民事2024年07月12日 膨大な所有者不明土地や空き家などの行く末を考える 執筆者:日置雅晴
ここ数年、いわゆる不明土地問題対策が話題となり、その原因として相続登記が義務ではないこと、土地所有権の放棄ができず管理ができない所有者は放置せざるを得ないこと、所有者が不明だと借地などでの土地利用交渉もできないことなどが指摘され、これを踏まえた一連の法改正がなされ、既に施行もされるに至っている。しかし、法制度は法律さえ作れば動くものではなく、制度の使い勝手や利用コスト(費用、手間、時間など)が社会に受け入れられなければ実効性を持ち得ない。一連の不明土地対策が現実に機能しているかどうかを、制度利用実績などから見てみたい。
まずは所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法の一部を改正する法律関連である。令和4年11月1日から施行されている。この法律では所有者が不明の土地について、第三者による地域福利事業などのための利用権設定対象や設定範囲が拡大されているが、国交省の資料においても、いくつかモデル事業が選定されていると記されているだけで、具体的な利用権が設定された件数などの報告は見当たらないことから、実施まで至った実例はごく少数ではと思われる。
たまたま知人が、神奈川県で、制度を活用した実証実験を行っているが、県で第一例ということであり、先例もないということで、地元自治体や県との調整などに苦労している。自治体はかなり協力的に対応してくれていると聞いているが、それでも用意すべき資料などもかなり大変で、役所にも何回も通って協議したりしており、かなりの時間と労力を要しており、実証実験的な位置づけならさておき、普通の状況では制度利用はかなり大変だと聞いている。先例がいくつか成立した後、どの程度手続きが合理化されるか、そこを見守りたい。
相続土地国庫帰属制度は、令和5年4月27日から施行された制度で、相続した土地について、一定の条件で国が引き取る(国庫に帰属させる)制度である。これまで、不要であっても土地の所有権を放棄することは制度上認められていなかったが、限定的では有るが、それを初めて認めた制度である。
対象が相続した土地に限定されていること、建物があってはだめなこと、一定の費用(最低20万円から面積に応じて https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00471.html)がかかることなどから、使い勝手はいまいちという印象であるが、令和6年5月31日までの約1年で460件の実績が報告されている。
(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00579.html)
不明土地法よりは利用実績が上がっているともいえるが、申請2207件に対しての460件ということでハードルはかなり高いと思われるし、おそらく事前に相談したものの要件を満たさないあるいは費用が高すぎるということで申請を諦めている事案はかなりあるのではと推測できる。しかし、ネットで調べると国庫帰属より安価で土地を引き取りますという多数の業者が検索できる。これら業者の実態はいまいち判明しないが、国の制度の使い勝手の悪さに便乗した隙間商売と見ることができる。
相続登記の義務化は令和6年の4月から施行されたばかりであるが、平成30年前後は年間約400万件弱で推移していた相続登記件数が、義務化が報じられた(改正法成立は令和3年4月)令和4,5年度は500万件超と急増しており、施行前からかなり先行して登記がなされているようである。積極的な利用意思が必要な前二者に比べると、相続登記はある程度機械的に対応可能なものが多いこと、一応罰則等も規定されていることなどからも、この制度は比較的順調に動いていることが推測できる。
一連の法改正も、実効性が上がっているものもあれば、あまり実効性のないものもあるが、今後の動向と、現実の所有者不明土地問題がどの程度改善されるかも注視していきたい。
(2024年6月執筆)
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執筆者
日置 雅晴ひおき まさはる
弁護士
略歴・経歴
略歴
1956年6月 三重県生まれ
1980年3月 東京大学法学部卒業
1982年4月 司法習修終了34期、弁護士登録
1992年5月 日置雅晴法律事務所開設
2002年4月 キーストーン法律事務所開設
2005年4月 立教大学法科大学院講師
2008年1月 神楽坂キーストーン法律事務所開設
2009年4月 早稲田大学大学院法務研究科教授
著書その他
借地・借家の裁判例(有斐閣)
臨床スポーツ医学(文光堂) 連載:スポーツ事故の法律問題
パドマガ(建築知識) 連載:パドマガ法律相談室
日経アーキテクチャー(日経BP社) 連載:法務
市民参加のまちづくり(学芸出版 共著)
インターネット護身術(毎日コミュニケーションズ 共著)
市民のためのまちづくりガイド(学芸出版 共著)
スポーツの法律相談(青林書院 共著)
ケースブック環境法(日本評論社 共著・2005年)
日本の風景計画(学芸出版社 共著・2003年)
自治体都市計画の最前線(学芸出版社 共著・2007年)
設計監理トラブル判例50選、契約敷地トラブル判例50選(日経BP社 共著・2007年)
新・環境法入門(法律文化社・2008年)
成熟社会における開発・建築規制のあり方(日本建築学会 共著・2013年)
建築生産と法制度(日本建築学会 共著・2018年)
行政不服審査法の実務と書式(日本弁護士連合会行政訴訟センター 共著・2020年)
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