一般2025年09月10日 「始皇帝モノ」は面白い。連載コラムその4 ─応用編⑵『コウラン伝 始皇帝の母』 (前半・1~38話)の紹介─(法苑WEB連載第19回)執筆者:坂和章平 法苑WEB

(1)コラム3では、「始皇帝モノは面白い」の応用編⑴として、『大秦帝国』シリーズ全4作、①『大秦帝国』(09年)、②『大秦帝国縦横~強国への道~』(12年)、③『昭王〜大秦帝国の夜明け〜』(17年)、④『始皇帝 天下統一』(20年)を紹介した。これらは秦の25代君主・嬴渠梁、26代・嬴駟、28代・嬴稷、30代・嬴子楚(27代・嬴蕩は3年のみ、29代・嬴柱は3日のみの在位)たちが、大胆な法治主義改革と衛鞅、呂不韋、李斯等の賢才の登用によって西方の野蛮な弱小国を強国化していく姿を、男たちの権謀術策や肉弾相撃つ戦争の数々とその裏側にあるさまざまな政略結婚や恋愛・悲哀の中で描いた「歴史モノ」だった。
(2)そこで、コラム4では、応用編⑵として、『コウラン伝 始皇帝の母』(19年、全62話)(以下『コウラン伝』と略称)を紹介する。まず本作は、劇団四季の『ミュージカル李香蘭』で有名な李香蘭とは縁もゆかりもない女性であることに要注意。次に、この李皓鑭こそ『大秦帝国』シリーズでは「趙姫」と呼ばれ、映画『キングダム』シリーズでは「太后」と呼ばれている、第30代王・嬴子楚(荘襄王)の妻(正室)であり、嬴政(後の始皇帝)の産みの母親だということに注目!すると『コウラン伝』は厳密には「始皇帝モノ」と言えないかもしれないが、本作後半からは若き日の始皇帝=嬴政が登場し、『大秦帝国』とよく似た物語が展開していくのでそれに注目!そもそも約2000年前に誕生した始皇帝自身が多くの謎に包まれている人物なのだから、その生涯をドラマ化するにあたって史実だけでなく、さまざまなフィクションが付加されるのは当然。そんな本作の鑑賞によって、より多角的・複眼的に始皇帝モノを楽しめるはずだ。
(3)なお、本作は観れば観るほど面白くなり、思うがままに書き進めているとどんどん長くなってしまったため2回に分け、コラム4では応用編⑵として前半(1~38話)を、コラム5では応用編⑶として後半(39~62話)を紹介する。なお、私は中国TVドラマ『コウラン伝 始皇帝の母』と対比して読むべき小説として、塚本靑史著『バシレウス 呂不韋伝』(2019年・NHK出版)を推薦したい。その概要については別途紹介する。
(4)続くコラム6では、応用編⑷として、『ミーユエ 王朝を照らす月』(以下『ミーユエ』と略称)を紹介したい。これは、楚国に誕生した女児・羋月が明るく美しい娘に育った時点で、秦の嬴駟(後の26代・恵文王)が楚に嫁取りに赴く物語から始まる。実際に嬴駟に嫁いだのは異母姉の羋姝だが、羋月も同行したためその後の3人の運命は大きく変わり、羋姝の息子・嬴蕩(27代)と羋月の息子・嬴稷(28代)との秦王の座を巡る相続争いは羋月と羋姝の決定的対立にまで!そして嬴駟が死亡すると・・・?『ミーユエ』は始皇帝誕生直前の歴史モノとしても面白いが、それ以上に美人女優・孫儷の出演で人気を博したうえ、後に始皇帝の高祖母(おばあさんのおばあさん)・「宣太后」として女性初の権力を行使し、異民族の義渠王とも浮き名を流した女性(?)としても有名な羋月を主人公として、嬴駟から嬴稷(26代~28代)へと続く、秦の強国化時代を興味深く描いているので、コラム6もお楽しみに。
(1)多くの日本人にとって、「始皇帝の母」=李皓鑭も、「始皇帝の父」=嬴異人も全く知らない人物である上、呂不韋に至っては、それは実在した人物?それとも架空の人物?と思うほど未知の存在だ。したがって、原泰久の漫画『キングダム』の大ヒットが意外なら、塚本靑史の『バシレウス 呂不韋伝』のヒットはそれ以上に意外だ。そもそも「バシレウス」とは一体ナニ?呂不韋とは一体誰?
(2)同小説の「序章 金貨」では、2019年春、記者たちに囲まれた、始皇帝兵馬俑博物館の趙永晟研究員が、始皇帝陵から幸運にも宝物庫を発掘でき、そこには副葬品の他、「間違いなく古代ギリシアの金貨があった」ことを報告する姿が描かれる。その金貨を巡って記者たちの質問に答える形で趙が、「ヘレニズム文化の影響が、始皇帝時代の中国に及んでいたと思います」と答えた上、「始皇帝陵から、妃や公子と思われる人物の頭蓋骨も発見されています」と発言したから記者たちは興味津々だ。ところが、「以前から言われていたように、始皇帝にはソグド人だった呂不韋の血が入っていたことが、裏付けられたのでしょうか?」との質問に対して、趙はにべもなく「判るのは、妃と公子に白人系統の遺伝子があったということだけです。多分、憶測されているように、始皇帝も同じような骨格でしょう。だから公子にも、そのような遺伝子が受け継がれたと考えられます。今はそれ以上のことを、特に確認できません」と答えたから、アレレ、アレレ。つまり、「始皇帝と呂不韋の親子関係は以前から取りざたされていることだが、今回の頭蓋骨から見えるのは、決してDNA鑑定的な証拠ではない」というわけだ。なるほど、なるほど。
(3)記者たちは趙研究員からそれ以上の話を聞き出せなかったが、私たち読者はそんな「序章」を経た上で始まる全314頁の壮大な『バシレウス 呂不韋伝』の物語に限りないロマンを持って臨むことになる。
そして同書の人物相関図と主な登場人物一覧を読めば、呂不韋の父親・呂希は、「ソグド人の商人。ソグディアナ、大宛から中華に出て、秦の咸陽に店を持つ」、呂不韋は、「韓の陽翟に店を持ち、自由な発想と独自のルートを持つ大商人。趙の質子に出されていた秦の公子・嬴異人を見いだし、王位に就ける」と紹介されている。また同作でも嬴異人は、「(荘襄王)[前281~前247]後に諱を子楚。始皇帝の父。趙で質子として暮らしていたが呂不韋に見いだされる」と解説され、嬴政も、「(始皇帝)[前259~前210]嬴異人の息子。幼少期、趙で質子生活を送る。秦に帰還後、13歳で王位に就く。中華の統一を目指す」と紹介されている。ところが同作で始皇帝の母とされているのは、朱綾児。そして、彼女は、「朱百覧と朱仍の娘。嬴異人に嫁いで嬴政(後の始皇帝)を産む」と紹介されている。つまり朱綾児=李皓鑭というわけだ。なるほど、なるほど。
(4)同書は、300頁余の大著だが、登場人物のキャラの濃さとストーリーの面白さで一気呵成に読むことができる。本作の鑑賞のお供として同書の併読を強くお勧めしたい。
(1)『ミーユエ』以降、私が中国TV時代劇にハマったのは、何よりもスケールの大きさと物語の面白さだが、もう一つ別の理由は、2005年以降コツコツと独学を続け、中国語検定3級やHSK5級に合格している中国語学習に役立つからだ。ドラマ中で語られる中国語のセリフだけではその意味を聞き取れない(听不懂)けれども、日本語の字幕があれば聞き取ることができる(听得懂)ものも多いから、ドラマ鑑賞がより楽しくなり、より熱が入ってくるわけだ。
(2)本作の一方の主人公は、BC3世紀に趙の名家の娘として生まれた李皓鑭(リコウラン)。リコウランと聞けば劇団四季の『ミュージカル李香蘭』を思い出すが、前述のとおりそれは偶然の一致で、本作の主人公・李皓鑭は日本による満州国建設の時代に超有名になった歌手の李香蘭とは全く別の人物だから要注意!本作の李皓鑭は原泰久の『キングダム』が描く太后。彼女は嬴政(後の始皇帝)の産みの母親だから、そのことをしっかり頭に入れておく必要がある。また、史実では「趙姫」は呂不韋の愛妾から秦王・嬴子楚に嫁し、嬴政の即位後も愛人・嫪毐を囲って混乱を招いた淫婦とされているが、本作では愛情と深謀を兼ね備えたヒロインという新解釈で描かれているので、それに注目!
(3)本作の他方の主人公は、『大秦帝国』でも登場した呂不韋と嬴政(後の始皇帝)の実の父親になる嬴異人(後の嬴子楚、30代・荘襄王)の2人だ。三者それぞれの出会いに面白い物語が展開していくのは当然だが、この3人の主人公は男女関係においても、権力闘争においても最後の最後までもつれ合い絡み合っていくので、そのドロドロ感を堪能したい。歴史の解釈はいろいろだから、①嬴政の父親は嬴異人ではなく呂不韋だという説、②即位した嬴政の摂政になった李皓鑭は宦官の嫪毐に権力と地位を与えた他、子供までもうけたとの説もあるから、それにも注目だ。
(4)しかして、私の独断と偏見による本作の3つのテーマは、次の3つ。すなわち、
①李皓鑭と呂不韋の絆をどう考える?(互いに利用?生涯の同志?男女の愛?)
②脱出までの呂不韋と嬴異人の絆をどう考える?(互いに利用?再三の失敗はなぜ?脱出の成功は?)
③秦での地歩固めと権力掌握、三角関係の展開・清算は?
だ。この3つのテーマは全62話の壮大なストーリーの中で相互に絡み合いながら登場してくるうえ、3人以外にも個性豊かなたくさんの登場人物がさまざまなサブストーリーを展開していくので、「コラム4」ではテーマ①と②を、「コラム5」ではテーマ③を紹介する。
(1)本作は、紀元前3世紀、趙の名家・李赫の側室の娘である皓鑭がいきなり正室の高敏から縄に縛られて川に投げ込まれる物語から始まる。高敏によって実母を殺され、恋人と思っていた趙王の息子・蛟王子も高敏の娘(異母妹)の岫玉に奪われた上、殺されかかったのだから大変だ。何とか命は助かったものの、皓鑭は高敏から奴婢として売り出されてしまうことに。
(2)皓鑭の顔の傷は売却防止のために自らつけたものだと見抜いた衛の大商人・呂不韋は、奴婢としてではなく、自分の夢を実現するための同志とするため皓鑭を買い受けることに。天性の美貌に加え、琴でも舞踊でも天才的な能力を見せつけた皓鑭に呂不韋は大喜び。皓鑭を女官として宮廷に送り込むことに成功すれば王族とのつながりは思いのまま。この女への先行投資はいくら大きくても必ずモトが取れる!1~3話では、野望のため皓鑭を利用しようとする呂不韋の思惑に腹を立てながらも2人が互いの目的実現のため手を組んでいく姿が描かれる。そして、コトはそんな呂不韋の思惑通りに進んでいくから、さあ、お立ち合い!
(1)趙の人質として秦から送り込まれていたのが嬴異人。彼が人質とされたのは、父親の安国君(28代昭襄王・嬴稷の太子・嬴柱、後の29代孝文王)の“27名もいる子”の中の“どうでもよい子”だったからだ。日本の戦国時代、駿河の大大名・今川義元の人質とされた三河の小大名の息子・松平友康(後の徳川家康)は義元に大切に育てられたが、異人はさにあらず。不遇の日々を送っていた。また、異人の生母の夏姫は既に安国君の寵愛を失っていたから、秦と趙との休戦協定に伴う人質として長い間、趙で過ごしていた異人の後ろ盾は皆無だった。さらに安国君の父親・昭襄王はしばしば趙との協定を破って軍事攻勢を仕掛けていたから、異人はいつ殺されてもおかしくない立場だった。
(2)そんな異人と呂不韋の最初の出会いは4話。場所は牢の中だ。それは、異人が秦の進軍を伴って投獄され、呂不韋も秦の間者の疑いで囚われたためだが、そこで共に過ごし、多くを語り合った処刑までの時間は大いに有益だったらしい。そのうえ、異人に想いを募らせる雅王女と呂不韋の配下・司徒缺の働きによって2人とも釈放されたからラッキー!
(3)秦の人質たる異人に対する呂不韋の“将来の投資のための大博打”は、「異人を将来、秦の太子とし、自分はその補佐役に」という壮大なものだからすごい。そこで、呂不韋は、異人への多額の“直接投資”を行うとともに、大金を投じて秦の都・咸陽にいる安国君の正室・華陽夫人に対してさまざまな工作を行うことに!そんな大博打実現のためには、異人の趙からの脱出が不可欠だが、それはいつ、どのように?
(4)本作導入部(1~8話)では、趙の宮廷を舞台に、まずは皓鑭、呂不韋、異人の出会いとそれぞれの絆をしっかり確認したい。もっとも、そこでは異人と皓鑭の“出会い”は未だ登場せず、異人には好意を示した雅王女が急接近していくので、それに注目!趙王の正室・厲王妃の娘たる雅王女が、なぜ秦の人質たる異人に好意を寄せたのかは、兄の蛟王子にも母親の厲王妃にもよくわからない“女心の謎”だが、異人は雅王女には一切関心を示さず、一方的に皓鑭に興味を示したから雅王女はお冠。そのため、異人を巡る雅王女の皓鑭に対する嫉妬心が、前半の注目すべきサブストーリーになる。他方、「皓鑭は俺の女だ」と思い込んでいる呂不韋も、異人が何かと皓鑭に好意を示すことには不満だが・・・。
1 趙の王室模様は?国王は?太后、王子、王女たちは?
(1)異人が人質時代を過ごしたBC3世紀(春秋戦国時代)の趙国の王は趙丹、その正室は厲王妃、その息子は蛟王子、娘は雅王女だ。美女に目がない趙丹だが、側室の存在を含めて常にものごとを冷静に処理することができる厲王妃には頭が上がらないようだ。他方、趙丹と側室・雲王妃の息子・羽王子は蛟王子の腹違いの弟。そして、幼い頃に側室の母・元少妃を失った息子(蛟と羽の弟)が逸王子だ。王妃のわがままな実子たる雅王女がなぜ異人を好きなったのかはわからないが、本作では雅王女が異人を追い回す姿が再三登場するので、その(サブ)ストーリーに注目!
(2)蛟王子は皓鑭を裏切り、皓鑭の異母妹である岫玉(母親は皓鑭の実母を殺害した高敏)と結婚したが、皓鑭が呂不韋と“同志”の関係になったうえ、皓鑭が厲王妃の仲介(?)によって異人と結婚することになると、雅王女には皓鑭に対する対抗心がメラメラと・・・?他方、蛟王子と羽王子の跡目争いは如何に?また、皓鑭への想いを断ち切れない蛟王子に対する蛟の妻・岫玉の嫉妬心は如何に?
(3)逸王子は跡目争いには一切興味を示さず、幼馴染みの殷小春を一途に想っていたが、一方で2人の兄の跡目争いが激烈になり、他方で秦との戦いが風雲急を告げてくると・・・?さらに、趙丹と恋仲だったにもかかわらず、趙丹を姉の厲王妃に奪われて秦国に赴いていた蜀候夫人が息子の嬴括を連れて20年ぶりに趙に戻ってくる事態になると・・・?
2 女医・殷小春に注目!準主役として重要な役割を!
(1)本作で重要な役割を果たすのが女医の 殷小春。中国では『女医明妃伝~雪の日の誓い~』(16年・全50話)をはじめとする女医を主人公にしたドラマも大人気だが、殷小春は波乱万丈のさまざまなストーリーに再三登場する。2000年前の中国の歴史ドラマにはよく毒殺のための毒や生き返らせるための解毒剤が登場する。シェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』(16世紀)では、ジュリエットが怪しげな薬を飲んで仮死状態になる場面があるが、それとよく似た場面が『大秦帝国』にも本作にも再三登場する。そこで不可欠なキャラが医師だが、本作導入部では殷小春が伝染病の治療で大活躍する他、毒殺を巡るさまざまな怪しげなストーリー(?)にも再三登場してくる。
(2)さらに小春は、幼馴染である逸王子と想い合っていた関係だが、戦国時代にそんな2人の恋がスンナリ成就するはずはない。幼い日に側室の母を失い、王権争いには全く関心のない逸王子だが、小春との恋は容易に進展しない。そればかりか本作後半では、小春の前に秦の将軍・白仲が登場してくるうえ、逸は白仲の手にかかって殺されてしまうから運命は残酷だ。さらに、小春は敵と思っていた白仲からの愛の告白(?)を受けるから、さあ小春はどうするの?このように小春は常に皓鑭の側に寄り添い、最後の最後まで皓鑭の親友としての役割を果たすので、それに注目!
(1)歴史上“絶世の美女”は数多い。「世界の三大美女」はクレオパトラ、楊貴妃、小野小町だが、「中国の四大美女」は、西施、王昭君、貂蝉、楊貴妃だ。それに対して、第16話に登場する「絶世の美女」が韓から趙丹に献上された韓瓊華(韓少妃)だ。趙丹はそのあまりの美しさにメロメロになってしまうため、趙の後宮ではさまざまな異変、トラブル、事件が発生していくのでそれに注目!
(2)いくら弱小国・韓からの人質とはいえ、美女が趙王の側室として入ってくれば、後宮の全権力握っている正室の厲王妃はともかく、側室の雲少妃、梅少妃らがメラメラと対抗心を燃やしたのは当然。娘の雅王女ですら若い美女が父親に甘える姿を許せず、韓少妃への対抗心から皓鑭に味方する場面まで登場してくるから面白い。しかし、韓少妃が単に趙王に甘えるだけの存在でないことは飼っている鳶を使って母国に情報を流している姿を見るとすぐにわかる。この美女はかなり頭も良さそうだ。「長平の戦い」の大敗北で趙王が倒れ、趙の滅亡が迫る中、韓少妃は蛟王子、羽王子、逸王子という三者三様の対立を利用しながら、韓のために如何なる行動を?また、クレオパトラの最期は自ら毒を煽ったものになったが、韓少妃の最期は如何に?
(3)趙で過ごす瓊華はその美貌によって趙王の寵愛を受けていたが、所詮、その実体は韓から派遣された人身御供。そうすると彼女は考え方によっては、厲王妃の世話で異人と結婚したため人質の妻として不遇の状況下にある皓鑭と同じ境遇?そんな共通点の他、①女ながらも一匹狼、②男に一歩も引きを取らない知恵と腹の座り、③自己のビジョンに忠実で一切ブレない、等の共通点があったから、そんな本質(本性)を互いに理解・確認し合う間柄になると、2人には微妙な女同士の友情と信頼関係も!
(4)なお、「始皇帝モノ」の後半には、政の異母弟たる成蟜の反乱と、皓鑭が重用した怪しげな男(宦官?)である嫪毐の反乱が大事件として必ず登場する。本作に見る嫪毐は何と韓出身の美女・瓊華の実の弟だから、ビックリ!
(1)白起は、『ミーユエ』では、趙から秦に向かう途中で義渠王に囚われた羋月が囚われの地で自ら育てた“狼の子”として登場する。そして、秦に入った羋月が26代秦王・嬴駟の側室となり力をつけてくると、彼も力をつけて秦の大将軍となり趙との戦いではそのトップに!他方、趙の将軍・廉頗は白起率いる秦の軍事攻勢が強まる中じっと耐え守りに徹していたが、それに不満な勢力が趙奢将軍の息子・趙括を総大将として秦に対抗することを主張し、それを趙王が採用。それによって発生したのが「長平の戦い」だ。そこで趙軍は軍神・白起率いる秦軍に大敗!趙軍の捕虜約20万人が生き埋めにされてしまうことに。
(2)独自のキャラ、信が王騎に憧れて大将軍になる夢を統一テーマにした映画『キングダム』シリーズでは、『キングダム2 遥かなる大地へ』(22年)で「蛇甘平原の戦い」が、『キングダム 遥かなる炎』(23年)で「馬陽の戦い」が壮大なスケールで描かれていたが、「長平の戦い」での信の活躍場面はなかった。それはともかく、「長平の戦い」の勢いに乗って白起が邯鄲を攻撃すれば趙の滅亡は確実だったが、白起の勢力拡大を危惧する秦の丞相・范雎が昭襄王(嬴稷)に上奏してそれを中止。激怒した白起は病と称して以後の出仕を拒むことに。すると、その後の、邯鄲攻略を巡る秦の戦略と趙の対抗策は如何に?
(1)趙王が倒れた後、蛟、羽、逸の三王子による秦への対抗策が容易にまとまらず混迷を極めたのは仕方ない。しかし、白起将軍が病と称して引きこもっている間に、45万人の趙軍を亡き者にされた趙の秦への恨みと迎撃態勢が強化されたため、翌年の王陵を将軍にした邯鄲への侵攻は難航。さらに魏の援軍まで駆けつけてきたから、昭襄王は「やっぱり白起将軍が必要!」と出仕を命ずることに。ところが白起はそれを頑なに拒否したため、白起将軍の自刎という悲劇まで勃発するから、そんな“実話”を『ミーユエ』と対比しながらじっくり楽しみたい。さらに、女子供まで「邯鄲を守れ!」と奮起した趙は「秦軍への見せしめに!」とばかりに磔状態にした異人を秦軍の前面に押し出すことによって対抗したが、その策の是非は?そして、異人の命は?
(2)本作は冒頭に示した3つのテーマを中心とした壮大な男女の物語だが、「長平の戦い」後の戦いの一時停止を経た後に続く邯鄲への総攻撃の中で、人質たる異人の立場がどんどん危うくなっていくのでそれに注目。そんな戦況下、呂不韋の異人脱出構想は如何に?
(1)8話では、異人の実母・夏姫に異人の救出を訴えるため、呂不韋の配下である司徒缺が秦の都・咸陽に赴く姿が描かれる。夏姫からの血書を受け取った安国君は異人の孝心に心打たれ、異人を秦に戻す約束したから、呂不韋の企みの第一歩は成功!それを受けて13話では、趙国に攻め入った魏軍と楚軍を追っ払った隙に、呂不韋が異人を連れて秦に脱出しようとするものの蛟王子に捕まって失敗。14話でも再度の秦への逃亡が失敗。そこで、15話では、呂不韋は異人の逃亡を成功させるある奇策を思いつくが、それは一体何?
(2)他方、異人の人質時代の趙を舞台に始まる本作前半では、趙の廉頗将軍が守りに徹していたため秦の人質・異人は安全だったが、蛟王子にはそれが不満。そこで24話で蛟王子が秦との和議を趙丹に進言し、呂不韋がその使者に推薦されるところから局面は大きく転換していく。つまり、呂不韋はそこで異人の秦への帰還を条件として、和平の使者になることを受け入れ、かねてより計画していた秦の華陽夫人に対して異人を養子として迎え、将来の秦の太子候補とする計画を実現させようとしたわけだ。ところが、25話で、皓鑭と熱い想いを打ち明けあった呂不韋は「必ず戻る」と約束して秦へ出発したものの、途中で刺客に襲われることに。そして、26話では邯鄲で暮らす皓鑭のもとに呂不韋が刺客に襲われ命を落としたとの報が伝わるからアレレ、アレレ。
(3)もっとも、ここで呂不韋が死んでしまえばその後の物語は成立しない。機転を利かせて敵の目を欺き何とか生き延びた呂不韋は27話では、秦の都・咸陽に入り、宣侯夫人の取り継ぎにより、宣侯夫人の妹で、安国君(嬴柱)の正室・華陽夫人と面会することに成功。華陽夫人と安国君の間に子供がいないことに目をつけていた呂不韋は、異人を華陽夫人の養子とすることによって異人を秦の正当な世継ぎとしてデビューさせるという大構想を提案。華陽夫人がこれを快諾したから、さあ局面は大転換だ。
(4)安国君は長い間、秦王・嬴稷(28代)の太子の座にあったが、安国君が自分の後継者として目をつけていたのは、27人もいる息子の一人たる子傒。そして、子傒の後ろ盾になっていたのは丞相の范雎だ。したがって、呂不韋と華陽夫人の「異人を太子に!」との企みを知った子傒が呂不韋の大構想を知ってそれを阻止しようとしたのは当然だ。しかし、26代・嬴駟の側室で、28代・嬴稷の産みの母親たる羋月(始皇帝の高祖母=おばあさんのおばあさんにあたる、宣太后)と同じ羋一族である華陽夫人は、安国君の寵愛を利用して、異人を子傒の“対抗馬”とする決断を下したため、以降、呂不韋と結んでその戦略を着々と進めていくことに。
(1)呂不韋死す!26話でそんな報告を受けた皓鑭が悲嘆に暮れたのは当然だ。そんな状況下、秦の都・咸陽での呂不韋による華陽夫人への工作は着々と進展したが、趙の都・邯鄲では、かねてより言い寄ってくる雅王女に対して、「あなたを愛していない」と突き放した異人と皓鑭との婚儀が進んでいくのでそれに注目!これは雅王女の母親たる厲王妃の計らいによるものだが、それは一体なぜ?また異人の気持ちには何の問題もないが、「呂不韋の帰りを待っている」と誓った皓鑭は「呂不韋死す!」の報告を鵜呑みにして、異人との結婚を承諾するの?そんな疑問が広がる中、28話では遂に異人と皓鑭との婚姻が実現!もっとも、2人の初夜は別々。しかもそこで皓鑭は「この婚礼は仮の姿。異人が秦に戻れば別の妻を娶ればいい」と明言したから、アレレ、アレレ。こんな状態でこの夫婦はうまくいくの?また、子宝に恵まれるの?
(2)長い間対立を続けてきた春秋戦国時代にあって、なぜ秦が強国化し六国を滅ぼし天下統一を成し遂げたの?それは衛鞅(商鞅)が提唱した「法治主義」を徹底させて、貴族の特権を取り上げ、出身地も身分も問わずただ軍功のある者を実績に応じて幹部に取り立てたためだ。その姿は、『大秦帝国』シリーズ全4作で詳しく描かれていたが、「長平の戦い」当時の趙と秦の力関係はまだまだ微妙。したがって、趙丹が倒れ3人の王子の対抗策もうまく機能しない中でも、女子供を動員し、磔状態にした秦の人質・異人を殺してしまえば、まだまだ趙の抵抗は可能だ。そんな危機一髪の異人の命を捨て身の行動で救ったのは、妻・皓鑭だ。もっとも、異人と皓鑭の働きによってやっと秦を撤退させることができたにもかかわらず、一時的な平和が戻った趙での秦の人質・異人と妻・皓鑭の暮らしは、親友・小春の協力があったものの大変。皓鑭が里帰りした際には父親の李赫が襲われて殺されてしまう事件までも!
(3)他方、呂不韋は華陽夫人への工作の成功を一日も早く異人に伝えるため、趙に戻ることに。呂不韋が死んでしまったと考え、哀しみのどん底の中で異人と結婚し、人質という逆境の中で、小春の助けを受けながら何とか生き延びていた皓鑭は、思いがけない呂不韋の生還に大喜びだ。ところが、自分の留守中に皓鑭が異人と結婚したことを知った呂不韋が激怒したのは当然!今にも異人を殺す勢いの呂不韋だったが、そこでの三者三様の気持ちの整理は如何に?呂不韋にとって異人を咸陽へ連れ戻すことは、かねての大構想を実現するための第一歩。その構想には呂不韋自身が大きな権力を握ることも含まれていたが、その脱出に「同志であり恋人!」と誓い合った皓鑭を同行させることは必須。しかして、その実現は如何に?
3 異人と呂不韋が脱出に成功!しかし皓鑭は!
(1)29話では、2人の結婚を知った呂不韋が「命がけで尽くした俺に何と!」と責めるのに対し、異人が「皓鑭の心はお前だけだ」と返したうえ、「皓鑭と2人で逃げろ!」と叫ぶから異人は偉い。さらに異人は「皓鑭を娶ったのは事実だ。私を殺して皓鑭を奪ってくれ」とまで叫んだから呂不韋は納得!?他方、30話では趙王が異人を処刑しようとする直前に呂不韋が現れ、「華陽夫人の養子となった異人は今や将来の秦の太子。それを処刑すれば大変だ」と命懸けで訴えるから呂不韋も偉い。もっとも、呂不韋が異人に「大業を成就させるためなら女一人になどこだわりません」と言ったのは大失敗!?これを聞いた皓鑭は「男同士で私を譲り合うのは嫌!決めるのは私だ!」と叫んだが・・・。
(2)「長平の戦い」以降混乱を極めていた邯鄲だが、異人の監視は厳しいから誰か身代わりでもいない限り脱出は到底無理!そう思っていると、37話では異人の“そっくりさん”が登場し、異人の脱出行に大きな役割を果たすので、中国の歴史ドラマはうまく作るものだと感心!宴の席で酔っ払った“替え玉の異人”を残して、異人と呂不韋がまんまと邯鄲からの脱出に成功する姿を楽しみたい。なお、異人の監視役だった公孫乾将軍は、長い間異人の日常に接し彼の能力や人柄を理解していく中で、最後には異人のファン(味方)になってしまうので、その変身ぶりにも注目!
(3)皓鑭が異人、呂不韋と一緒に脱出したいと願っていたのは当然だが、そこで大きな障害になったのは皓鑭が身重だったこと。つまり、彼女のお腹の中には将来の始皇帝の命が宿っていたわけだ。妊娠から陣痛・出産までの時間はすべての女性に共通だから2人の脱出の時期がたまたま皓鑭の陣痛の時期に重なったのは不運。そのため、皓鑭は涙を飲んで邯鄲に残ることに。さあ、皓鑭は無事出産することができるの?そしてまた、生まれてきた赤子は母親とともに秦に戻ることができるの?
(4)『キングダム 運命の炎』(23年)の紫夏編では、紫夏と政の秦への決死の脱出行が面白く描かれていたが、本作では脱出できたのは呂不韋と異人の2人だけで身籠ったまま趙に取り残された皓鑭は趙で政を産み、以降も「不遇の8年間」を趙で過ごすことになるので、それを耐え忍ぶ皓鑭の姿に注目!
前半(1~38話)は以上。後半(39~62話)は「コラム5」をお楽しみに。
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