契約2025年04月28日 Non-Disclosure Agreement②(英文契約書(6)) 執筆者:矢吹遼子

 NDAを締結する典型的な場面としては、対外的にはM&Aや取引先との業務提携等、対内的には、役員・従業員らの入社時、重要なプロジェクトの参加時、退職時などが挙げられます。別途NDAを締結せずに、Letter of IntentやMemorandum of Understandingの中にConfidentialityという条項を入れて対応することもあります(ただし、法的拘束力をもたせる記載をしておくことが重要です)。しかし、開示する情報が多くなることが予想される場合には、やはりNDAを締結しておくことが無難です。

 まず、Confidential Information(秘密情報)とは何かという定義が問題になります。開示する側は、範囲はとにかく広く、全ての情報が秘密情報にあたると言いたいでしょう。例えば、秘密情報は“all information”であると述べ、“directly or indirectly, in writing, orally, electronically, or in other tangible form”というような形でall informationを修飾します。一方、情報を受領する側はできるだけ狭く、特定できるようにしたいでしょう。ここで、紙媒体や電磁的記録に記載されていれば特定がしやすいですが、口頭で伝えられた情報は特定が困難です。受領者側の負担を減らす方法としては、開示の際に秘密情報と特定し、開示後一定の日数以内に書面化したもののみを秘密情報と取り扱う、といった制限のかけ方があります。しかし、実際の現場で、逐一書面化して特定するというのはあまり現実的な方法ではないかもしれません。

 秘密情報を定義づけしたあとは、例外条項を定めます。そもそも秘密情報に該当しないものとして典型的なものは、以下のとおりです。
①開示の時点で、公知の事実となっているもの(“in the public domain”)
②開示の時点で、既に知っていた情報(“already known”)
③受領者が独自に開発した情報(“independently developed”)
④合法的に入手した情報(“lawfully obtained from a third party”)
 また、秘密情報には該当するけれども、開示しても義務違反にならないという意味での例外もあります。例えば、以下のようなものが挙げられます。
⑴役員・従業員らへの開示(“who have a need to know”)
⑵裁判所や法令による開示(“governmental or regulatory authority or court order or by applicable laws”)
 弁護士や会計士などの専門職への開示も⑴にまとめて記載することも多いです。

 NDAでは、Confidential Informationが漏洩した場合に備えて、差止め請求(Injunctive Relief)の条項を入れておくことも一般的です。Confidential Informationは“a unique and valuable asset”(唯一無二の価値ある財産)で、一旦漏洩してしまうと損害賠償のみでは十分な救済にならないため(“monetary damages alone would not be an adequate remedy.”という表現をよく使います)、差し止め請求をする権利について明確に定めておきます。

 英文契約書は、日本の契約書に比べるとかなり長くなりがちですが、NDAはそこまで長くはなりません。主な争点は、秘密情報の範囲、救済方法、契約期間等です。ビジネスの交渉に入る前に、NDAの交渉で体力を使うのは当事者双方にとってもマイナスでしょう。とはいえ、秘密情報を取り扱う重要な契約であることは間違いありませんので、押さえるべきところはしっかり押さえておきましょう。

(2025年4月執筆)

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