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一般2025年09月10日 「始皇帝モノ」は面白い。連載コラムその4 ─応用編⑵『コウラン伝 始皇帝の母』 (前半・1~38話)の紹介─(法苑WEB連載第19回)執筆者:坂和章平 法苑WEB  

<はじめに>

(1)コラム3では、「始皇帝モノは面白い」の応用編⑴として、『大秦帝国』シリーズ全4作、①『大秦帝国』(09年)、②『大秦帝国縦横~強国への道~』(12年)、③『昭王〜大秦帝国の夜明け〜』(17年)、④『始皇帝 天下統一』(20年)を紹介した。これらは秦の25代君主・嬴渠えいきょりょう、26代・嬴駟えいし、28代・嬴稷えいしょく、30代・嬴子楚えいしそ(27代・嬴蕩えいとうは3年のみ、29代・嬴柱えいちゅうは3日のみの在位)たちが、大胆な法治主義改革と衛鞅えいおう呂不韋りょふい李斯りし等の賢才の登用によって西方の野蛮な弱小国を強国化していく姿を、男たちの権謀術策や肉弾相撃つ戦争の数々とその裏側にあるさまざまな政略結婚や恋愛・悲哀の中で描いた「歴史モノ」だった。

(2)そこで、コラム4では、応用編⑵として、『コウラン伝 始皇帝の母』(19年、全62話)(以下『コウラン伝』と略称)を紹介する。まず本作は、劇団四季の『ミュージカル香蘭こうらん』で有名な香蘭こうらんとは縁もゆかりもない女性であることに要注意。次に、この李皓鑭りこうらんこそ『大秦帝国』シリーズでは「ちょう」と呼ばれ、映画『キングダム』シリーズでは「たいこう」と呼ばれている、第30代王・えい子楚しそそうじょうおう)の妻(正室)であり、えいせい(後の始皇帝)の産みの母親だということに注目!すると『コウラン伝』は厳密には「始皇帝モノ」と言えないかもしれないが、本作後半からは若き日の始皇帝=えいせいが登場し、『大秦帝国』とよく似た物語が展開していくのでそれに注目!そもそも約2000年前に誕生した始皇帝自身が多くの謎に包まれている人物なのだから、その生涯をドラマ化するにあたって史実だけでなく、さまざまなフィクションが付加されるのは当然。そんな本作の鑑賞によって、より多角的・複眼的に始皇帝モノを楽しめるはずだ。

(3)なお、本作は観れば観るほど面白くなり、思うがままに書き進めているとどんどん長くなってしまったため2回に分け、コラム4では応用編⑵として前半(1~38話)を、コラム5では応用編⑶として後半(39~62話)を紹介する。なお、私は中国TVドラマ『コウラン伝 始皇帝の母』と対比して読むべき小説として、塚本靑史著『バシレウス 呂不韋りょふい伝』(2019年・NHK出版)を推薦したい。その概要については別途紹介する。

(4)続くコラム6では、応用編⑷として、『ミーユエ 王朝を照らす月』(以下『ミーユエ』と略称)を紹介したい。これは、楚国に誕生した女児・ミーユエが明るく美しい娘に育った時点で、秦の嬴駟えいし(後の26代・恵文王)が楚に嫁取りに赴く物語から始まる。実際に嬴駟えいしに嫁いだのは異母姉の羋姝びしゅだが、ミーユエも同行したためその後の3人の運命は大きく変わり、羋姝びしゅの息子・嬴蕩えいとう(27代)とミーユエの息子・嬴稷えいしょく(28代)との秦王の座を巡る相続争いはミーユエ羋姝びしゅの決定的対立にまで!そして嬴駟えいしが死亡すると・・・?『ミーユエ』は始皇帝誕生直前の歴史モノとしても面白いが、それ以上に美人女優・孫儷スンリーの出演で人気を博したうえ、後に始皇帝の高祖母(おばあさんのおばあさん)・「宣太后」として女性初の権力を行使し、異民族の義渠ぎきょおうとも浮き名を流した女性(?)としても有名なミーユエを主人公として、嬴駟えいしから嬴稷えいしょく(26代~28代)へと続く、秦の強国化時代を興味深く描いているので、コラム6もお楽しみに。

第1 『バシレウス 呂不韋りょふい伝』の紹介

(1)多くの日本人にとって、「始皇帝の母」=李皓鑭りこうらんも、「始皇帝の父」=えい異人いじんも全く知らない人物である上、呂不韋りょふいに至っては、それは実在した人物?それとも架空の人物?と思うほど未知の存在だ。したがって、原泰久の漫画『キングダム』の大ヒットが意外なら、塚本靑史の『バシレウス 呂不韋りょふい伝』のヒットはそれ以上に意外だ。そもそも「バシレウス」とは一体ナニ?呂不韋りょふいとは一体誰?

(2)同小説の「序章 金貨」では、2019年春、記者たちに囲まれた、始皇帝兵馬俑博物館の趙永晟研究員が、始皇帝陵から幸運にも宝物庫を発掘でき、そこには副葬品の他、「間違いなく古代ギリシアの金貨があった」ことを報告する姿が描かれる。その金貨を巡って記者たちの質問に答える形で趙が、「ヘレニズム文化の影響が、始皇帝時代の中国に及んでいたと思います」と答えた上、「始皇帝陵から、きさき公子こうしと思われる人物の頭蓋骨も発見されています」と発言したから記者たちは興味津々だ。ところが、「以前から言われていたように、始皇帝にはソグド人だった呂不韋りょふいの血が入っていたことが、裏付けられたのでしょうか?」との質問に対して、趙はにべもなく「判るのは、きさき公子こうし白人コーソ系統カイドの遺伝子があったということだけです。多分、憶測されているように、始皇帝も同じような骨格でしょう。だから公子こうしにも、そのような遺伝子が受け継がれたと考えられます。今はそれ以上のことを、特に確認できません」と答えたから、アレレ、アレレ。つまり、「始皇帝と呂不韋りょふいの親子関係は以前から取りざたされていることだが、今回の頭蓋骨から見えるのは、決してDNA鑑定的な証拠ではない」というわけだ。なるほど、なるほど。

(3)記者たちは趙研究員からそれ以上の話を聞き出せなかったが、私たち読者はそんな「序章」を経た上で始まる全314頁の壮大な『バシレウス 呂不韋りょふい伝』の物語に限りないロマンを持って臨むことになる。
 そして同書の人物相関図と主な登場人物一覧を読めば、呂不韋りょふいの父親・りょは、「ソグド人の商人。ソグディアナ、大宛フェルガナから中華に出て、秦のかんように店を持つ」、呂不韋りょふいは、「韓の陽翟ようてきに店を持ち、自由な発想と独自のルートを持つ大商人。趙の質子ちしに出されていた秦の公子こうしえい異人いじんを見いだし、王位に就ける」と紹介されている。また同作でもえい異人いじんは、「(そうじょうおう)[前281~前247]後にいみな子楚しそ。始皇帝の父。趙で質子ちしとして暮らしていたが呂不韋りょふいに見いだされる」と解説され、えいせいも、「(始皇帝)[前259~前210]えい異人いじんの息子。幼少期、趙で質子ちし生活を送る。秦に帰還後、13歳で王位に就く。中華の統一を目指す」と紹介されている。ところが同作で始皇帝の母とされているのは、しゅ綾児りょうじ。そして、彼女は、「朱百覧しゅひゃくらん朱仍しゅしょうの娘。えい異人いじんに嫁いでえいせい(後の始皇帝)を産む」と紹介されている。つまりしゅ綾児りょうじ李皓鑭りこうらんというわけだ。なるほど、なるほど。

(4)同書は、300頁余の大著だが、登場人物のキャラの濃さとストーリーの面白さで一気呵成に読むことができる。本作の鑑賞のお供として同書の併読を強くお勧めしたい。

第2 『コウラン伝』の3つのテーマ

(1)『ミーユエ』以降、私が中国TV時代劇にハマったのは、何よりもスケールの大きさと物語の面白さだが、もう一つ別の理由は、2005年以降コツコツと独学を続け、中国語検定3級やHSK5級に合格している中国語学習に役立つからだ。ドラマ中で語られる中国語のセリフだけではその意味を聞き取れない(听不懂)けれども、日本語の字幕があれば聞き取ることができる(听得懂)ものも多いから、ドラマ鑑賞がより楽しくなり、より熱が入ってくるわけだ。

(2)本作の一方の主人公は、BC3世紀に趙の名家の娘として生まれた李皓鑭(リコウラン)。リコウランと聞けば劇団四季の『ミュージカル李香蘭』を思い出すが、前述のとおりそれは偶然の一致で、本作の主人公・李皓鑭りこうらんは日本による満州国建設の時代に超有名になった歌手の香蘭こうらんとは全く別の人物だから要注意!本作の李皓鑭りこうらんは原泰久の『キングダム』が描くたいこう。彼女はえいせい(後の始皇帝)の産みの母親だから、そのことをしっかり頭に入れておく必要がある。また、史実では「ちょう」は呂不韋りょふいの愛妾から秦王・嬴子楚えいしそに嫁し、えいせいの即位後も愛人・嫪毐ろうあいを囲って混乱を招いた淫婦とされているが、本作では愛情と深謀を兼ね備えたヒロインという新解釈で描かれているので、それに注目!

(3)本作の他方の主人公は、『大秦帝国』でも登場した呂不韋りょふいえいせい(後の始皇帝)の実の父親になるえい異人いじん(後の嬴子楚えいしそ、30代・そうじょうおう)の2人だ。三者それぞれの出会いに面白い物語が展開していくのは当然だが、この3人の主人公は男女関係においても、権力闘争においても最後の最後までもつれ合い絡み合っていくので、そのドロドロ感を堪能したい。歴史の解釈はいろいろだから、①えいせいの父親はえい異人いじんではなく呂不韋りょふいだという説、②即位したえいせいの摂政になった李皓鑭りこうらんは宦官の嫪毐ろうあいに権力と地位を与えた他、子供までもうけたとの説もあるから、それにも注目だ。

(4)しかして、私の独断と偏見による本作の3つのテーマは、次の3つ。すなわち、
李皓鑭りこうらん呂不韋りょふいの絆をどう考える?(互いに利用?生涯の同志?男女の愛?)
②脱出までの呂不韋りょふいえい異人いじんの絆をどう考える?(互いに利用?再三の失敗はなぜ?脱出の成功は?)
③秦での地歩固めと権力掌握、三角関係の展開・清算は?
だ。この3つのテーマは全62話の壮大なストーリーの中で相互に絡み合いながら登場してくるうえ、3人以外にも個性豊かなたくさんの登場人物がさまざまなサブストーリーを展開していくので、「コラム4」ではテーマ①と②を、「コラム5」ではテーマ③を紹介する。

第3 李皓鑭りこうらん呂不韋りょふいえい異人いじん、三者三様の出会いと絆は?
1 皓鑭こうらん呂不韋りょふいの出会いは?

(1)本作は、紀元前3世紀、趙の名家・李赫りかくの側室の娘である皓鑭こうらんがいきなり正室の高敏こうびんから縄に縛られて川に投げ込まれる物語から始まる。高敏こうびんによって実母を殺され、恋人と思っていた趙王の息子・こう王子も高敏こうびんの娘(異母妹)のしゅうぎょくに奪われた上、殺されかかったのだから大変だ。何とか命は助かったものの、皓鑭こうらん高敏こうびんから奴婢として売り出されてしまうことに。

(2)皓鑭こうらんの顔の傷は売却防止のために自らつけたものだと見抜いた衛の大商人・呂不韋りょふいは、奴婢としてではなく、自分の夢を実現するための同志とするため皓鑭こうらんを買い受けることに。天性の美貌に加え、琴でも舞踊でも天才的な能力を見せつけた皓鑭こうらん呂不韋りょふいは大喜び。皓鑭こうらんを女官として宮廷に送り込むことに成功すれば王族とのつながりは思いのまま。この女への先行投資はいくら大きくても必ずモトが取れる!1~3話では、野望のため皓鑭こうらんを利用しようとする呂不韋りょふいの思惑に腹を立てながらも2人が互いの目的実現のため手を組んでいく姿が描かれる。そして、コトはそんな呂不韋りょふいの思惑通りに進んでいくから、さあ、お立ち合い!

2 異人いじん呂不韋りょふいの出会いは?

(1)趙の人質として秦から送り込まれていたのがえい異人いじん。彼が人質とされたのは、父親の安国君(28代しょうじょうおう嬴稷えいしょくの太子・えいちゅう、後の29代孝文王)の“27名もいる子”の中の“どうでもよい子”だったからだ。日本の戦国時代、駿河の大大名・今川義元の人質とされた三河の小大名の息子・松平友康(後の徳川家康)は義元に大切に育てられたが、異人いじんはさにあらず。不遇の日々を送っていた。また、異人いじんの生母の夏姫は既に安国君の寵愛を失っていたから、秦と趙との休戦協定に伴う人質として長い間、趙で過ごしていた異人いじんの後ろ盾は皆無だった。さらに安国君の父親・しょうじょうおうはしばしば趙との協定を破って軍事攻勢を仕掛けていたから、異人いじんはいつ殺されてもおかしくない立場だった。

(2)そんな異人いじん呂不韋りょふいの最初の出会いは4話。場所は牢の中だ。それは、異人いじんが秦の進軍を伴って投獄され、呂不韋りょふいも秦の間者の疑いで囚われたためだが、そこで共に過ごし、多くを語り合った処刑までの時間は大いに有益だったらしい。そのうえ、異人いじんに想いを募らせる王女と呂不韋りょふいの配下・司徒缺しとけつの働きによって2人とも釈放されたからラッキー!

(3)秦の人質たる異人いじんに対する呂不韋りょふいの“将来の投資のための大博打”は、「異人いじんを将来、秦の太子とし、自分はその補佐役に」という壮大なものだからすごい。そこで、呂不韋りょふいは、異人いじんへの多額の“直接投資”を行うとともに、大金を投じて秦の都・かんようにいる安国君の正室・華陽夫人に対してさまざまな工作を行うことに!そんな大博打実現のためには、異人いじんの趙からの脱出が不可欠だが、それはいつ、どのように?

(4)本作導入部(1~8話)では、趙の宮廷を舞台に、まずは皓鑭こうらん呂不韋りょふい異人いじんの出会いとそれぞれの絆をしっかり確認したい。もっとも、そこでは異人いじん皓鑭こうらんの“出会い”は未だ登場せず、異人いじんには好意を示した王女が急接近していくので、それに注目!趙王の正室・れい王妃の娘たる王女が、なぜ秦の人質たる異人いじんに好意を寄せたのかは、兄のこう王子にも母親のれい王妃にもよくわからない“女心の謎”だが、異人いじん王女には一切関心を示さず、一方的に皓鑭こうらんに興味を示したから王女はお冠。そのため、異人いじんを巡る王女の皓鑭こうらんに対する嫉妬心が、前半の注目すべきサブストーリーになる。他方、「皓鑭こうらんは俺の女だ」と思い込んでいる呂不韋りょふいも、異人いじんが何かと皓鑭こうらんに好意を示すことには不満だが・・・。

第4 趙を舞台としたさまざまな人間模様とサブキャラに注目!

1 趙の王室模様は?国王は?太后、王子、王女たちは?

(1)異人いじんが人質時代を過ごしたBC3世紀(春秋戦国時代)の趙国の王は趙丹、その正室はれい王妃、その息子はこう王子、娘は王女だ。美女に目がない趙丹だが、側室の存在を含めて常にものごとを冷静に処理することができるれい王妃には頭が上がらないようだ。他方、趙丹と側室・うん王妃の息子・王子はこう王子の腹違いの弟。そして、幼い頃に側室の母・げん少妃を失った息子(こうの弟)が逸王子だ。王妃のわがままな実子たる王女がなぜ異人いじんを好きなったのかはわからないが、本作では王女が異人いじんを追い回す姿が再三登場するので、その(サブ)ストーリーに注目!

(2)こう王子は皓鑭こうらんを裏切り、皓鑭こうらんの異母妹であるしゅうぎょく(母親は皓鑭こうらんの実母を殺害した高敏こうびん)と結婚したが、皓鑭こうらん呂不韋りょふいと“同志”の関係になったうえ、皓鑭こうらんれい王妃の仲介(?)によって異人いじんと結婚することになると、王女には皓鑭こうらんに対する対抗心がメラメラと・・・?他方、こう王子と王子の跡目争いは如何に?また、皓鑭こうらんへの想いを断ち切れないこう王子に対するこうの妻・しゅうぎょくの嫉妬心は如何に?

(3)逸王子は跡目争いには一切興味を示さず、幼馴染みのいん小春しょうちゅんを一途に想っていたが、一方で2人の兄の跡目争いが激烈になり、他方で秦との戦いが風雲急を告げてくると・・・?さらに、趙丹と恋仲だったにもかかわらず、趙丹を姉のれい王妃に奪われて秦国に赴いていた蜀候しょくこう夫人が息子の嬴括えいかつを連れて20年ぶりに趙に戻ってくる事態になると・・・?

2 女医・いん小春しょうちゅんに注目!準主役として重要な役割を!

(1)本作で重要な役割を果たすのが女医の いん小春しょうちゅん。中国では『女医明妃伝~雪の日の誓い~』(16年・全50話)をはじめとする女医を主人公にしたドラマも大人気だが、いん小春しょうちゅんは波乱万丈のさまざまなストーリーに再三登場する。2000年前の中国の歴史ドラマにはよく毒殺のための毒や生き返らせるための解毒剤が登場する。シェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』(16世紀)では、ジュリエットが怪しげな薬を飲んで仮死状態になる場面があるが、それとよく似た場面が『大秦帝国』にも本作にも再三登場する。そこで不可欠なキャラが医師だが、本作導入部ではいん小春しょうちゅんが伝染病の治療で大活躍する他、毒殺を巡るさまざまな怪しげなストーリー(?)にも再三登場してくる。

(2)さらに小春しょうちゅんは、幼馴染である逸王子と想い合っていた関係だが、戦国時代にそんな2人の恋がスンナリ成就するはずはない。幼い日に側室の母を失い、王権争いには全く関心のない逸王子だが、小春しょうちゅんとの恋は容易に進展しない。そればかりか本作後半では、小春しょうちゅんの前に秦の将軍・はくちゅうが登場してくるうえ、逸ははくちゅうの手にかかって殺されてしまうから運命は残酷だ。さらに、小春しょうちゅんは敵と思っていたはくちゅうからの愛の告白(?)を受けるから、さあ小春しょうちゅんはどうするの?このように小春しょうちゅんは常に皓鑭こうらんの側に寄り添い、最後の最後まで皓鑭こうらんの親友としての役割を果たすので、それに注目!

3 絶世の美女・韓瓊かんけいに注目!本作の嫪毐ろうあいは何と彼女の弟!

(1)歴史上“絶世の美女”は数多い。「世界の三大美女」はクレオパトラ、楊貴妃、小野小町だが、「中国の四大美女」は、西施せいしおうしょうくんちょうせん、楊貴妃だ。それに対して、第16話に登場する「絶世の美女」が韓から趙丹に献上されたかんけい(韓少妃)だ。趙丹はそのあまりの美しさにメロメロになってしまうため、趙の後宮ではさまざまな異変、トラブル、事件が発生していくのでそれに注目!

(2)いくら弱小国・韓からの人質とはいえ、美女が趙王の側室として入ってくれば、後宮の全権力握っている正室のれい王妃はともかく、側室のうん少妃、ばい少妃らがメラメラと対抗心を燃やしたのは当然。娘の王女ですら若い美女が父親に甘える姿を許せず、韓少妃への対抗心からこうらんに味方する場面まで登場してくるから面白い。しかし、韓少妃が単に趙王に甘えるだけの存在でないことは飼っている鳶を使って母国に情報を流している姿を見るとすぐにわかる。この美女はかなり頭も良さそうだ。「長平の戦い」の大敗北で趙王が倒れ、趙の滅亡が迫る中、韓少妃はこう王子、王子、逸王子という三者三様の対立を利用しながら、韓のために如何なる行動を?また、クレオパトラの最期は自ら毒を煽ったものになったが、韓少妃の最期は如何に?

(3)趙で過ごすけいはその美貌によって趙王の寵愛を受けていたが、所詮、その実体は韓から派遣された人身御供ひとみごくう。そうすると彼女は考え方によっては、れい王妃の世話で異人いじんと結婚したため人質の妻として不遇の状況下にあるこうらんと同じ境遇?そんな共通点の他、①女ながらも一匹狼、②男に一歩も引きを取らない知恵と腹の座り、③自己のビジョンに忠実で一切ブレない、等の共通点があったから、そんな本質(本性)を互いに理解・確認し合う間柄になると、2人には微妙な女同士の友情と信頼関係も!

(4)なお、「始皇帝モノ」の後半には、せいの異母弟たるせいきょうの反乱と、こうらんが重用した怪しげな男(宦官?)であるろうあいの反乱が大事件として必ず登場する。本作に見るろうあいは何と韓出身の美女・けいの実の弟だから、ビックリ!

第5 秦と趙の大会戦は?その勝敗は?
1 趙は「長平の戦い」で軍神・はくに大敗!その悲劇は?

(1)はくは、『ミーユエ』では、趙から秦に向かう途中で義渠王ぎきょおうに囚われたミーユエが囚われの地で自ら育てた“狼の子”として登場する。そして、秦に入ったミーユエが26代秦王・えいの側室となり力をつけてくると、彼も力をつけて秦の大将軍となり趙との戦いではそのトップに!他方、趙の将軍・れんはく率いる秦の軍事攻勢が強まる中じっと耐え守りに徹していたが、それに不満な勢力がちょうしゃ将軍の息子・ちょうかつを総大将として秦に対抗することを主張し、それを趙王が採用。それによって発生したのが「長平の戦い」だ。そこで趙軍は軍神・はく率いる秦軍に大敗!趙軍の捕虜約20万人が生き埋めにされてしまうことに。

(2)独自のキャラ、しんおうに憧れて大将軍になる夢を統一テーマにした映画『キングダム』シリーズでは、『キングダム2 遥かなる大地へ』(22年)で「蛇甘平原の戦い」が、『キングダム 遥かなる炎』(23年)で「馬陽の戦い」が壮大なスケールで描かれていたが、「長平の戦い」でのしんの活躍場面はなかった。それはともかく、「長平の戦い」の勢いに乗ってはくかんたんを攻撃すれば趙の滅亡は確実だったが、はくの勢力拡大を危惧する秦の丞相・はんしょしょうじょうおうえいしょく)に上奏してそれを中止。激怒したはくは病と称して以後の出仕を拒むことに。すると、その後の、かんたん攻略を巡る秦の戦略と趙の対抗策は如何に?

2 秦への三王子の対応は?趙の命運は?

(1)趙王が倒れた後、こう、逸の三王子による秦への対抗策が容易にまとまらず混迷を極めたのは仕方ない。しかし、はく将軍が病と称して引きこもっている間に、45万人の趙軍を亡き者にされた趙の秦への恨みと迎撃態勢が強化されたため、翌年の王陵を将軍にしたかんたんへの侵攻は難航。さらに魏の援軍まで駆けつけてきたから、しょうじょうおうは「やっぱりはく将軍が必要!」と出仕を命ずることに。ところがはくはそれを頑なに拒否したため、はく将軍の自刎という悲劇まで勃発するから、そんな“実話”を『ミーユエ』と対比しながらじっくり楽しみたい。さらに、女子供まで「かんたんを守れ!」と奮起した趙は「秦軍への見せしめに!」とばかりに磔状態にした異人いじんを秦軍の前面に押し出すことによって対抗したが、その策の是非は?そして、異人いじんの命は?

(2)本作は冒頭に示した3つのテーマを中心とした壮大な男女の物語だが、「長平の戦い」後の戦いの一時停止を経た後に続くかんたんへの総攻撃の中で、人質たる異人いじんの立場がどんどん危うくなっていくのでそれに注目。そんな戦況下、りょ異人いじん脱出構想は如何に?

第6 呂不韋りょふいが目指す異人いじんの活用大構想は?その第一歩は?
1 呂不韋りょふいかんようで夏姫、華陽夫人と面会!その狙いは?

(1)8話では、異人いじんの実母・夏姫に異人いじんの救出を訴えるため、呂不韋りょふいの配下である司徒缺しとけつが秦の都・かんように赴く姿が描かれる。夏姫からの血書を受け取った安国君は異人いじんの孝心に心打たれ、異人いじんを秦に戻す約束したから、呂不韋りょふいの企みの第一歩は成功!それを受けて13話では、趙国に攻め入った魏軍と楚軍を追っ払った隙に、呂不韋りょふい異人いじんを連れて秦に脱出しようとするもののこう王子に捕まって失敗。14話でも再度の秦への逃亡が失敗。そこで、15話では、呂不韋りょふい異人いじんの逃亡を成功させるある奇策を思いつくが、それは一体何?

(2)他方、異人いじんの人質時代の趙を舞台に始まる本作前半では、趙の廉頗れんぱ将軍が守りに徹していたため秦の人質・異人いじんは安全だったが、こう王子にはそれが不満。そこで24話でこう王子が秦との和議を趙丹に進言し、呂不韋りょふいがその使者に推薦されるところから局面は大きく転換していく。つまり、呂不韋りょふいはそこで異人いじんの秦への帰還を条件として、和平の使者になることを受け入れ、かねてより計画していた秦の華陽夫人に対して異人いじんを養子として迎え、将来の秦の太子候補とする計画を実現させようとしたわけだ。ところが、25話で、皓鑭こうらんと熱い想いを打ち明けあった呂不韋りょふいは「必ず戻る」と約束して秦へ出発したものの、途中で刺客に襲われることに。そして、26話では邯鄲かんたんで暮らす皓鑭こうらんのもとに呂不韋りょふいが刺客に襲われ命を落としたとの報が伝わるからアレレ、アレレ。

(3)もっとも、ここで呂不韋りょふいが死んでしまえばその後の物語は成立しない。機転を利かせて敵の目を欺き何とか生き延びた呂不韋りょふいは27話では、秦の都・かんように入り、宣侯夫人の取り継ぎにより、宣侯夫人の妹で、安国君(嬴柱えいちゅう)の正室・華陽夫人と面会することに成功。華陽夫人と安国君の間に子供がいないことに目をつけていた呂不韋りょふいは、異人いじんを華陽夫人の養子とすることによって異人いじんを秦の正当な世継ぎとしてデビューさせるという大構想を提案。華陽夫人がこれを快諾したから、さあ局面は大転換だ。

(4)安国君は長い間、秦王・嬴稷えいしょく(28代)の太子の座にあったが、安国君が自分の後継者として目をつけていたのは、27人もいる息子の一人たる子傒しけい。そして、子傒しけいの後ろ盾になっていたのは丞相の范雎はんしょだ。したがって、呂不韋りょふいと華陽夫人の「異人いじんを太子に!」との企みを知った子傒しけい呂不韋りょふいの大構想を知ってそれを阻止しようとしたのは当然だ。しかし、26代・嬴駟えいしの側室で、28代・嬴稷えいしょくの産みの母親たる羋月ミーユエ(始皇帝の高祖母=おばあさんのおばあさんにあたる、宣太后)と同じ一族である華陽夫人は、安国君の寵愛を利用して、異人いじん子傒しけいの“対抗馬”とする決断を下したため、以降、呂不韋りょふいと結んでその戦略を着々と進めていくことに。

2 呂不韋りょふい死す!の報が伝わる中、異人いじん皓鑭こうらんの婚姻が!

(1)呂不韋りょふい死す!26話でそんな報告を受けた皓鑭こうらんが悲嘆に暮れたのは当然だ。そんな状況下、秦の都・かんようでの呂不韋りょふいによる華陽夫人への工作は着々と進展したが、趙の都・邯鄲かんたんでは、かねてより言い寄ってくる王女に対して、「あなたを愛していない」と突き放した異人いじん皓鑭こうらんとの婚儀が進んでいくのでそれに注目!これは王女の母親たるれい王妃の計らいによるものだが、それは一体なぜ?また異人いじんの気持ちには何の問題もないが、「呂不韋りょふいの帰りを待っている」と誓った皓鑭こうらんは「呂不韋りょふい死す!」の報告を鵜呑みにして、異人いじんとの結婚を承諾するの?そんな疑問が広がる中、28話では遂に異人いじん皓鑭こうらんとの婚姻が実現!もっとも、2人の初夜は別々。しかもそこで皓鑭こうらんは「この婚礼は仮の姿。異人いじんが秦に戻れば別の妻を娶ればいい」と明言したから、アレレ、アレレ。こんな状態でこの夫婦はうまくいくの?また、子宝に恵まれるの?

(2)長い間対立を続けてきた春秋戦国時代にあって、なぜ秦が強国化し六国を滅ぼし天下統一を成し遂げたの?それはえいおう商鞅しょうおう)が提唱した「法治主義」を徹底させて、貴族の特権を取り上げ、出身地も身分も問わずただ軍功のある者を実績に応じて幹部に取り立てたためだ。その姿は、『大秦帝国』シリーズ全4作で詳しく描かれていたが、「長平の戦い」当時の趙と秦の力関係はまだまだ微妙。したがって、趙丹が倒れ3人の王子の対抗策もうまく機能しない中でも、女子供を動員し、磔状態にした秦の人質・異人いじんを殺してしまえば、まだまだ趙の抵抗は可能だ。そんな危機一髪の異人いじんの命を捨て身の行動で救ったのは、妻・皓鑭こうらんだ。もっとも、異人いじん皓鑭こうらんの働きによってやっと秦を撤退させることができたにもかかわらず、一時的な平和が戻った趙での秦の人質・異人いじんと妻・皓鑭こうらんの暮らしは、親友・小春しょうちゅんの協力があったものの大変。皓鑭こうらんが里帰りした際には父親の李赫りかくが襲われて殺されてしまう事件までも!

(3)他方、呂不韋りょふいは華陽夫人への工作の成功を一日も早く異人いじんに伝えるため、趙に戻ることに。呂不韋りょふいが死んでしまったと考え、哀しみのどん底の中で異人いじんと結婚し、人質という逆境の中で、小春しょうちゅんの助けを受けながら何とか生き延びていた皓鑭こうらんは、思いがけない呂不韋りょふいの生還に大喜びだ。ところが、自分の留守中に皓鑭こうらん異人いじんと結婚したことを知った呂不韋りょふいが激怒したのは当然!今にも異人いじんを殺す勢いの呂不韋りょふいだったが、そこでの三者三様の気持ちの整理は如何に?呂不韋りょふいにとって異人いじんかんようへ連れ戻すことは、かねての大構想を実現するための第一歩。その構想には呂不韋りょふい自身が大きな権力を握ることも含まれていたが、その脱出に「同志であり恋人!」と誓い合った皓鑭こうらんを同行させることは必須。しかして、その実現は如何に?

3 異人いじん呂不韋りょふいが脱出に成功!しかし皓鑭こうらんは!

(1)29話では、2人の結婚を知った呂不韋りょふいが「命がけで尽くした俺に何と!」と責めるのに対し、異人いじんが「皓鑭こうらんの心はお前だけだ」と返したうえ、「皓鑭こうらんと2人で逃げろ!」と叫ぶから異人いじんは偉い。さらに異人いじんは「皓鑭こうらんを娶ったのは事実だ。私を殺して皓鑭こうらんを奪ってくれ」とまで叫んだから呂不韋りょふいは納得!?他方、30話では趙王が異人いじんを処刑しようとする直前に呂不韋りょふいが現れ、「華陽夫人の養子となった異人いじんは今や将来の秦の太子。それを処刑すれば大変だ」と命懸けで訴えるから呂不韋りょふいも偉い。もっとも、呂不韋りょふい異人いじんに「大業を成就させるためなら女一人になどこだわりません」と言ったのは大失敗!?これを聞いた皓鑭こうらんは「男同士で私を譲り合うのは嫌!決めるのは私だ!」と叫んだが・・・。

(2)「長平の戦い」以降混乱を極めていた邯鄲かんたんだが、異人いじんの監視は厳しいから誰か身代わりでもいない限り脱出は到底無理!そう思っていると、37話では異人いじんの“そっくりさん”が登場し、異人いじんの脱出行に大きな役割を果たすので、中国の歴史ドラマはうまく作るものだと感心!宴の席で酔っ払った“替え玉の異人いじん”を残して、異人いじん呂不韋りょふいがまんまと邯鄲かんたんからの脱出に成功する姿を楽しみたい。なお、異人いじんの監視役だった公孫こうそんけん将軍は、長い間異人いじんの日常に接し彼の能力や人柄を理解していく中で、最後には異人いじんのファン(味方)になってしまうので、その変身ぶりにも注目!

(3)皓鑭こうらん異人いじん呂不韋りょふいと一緒に脱出したいと願っていたのは当然だが、そこで大きな障害になったのは皓鑭こうらんが身重だったこと。つまり、彼女のお腹の中には将来の始皇帝の命が宿っていたわけだ。妊娠から陣痛・出産までの時間はすべての女性に共通だから2人の脱出の時期がたまたま皓鑭こうらんの陣痛の時期に重なったのは不運。そのため、皓鑭こうらんは涙を飲んで邯鄲かんたんに残ることに。さあ、皓鑭こうらんは無事出産することができるの?そしてまた、生まれてきた赤子は母親とともに秦に戻ることができるの?

(4)『キングダム 運命の炎』(23年)の編では、せいの秦への決死の脱出行が面白く描かれていたが、本作では脱出できたのは呂不韋りょふい異人いじんの2人だけで身籠ったまま趙に取り残された皓鑭こうらんは趙でせいを産み、以降も「不遇の8年間」を趙で過ごすことになるので、それを耐え忍ぶ皓鑭こうらんの姿に注目!
 前半(1~38話)は以上。後半(39~62話)は「コラム5」をお楽しみに。

(弁護士・映画評論家)

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