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一般2025年01月08日 株分けもの(法苑WEB連載第10回)執筆者:村上晴彦 法苑WEB  

1 田分けものと株分けもの
 たわけは、農民の田の分割相続は耕地が零細化し、やがて農業経営が困難となることにその由来があるという説がある(これには批判がある)が、その由来の真意はともかくとして、私のよく知っているある先輩の税理士は、今日では、田を分けるではなく、株を分けるのがそれに当たるとおっしゃる。
 株を子や孫に分散して贈与した場合、贈与税は税率が累進構造となっているから、それぞれの者の税負担は少ないが、安易に株を分けたことが将来大きな問題となるというのである。
 例えば、先々代の甲が創業したX会社は業績を大きく伸ばし、甲が還暦を迎えたころには、X会社の株式は相当な金額となり、相続税が心配になったことから、税理士と相談したところ、相続税対策として子や孫などに株式を分散して贈与してはどうかというアドバイスを受けた。
 そこで、甲は毎年、子、孫に株式を贈与したところ、甲の相続税の対策としては大きなメリットがあった。
 甲を相続してX社の会社経営を引き継いだ先代の乙も甲にならって、X社の株式を孫に贈与する相続税対策を行い、乙の相続人である丙らはある程度の相続税負担を軽減することができた。
 問題が発生したのは、乙を引き継いだ現経営者丙の時である。
 突然、会社経営に関与していない叔父Aから、X社の株式を時価で買い取ってほしいとの要望があった。
 買取を求められた価額はいわゆる時価純資産方式で計算され、相続税評価額より高額であったことから、売買交渉は容易に進まなかった。
 そのため叔父Aは他の株主である親族とともに、X社の株式を他人に譲渡するという話まで持ち出し、一時期、丙は会社経営どころではない状況となった。
 ある先生は、このような状況にある納税者からの相談を見聞きして、その経験から相続税対策として株式を分散して親族に持たせるという安易な相続税対策を、「株分けもの」と称したのである。
 このような株の分散は、一時の「相続税」対策となり得ても、将来の会社経営に大きな不安を残す可能性があり、安定的な「相続」対策にはなり得ないから、昨今ではあまり利用されない手法となった。
 他方、相続税対策として、資産管理会社を作るなどという手法もある。
 これは、土地や資産を直接持たないで、資産管理会社を通じて持つことで、評価額を抑え、更に、株式として細分化することで、生前に子孫への移転を容易にできるとされるものであるが、このような手法による株式の分散も同様の危惧がある。
 いずれにせよ、同族会社の株式等については、親が遺言により道筋(後継者)を定めるか、それがない場合は相続人間でよく話し合い、将来に向けて争いの発生することのない内容の遺産分割協議をすることが重要と思われ、それにより仮に株を取得した者に一時的な負担(税負担、代償財産の交付など)があっても、それは将来の投資と考えるべきかもしれない。

2 その場しのぎの共有
 土地を法定相続分で共有として相続する話である。
 祖父は郊外の大きな土地を持っていたが、父と叔父は祖父からその敷地を無償で貸借して、その敷地内に家を建てていた。
 父はその敷地に自宅のほか、工場を建て機械工作の事業を営んでおり、私もそこで働いている。
 祖父の相続に際して、叔父は父に敷地の利用に応じた分割を提案したが、父は、その案では土地を多く取得することとなり祖父の預貯金などが十分に取得できないという不満があったことから、法定相続分(二分の一)での共有を主張して、結局父と叔父とがその土地を共有で相続することとなり、その敷地も相互に無償のままで利用していた。
 その後、叔父が死亡し、叔父の持分を相続した叔父の長男から、父に共有物の分割による土地の共有解消の話があった。その分割提案は、実際の利用に合わせて土地を分割するというものであるが、共有地を広く利用している父はその一部を買い取ることとなるので、その提案に反対し話は流れたが、叔父の長男は、敷地のうちおおよそ三分の二を事実上使用している父に対して、持分以上の利用部分について地代相当額を請求してきた。
 祖父の相続の際に叔父の敷地分割に耳を傾けず、兄弟仲が良かったことから長年そのままにして甘えていた父・・・仲がいいから共有にする・・・いわゆる「とりあえず法定相続分で共有にする」という分割協議や遺言は、その場しのぎとなっても後の世代のことを考えると良策とはいえない。

3 7年加算の重圧と資金援助の在り方
 子や孫への資金支援の在り方を考える話である。
 贈与には、毎年、計画的に金銭を贈与する場合のように比較的に把握しやすいものもある一方で、父(後の被相続人)が長男に事業資金(事業は相続開始前に破綻している。)をその求めに応じて長期にわたり供与し、長男はその供与に対して返済をしていないということがある。
 父がこのように長男の事業に肩入れして、その求めに応じて多額の金員などを贈与していた場合で、これが例えば、過去7年で10億円程度の多額になるとしても、そのような事実を父と長男の間で内々でされ、また、長男が父から得た資金支援について、一切返済もせず、贈与税の申告もしていないとすると母や兄弟は(相続税の申告に際し長男の贈与税について税務署に開示請求を仮にしたとしても)知ることはできない。
 そのような状況の中で、父の相続が発生した。
 残された配偶者、長男、次男は、父の遺産を分割してそれぞれ財産を相続し、長男は相続した財産と自己の資産を相続税の納税と事業の失敗に伴う借金の清算に充てたため、無一文となった。
 ところで、暦年贈与の加算は7年である。その後の税務署の調査で、長男の父からの金銭受贈の事実が明らかとなった場合、父の長男への7年間の資金支援が贈与とされるとその分が相続税の計算に加えられ、多額の相続税が発生する。
 また、長男には時効が完成したものを除き贈与税が課税される。
 長男は無一文なので、その7年間の贈与により発生する相続税も贈与税も支払えないとすると、相続税には連帯納付義務があるから、配偶者、次男は取得した財産の範囲で長男の相続税を支払う義務が生じる。また、長男の贈与税については、父(被相続人)に連帯納付義務があるから、それを相続した相続人(配偶者、長男、次男)は父から法定相続分に応じて承継した連帯納付に係る贈与税を納税しなければならない。
 相続開始時にこのようなことがわかっていたら、長男に遺産を取得させない(贈与加算を免れることができる)又は、配偶者、次男は相続を放棄する(相続税や贈与税の連帯納付義務の承継を免れることができる)という手立てがあるが、父親の遺産を相続した後では、手の打ちようがない。
 原因を作った長男はともかく、配偶者と次男は災難というほかない。
 このような事態を想定すると、子や孫に事業支援をするのであれば、貸付(貸付金は相続財産となる。)や贈与(贈与と同等視される場合を含みます。)ではなく「出資」によるべきかもしれない。

4 株価暴落という悪夢
 遺産の大半が有価証券で、それを売却しないと納税資金が確保できないときに株価が暴落した場合の話である。
 被相続人は、低金利の時代、預貯金で保有するのはもったいないという時流と証券会社の勧めに乗り、それまで蓄えていた多額の預貯金を株式などにシフトし、そのおかげで、亡くなった時点では、ある程度の成功を収めていた。
 ここまで被相続人の先見は素晴らしかったが、相続開始直後にリーマンショックがあり、相続人は納税のために暴落した安値による株式売却を余儀なくされたという話を聞いたことがある。
 これは、相続税の計算に当たり、保有する有価証券は納税までの株価の暴落を考慮せず、相続開始時の暴落前の価額を基に相続税が計算されるからであるが、最近の有価証券の暴落を目の当たりにして、ふと、昔の悪夢を思い出した。
 多額の相続税納税が想定される者の資産運用は、預貯金から投資一点張りではなく、投資から預貯金にシフトし納税資金を確保して相続を迎えるというのもりっぱな相続税対策である。
 そのような対策がなく株価暴落という不測の事態に遭遇し納税資金を確保できない場合は、上場株式などの相続時の評価額での「物納」も選択枝として考慮しなければならないが、上場株式等による物納については、「延納によっても金銭で納付することが困難な金額の範囲内であること」等の要件があり、そのハードルが高いことも知っておかなければならない。
 他方、相続した株式に係る譲渡については、一定期間その株式に係る相続税を取得費に加算することで所得税を軽減できる特例があるが、これも被相続人が取得した価額よりも安値で売却しなければならない場合は役に立たない。

5 森林と地番・立木の評価
 時々、杉や檜の評価を依頼されることがある。
 このとき注意したいことを2つほど書いてみる。
 一つは、森林の所在は、宅地などと異なり、地番図での特定は困難である。
 森林には、森林の位置を示す位置図、林班図とその林班ごとの情報を管理する森林簿がある。
 林班図は、森林を尾根線、谷線、河川などで区切って、林班を作り、それを小分けして、小班を作り更に小班に枝番を作るなどして作られたもの。
 一番小さな単位は、小班の枝番であり、森林はこのように管理され、森林簿は、このように区分された小班や枝番ごとに植林されている樹種、樹齢、などの記載がある。
 しかし、これも完全なものではない。地元の森林組合だけでは森林情報の十分な管理はできないし、森林所有者が伐採の報告をしていない場合、伐採後、新たに植林されたところの樹木が、台帳では樹齢が百年を超える杉、檜ということもあるので注意したい。
 もう一つは、評価方法である。杉、檜を「標準価額」によって評価する場合、それに必要な情報を把握することができたら、その評価はそれほど難しいことではない。
 この「標準価額」はそれぞれ樹種が標準的な森林で育成されている場合の樹齢ごとの価額で、毎年国税庁のホームページに公開される。
 具体的な評価は、標準的な森林と評価対象となる森林とを①地利級、②地味級、③立木度の三つの要素の差を使って比較して評価するもので、これらの三要素を基に森林の総合等級を求め、それにより標準価額を補正して評価額を求める。
 この要領は、その路線の標準的な価額である路線価に、評価対象地の形状に合わせて様々な補正を行うのと変わるところはない。
 しかし、変化球は土地の評価にもあるように、立木にもある。
 森林の地域によって、杉と檜を一定の割合で植林がされている場合や、近年の風雨災害などによって、伐採した樹木を運び出すための最寄りの林道が失われ、その復旧がされていないことも多々ある。
 立木評価の要素のうち樹木を運び出すために重要な役割を担う林道の情報は、立木の評価を大きく左右する地利級(特に地利級に大きな影響のある「小出し距離」(伐採した立木をケーブルを架設して搬出する場合のケーブルの起点(通常評価対象森林の中心)から終点(評価対象森林から最寄りの林道)までの距離)に大きな影響がある。
 地図にはあるが、実際には跡形もなく失われている林道を基に「小出し距離」を求めると高い評価となってしまう可能性があるので注意してほしい。

(税理士)

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執筆者

村上 晴彦むらかみ はるひこ

税理士

略歴・経歴

昭和29年大阪府生まれ。関西大学法学部卒業。
昭和55年大阪国税局採用後、伊丹・尼崎税務署資産課税部門統括官、国税訟務官室総括主査、資産課税課補佐として相続税、譲渡所得に係る課税事務に従事。また、特別国税徴収官として大口の滞納整理事務に従事。西脇税務署長、大阪国税局徴収課長、同徴収部次長、堺税務署長などを歴任後、平成27年7月退官。同年8月税理士登録。

[主な著書]
・『税務担当者と実務家のための相続税・贈与税体系財産評価』(共著)(大蔵財務協会、2021年)
・『相続税の実務と対策』(共著)(第一法規、2020年)
・『相続税・贈与税のための土地評価の基礎実務』(共著)(税務研究会出版局、2018年)

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