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労働基準2025年09月12日 労働関係法制の検討課題 執筆者:矢吹保博

 近年、労働者を巡る環境は大きく変化しており、労働基準法をはじめとする関係法制の重要性がますます高くなっている一方で、従来の法制度では不十分な側面があることも否定できない状況となっています。
 このような背景をもとに、令和7年1月8日、厚生労働省が「労働基準関係法制研究会報告書」(以下「報告書」といいます。)を公表しました。報告書では、働く人を「守る」と「支える」という視点から、労働基準法制の改正に関する方向性が示されており、今後、この方向性をもとに改正の検討が進められることになります。
 本稿では、報告書で示された改正の方向性のうち、大きなポイントについて概観します。

【「労働者」の定義の見直し】

 労働基準法で保護の対象となる「労働者」について、労働基準法第9条「職業の種類を問わず、事業又は事務所・・・に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されています。しかし、様々な働き方が生まれている近年、「労働者」に該当するか否かで裁判所で深刻に争われるケースが増加し、その判断についての予測が難しくなっています。
 報告書では、諸外国における法制度等も参考に、労働者性の新たな判断基準を検討すべきとされています。

【最長労働時間規制】

 平成31年4月から働き方改革関連法が施行され、時間外・休日労働時間の上限規制が導入されました。ただ、その後にコロナ禍が発生したこともあり、その施行状況や影響についてはまだ明らかになっているとは言えません。報告書では、今後もそれらを注視しながら、長時間労働の是正に向けた取組が必要であると指摘されています。
 また、労働基準法の規制による労働時間の短縮だけではなく、企業が時間外・休日労働時間の実態について、企業の内外への情報開示を行う必要性についても指摘されています。外部に情報公開することで、労働者が就職・転職にあたって参考にすることができるようになり、企業間の競争が生じ、その競争を通じて労働条件の改善につながると期待されています。また、社内に向けて情報公開することで、勤務環境の改善や労働基準法違反の防止や是正に繋がるといわれています。
 さらに、コロナ禍で多くの企業が導入したテレワークについても、柔軟な働き方の一つとして積極的に評価されている一方で、労働時間管理の在り方が議論となっています。報告書では、テレワーク日と通常勤務日と混在する場合でもフレックスタイム制を利用できるような改善を行うといった方法や、テレワークにもみなし労働時間制を適用できるような制度を導入するための要件などが議論の対象となっています。

【労働からの解放に関する規制】

 報告書では、労働から開放される時間の確保という観点についても議論されており、具体的な項目として、①休憩、②休日、③勤務間インターバル、④つながらない権利、⑤年次有給休暇制度が挙げられています。
 ①休憩時間については、1日8時間を大幅に超えて労働する場合にも休憩時間は1時間でよいのか、休憩の一斉付与の原則は、現在の働き方に適合しているのか、といった点が議論されています。
 この点、8時間を超える労働時間になる場合、「早く仕事を終わらせて退勤したい」という意見も多いと思いますので、難しい論点だと思います。
 ②休日については、連続勤務を余儀なくされる業種・職種において、連続勤務が健康に与える影響を鑑みると現行の4週4休制では労働者保護として不十分ではないかという指摘がされています。
 ③勤務間インターバルについて、ヨーロッパ等では、日々の勤務と勤務の間に一定の時間を空ける義務が設けられていますが、日本では、明確な基準が定められていません。インターバルの時間としては「11時間」が一応の基準として指摘されています。
 ④つながらない権利とは、労働時間外において顧客対応などの業務を求められないことを保障するというルールです。スマートフォンやSNSなどのITが発達した影響で、退勤後も容易に連絡を取ることができる現在、新しい問題として議論されるようになりました。ただ、一切の連絡も許されないのか、一定の連絡であれば容認されるのか、その線引きが難しいところであり、今後の課題とされています。
 ⑤年次有給休暇制度について、長期休暇の取得のニーズなど年次有給休暇制度の在り方や、日給制・時給制で働いている場合における有給休暇期間中の賃金の計算方法などが議論となっています。
 この点、日本の社会ではバカンスという文化が浸透しているとはいえませんので、長期休暇を取得することによる有形無形の不利益をどのように防止するかが鍵になると思います。

【割増賃金規制】

 割増賃金の目的は、①労働者への補償と、②使用者に対して経済的負担を課すことで長時間労働を抑制するという点に目的があります。ところが、むしろ労働者側が割増賃金を希望して長時間労働を行う、長時間労働抑制機能が果たされていないなど、様々な意見が出ているところであり、今後の検討課題とされています。
 また、副業や兼業を行う場合、労働時間を通算した上で割増賃金を支払うこととされていますが、労働時間の管理が容易ではないなどの要因から、副業や兼業を諦めざるを得ない状況となっているのではないかと指摘されています。そこで、割増賃金の計算にあたっては、労働時間の通算を要しないような制度に改正するとともに、労働者の健康確保のための制度も合わせて導入するなどの方向性が議論されています。

(2025年9月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

執筆者

矢吹 保博やぶき やすひろ

弁護士

略歴・経歴

法律事務所あさひパートナーズ所属

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