人に損害を与えないように土地を適切に管理しておく義務の違反です。もっとも、どのような管理までしておくべきなのかが非常に難しく、例えば一定の切土・盛土を含めた宅地造成等をする場合には自治体の定めた基準を守ることが義務として必要ですが、単に自宅敷地などに斜面地が含まれている場合に、どの程度の管理(水抜き穴や擁壁の設置等)をしておかないと義務違反に問われるのかは難しい判断となります。
つまり、何か被害が生じてから裁判手続で回復することは非常に難しい闘いであり(時間的にも、金銭的にも、長期間の紛争を抱えることの精神的ストレス上も)、仮に被害の回復が果たせたとしても金銭を獲得できるだけに留まり、失われた自宅が戻ってくることも、そこで平穏に生活出来ていた筈であろう日々も取り戻すことも出来ません。
そのため、結局のところは、「損害を被ってからの回復」ではなく「被害に遭わないための予防」が重要だと考えています。
とはいえ、「被害に遭わないための予防」というのも簡単ではなく、例えば崩落可能性が危惧されるのであれば、行政に訴えて急傾斜地崩壊危険区域に指定して貰うとか、隣地で何か建造物の建設計画がある場合にはその安全性について十分な説明を求め、行政による指導等も含めて慎重に計画を進めて貰うなど、根気の要る行動が必要となります。事情によっては、危険の及んでいる土地所有者として隣地に対し裁判所手続(仮処分手続)で妨害予防請求をするなど司法の力を借りることも出来ますので、必要に応じて早めに専門家に相談し、ご自身の生活を守って頂ければと切に思います。
(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)
(2025年2月執筆)
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執筆者

政岡 史郎まさおか しろう
弁護士
略歴・経歴
H7 早稲田大学卒業、小田急不動産(株)入社
H13 同社退社
H17 司法試験合格
H19 弁護士登録・虎ノ門総合法律事務所入所
H25 エータ法律事務所パートナー弁護士就任
「ある日、突然詐欺にあったら、どうする・どうなる」(明日香出版社 共著)
「内容証明の文例全集」(自由国民社 共著)
「労働審判・示談・あっせん・調停・訴訟の手続きがわかる」(自由国民社 共著)
「自己破産・個人再生のことならこの一冊」(自由国民社 校閲協力)
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