民事2025年11月21日 厳格化される自転車の交通ルールと、自転車に優しい都市の必要性 執筆者:日置雅晴

自転車は、人間が使う乗り物で最もエネルギー効率がよく、排気ガスも出さないともいわれており、都市におけるエコロジカルな移動手段として世界的に人気が高まっている。しかし、他方で、日本では免許制度がなく、子供や高齢者でも、交通ルールの試験もなく自由に乗れる一方、電動アシスト付きや、高性能の自転車の登場で、交通事故の加害者になる事例も増えてきた。
このような社会情勢を踏まえて、2024年11月1日から、道路交通法における自転車の交通違反に対する罰則などが強化されるとともに、2026年4月1日から、いわゆる「青切符」制度が導入される予定である。
このあたりの自転車を取り巻く昨今の社会情勢を見てみよう。
まずは、自転車の交通違反に対する罰則の強化である。
これまでも自転車の飲酒運転は、罰則の対象(5年以下の拘禁刑または罰金100万円以下)であったが、
2024年11月から酒気帯び運転(3年以下の拘禁刑または罰金50万円以下)も罰則対象となった。
同時に、これまで自動車の運転者に限定されていた酒類の提供や同乗・自転車の提供行為も処罰対象(3年以下の拘禁刑又は罰金50万以下)となった。
さらに、ながらスマホ運転も罰則対象となった。(6ヶ月以下の拘禁刑または罰金10万円以下)
(さらにそれにより交通の危険を生じさせた場合は、1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)
また自転車がどこを通行すべきかについては、これまで曖昧で歩道と車道の両方が混在して走行に使われてきたが、車道の左側が原則とされ、歩道を通行する行為は原則違法となる(3ヵ月以下の拘禁刑又は罰金5万円以下)こととされ、今後は摘発事例も増えることが予想される。
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/jikoboshi/bicycle/menu/five_rule/five_rule01.html
このように、自転車による交通違反に対する罰則が厳しくなり、自転車だから法規を無視してもいいという甘えは許されなくなったと心得るべきだろう。
飲食店経営者も、自転車での来店者などにも酒類の提供をしないなどの配慮が必要となる。
また、2026年4月1日からは、自転車による交通違反に対しても、これまで自動車運転者に対してのみ適用されていた「青切符」(交通反則通告)制度が適用されることになる。これまで自動車運転者の軽い違反に対しては、いきなり刑事罰を科するのではなく、「青切符」手続で、違反を係争しない場合行政処分で済ませることができたが、自転車は免許制度の対象でもないことから、このような扱いはなかった。
逆にこれまでは青切符制度がないことから、自転車の交通違反はいきなり刑事罰を科す手続しかないことから、かなり悪質なものだけがその対象とされ、多くは摘発されないできたが、今後はかなり広範に違反行為が摘発され、青切符の対象となることが予想される。
なお、自転車の青切符で行政処分となっても、自動車の運転免許には直接影響はしないが、自転車の飲酒運転行為などが悪質と判断されると、自動車の運転免許が停止や取り消される場合があるとされており、実際にも、2014年に警視庁管内で3名の者が6ヶ月の免許停止処分となっている。職業運転手などにとっては、失職のリスクのある行為ということができる。
このような自転車の飲酒運転などへの罰則強化の動きと併せて、特に公務員やそれに準ずる地位の者に対しては、飲酒運転発覚時の人事上の懲戒権の行使事例が増えている。
直近の事例では、今年の8月には福岡市の市立病院機構の看護師が、10月には千葉県の教諭がそれぞれ自転車の酒気帯び運転行為により、懲戒解雇とされた事例が報じられている。公務員は以前から、自動車の場合、飲酒あるいは酒気帯び運転が発覚した場合、原則解雇され、退職金も支給されないという扱いの自治体が多かった。退職金については全面不支給が違法とされた裁判事例も一部あるものの、懲戒自体はほとんど覆っていない厳しい扱いがなされてきたが、今後は自転車の場合であっても同様の厳しい扱いを想定する必要がある。
自転車に対する社会の厳しい対応が予測されるが、冒頭に紹介したように、自転車は環境に優しい乗り物でもある。特にヨーロッパなどでは都市交通においてかなり重要な地位を占めているところも増えている。
残念ながら日本では、自転車に厳しい対応がとられる一方で、例えば車道の中で自転車通行帯が整備されているのはまだごく一部に限られている上、自転車通行帯に駐車車両が止まっていることも多く、自転車の安全な通行が保証されるにはほど遠い道路事情である。最近見たある地方都市では、車道を狭めた上で、自転車通行帯を整備するとともに自転車の通行を邪魔しないような自動車の駐車スペースが設けられている道路が造られていたが、このような道路は極めて例外的にしか造られていない。自転車の有益性を考えると、場合によっては自動車の通行を制限してでも、自転車利用者にとっても歩行者にとっても安心して通行できる都市構造の確立と、社会全体の交通ルールの確立が望まれるところである。
(2025年10月執筆)
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執筆者

日置 雅晴ひおき まさはる
弁護士
略歴・経歴
略歴
1956年6月 三重県生まれ
1980年3月 東京大学法学部卒業
1982年4月 司法習修終了34期、弁護士登録
1992年5月 日置雅晴法律事務所開設
2002年4月 キーストーン法律事務所開設
2005年4月 立教大学法科大学院講師
2008年1月 神楽坂キーストーン法律事務所開設
2009年4月 早稲田大学大学院法務研究科教授
著書その他
借地・借家の裁判例(有斐閣)
臨床スポーツ医学(文光堂) 連載:スポーツ事故の法律問題
パドマガ(建築知識) 連載:パドマガ法律相談室
日経アーキテクチャー(日経BP社) 連載:法務
市民参加のまちづくり(学芸出版 共著)
インターネット護身術(毎日コミュニケーションズ 共著)
市民のためのまちづくりガイド(学芸出版 共著)
スポーツの法律相談(青林書院 共著)
ケースブック環境法(日本評論社 共著・2005年)
日本の風景計画(学芸出版社 共著・2003年)
自治体都市計画の最前線(学芸出版社 共著・2007年)
設計監理トラブル判例50選、契約敷地トラブル判例50選(日経BP社 共著・2007年)
新・環境法入門(法律文化社・2008年)
成熟社会における開発・建築規制のあり方(日本建築学会 共著・2013年)
建築生産と法制度(日本建築学会 共著・2018年)
行政不服審査法の実務と書式(日本弁護士連合会行政訴訟センター 共著・2020年)
執筆者の記事
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