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教育2022年11月24日 学校の頭髪を巡る最近の裁判事例から思う 執筆者:日置雅晴

 自分が中学生だった半世紀前、地方の公立中学で頭はいわゆる丸刈りがルールとされていた。
 当時頭髪は頭を怪我から守る物のはず、何でこれをカットすることを強制させられるのか、何の意味があるのかと思いながらも、中学生故学校や自治体と裁判するとかは思いもせず、学校と教師から言われるままに丸刈りにしていた記憶が蘇る。
 あれから半世紀、教育現場は変わったのか、実際の教育現場の状況を常に見ているような状況ではないが、自治体関係の判例情報などを見ていると、いまだに頭髪などを巡る訴訟が起こっているようだ。
 最近の学校での頭髪問題を巡る裁判事例を紹介し、教育現場での頭髪などのルールや指導方法を司法がどう評価しているのかを見つつ、教育現場における生徒指導や校則の問題を法律家になった視点で見直してみたい。

① 甲府地裁令和3年11月30日判決 判例自治489号61ページ
  中学生が校内で教員に髪を切られたという事案を巡る国賠事件。判決は当事者の同意を得ながらヘアカットした事実は認めたものの、理容師の資格もない教師が工作用はさみでカットした点、事前にヘアカットについて保護者と連絡を取って協議せずにいきなりカットした点を違法な行為として慰謝料支払を命じた。
② 大阪高裁令和3年10月28日判決 判例自治486号34ページ
  高校生が、頭髪指導として黒染めを強制され、教室での授業を禁止され不登校になり生徒名簿から抹消されたという事案で、慰謝料を認めた地裁判決を是認し、髪色を定めた校則自体は適法としつつ、進級後の生徒名簿から抹消した行為は違法として、結論を維持した。
  このように、裁判事例は、学校の裁量をかなり広範に認めつつも、個別の事案に照らして、生徒指導の手法が手続きや方法において合理性があるかどうかも検証し、いずれも違法行為を認定し慰謝料の支払いを命じている。

生徒指導や校則については文科省は、こういった裁判例もふまえて、概要次のように解説している。

1 校則について定める法令の規定は特にないが、判例では、学校が教育目的を達成するために必要かつ合理的範囲内において校則を制定し、児童生徒の行動などに一定の制限を課することができ、校則を制定する権限は、学校運営の責任者である校長にあるとされている。
2 判例によると、社会通念上合理的と認められる範囲で、校長は、校則などにより児童生徒を規律する包括的な権能を持つと解されており、校則の内容については、学校の専門的、技術的な判断が尊重され、幅広い裁量が認められるとされている。
3 校則の内容は、社会通念に照らして合理的とみられる範囲内で、学校や地域の実態に応じて適切に定められることとなるので、学校種や児童生徒の実情、地域の状況、校風など、学校がその特色を生かし、創意工夫ある定め方ができる。ただし、しつけや道徳、健康などに関する事項で、細かいところまで規制するような内容は、校則とするのではなく、学校の教育目標として位置付けた取組とすることや、児童生徒の主体的な取組に任せることで足りると考えられる。
4 校則に基づき指導を行う場合は、一人一人の児童生徒に応じて適切な指導を行うとともに、児童生徒の内面的な自覚を促し、校則を自分のものとしてとらえ、自主的に守るように指導を行っていくことが重要。
5 教員がいたずらに規則にとらわれて、規則を守らせることのみの指導になっていないか注意を払う必要がある。校則に違反した児童生徒に懲戒等の措置をとる場合があるが、その際には、問題の背景など児童生徒の個々の事情にも十分に留意し、当該措置が単なる制裁的な処分にとどまることなく、その後の指導の在り方も含めて、児童生徒の内省を促し、主体的・自律的に行動することができるようにするなど、教育的効果を持つものとなるよう配慮しなければならない。
6 校則の指導が真に効果を上げるためには、その内容や必要性について児童生徒・保護者との間に共通理解を持つようにすることが重要。そのため、校則は、入学時までなどに、あらかじめ児童生徒・保護者に周知しておく必要がある。その際には、校則に反する行為があった場合に、どのような対応を行うのか、その基準と併せて周知することも重要。
7 学校を取り巻く社会環境や児童生徒の状況は変化するため、校則の内容は、児童生徒の実情、保護者の考え方、地域の状況、社会の常識、時代の進展などを踏まえたものになっているか、絶えず積極的に見直さなければならない。校則の内容の見直しは、最終的には教育に責任を負う校長の権限であるが、見直しの際には、児童生徒が話し合う機会を設けたり、PTAにアンケートをしたりするなど、児童生徒や保護者が何らかの形で参加する例もある。

 半世紀たっても相変わらずこのような裁判事例みたいな内容の生徒と学校の紛争がおこり、教育現場で解決できず、裁判で係争されているのかと残念に思う反面、文科省が示している考え方は、ある意味法律を作る場合の考慮事項や国民が社会に出て法律というルールの中で対峙して生活していく場合の国民と国や自治体の関係と大きく変わることはない。
 そう言う意味では、法律も校則も制定には合理的な立法事実が必要だし、それをふまえた合理的なルールが民主的に定められるべきであり、不合理なルールを学校や国が勝手に定めるべきではない。そのような思考を各人が学生時代の校則と向き合うことで身につけ、社会に出てからはきちんと法律と向き合って生きていく、そう言う能力を学生時代に身につけることは法治国家で生きていくために必要不可欠である。頭髪を巡る訴訟や校則を通じて、日本社会の法的統治という思考の理解レベルが向上するなら、不合理な校則や生徒指導の存在意義もあったのかもしれない。
 自分が今の法的知識を持って半世紀前学生だったら、裁判をいくつも起こしていたかもなあと思いつつ、裁判事例を分析してみた。

(2022年11月執筆)

執筆者

日置 雅晴ひおき まさはる

弁護士

略歴・経歴

略歴
1956年6月 三重県生まれ
1980年3月 東京大学法学部卒業
1982年4月 司法習修終了34期、弁護士登録
1992年5月 日置雅晴法律事務所開設
2002年4月 キーストーン法律事務所開設
2005年4月 立教大学法科大学院講師
2008年1月 神楽坂キーストーン法律事務所開設
2009年4月 早稲田大学大学院法務研究科教授

著書その他
借地・借家の裁判例(有斐閣)
臨床スポーツ医学(文光堂) 連載:スポーツ事故の法律問題
パドマガ(建築知識) 連載:パドマガ法律相談室
日経アーキテクチャー(日経BP社) 連載:法務
市民参加のまちづくり(学芸出版 共著)
インターネット護身術(毎日コミュニケーションズ 共著)
市民のためのまちづくりガイド(学芸出版 共著)
スポーツの法律相談(青林書院 共著)
ケースブック環境法(日本評論社 共著・2005年)
日本の風景計画(学芸出版社 共著・2003年)
自治体都市計画の最前線(学芸出版社 共著・2007年)
設計監理トラブル判例50選、契約敷地トラブル判例50選(日経BP社 共著・2007年)
新・環境法入門(法律文化社・2008年)
成熟社会における開発・建築規制のあり方(日本建築学会 共著・2013年)
建築生産と法制度(日本建築学会 共著・2018年)
行政不服審査法の実務と書式(日本弁護士連合会行政訴訟センター 共著・2020年)

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