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訴訟手続2020年11月05日 公務員の飲酒運転と懲戒免職 執筆者:日置雅晴

 飲酒運転による悲惨な事故報道などもあり、特に公務員は飲酒・酒気帯び運転が発覚した場合、事故を起こさなかったとしても、それだけで懲戒免職・退職金も全額不支給という厳しい行政処分がなされることが多い。
 多くの自治体が飲酒運転に関する処分基準を設け、飲酒・酒気帯び運転はそれだけで懲戒免職・退職金不支給とする扱いとしている。
 その結果、かなりの公務員が、他に何らの不祥事等もなく、長年真面目に勤務してきた場合であっても、ただ一度の飲酒・酒気帯び運転によって、懲戒免職・退職金全額不支給という厳しい処分を受けることとなる。
 飲酒運転により引き起こされた悲惨な事故事例を考えると、特に公務員が率先して飲酒事故を起こさない行動が望まれることは言うまでもない。ただ、それが望ましいからと言って、飲酒運転が発覚した場合に、原則として懲戒免職・退職金全額不支給という一律の厳しい処分をおこなうことが妥当か否かは別問題である。
 あくまでも、行政による処分は、公務員の引き起こす様々な懲戒事由と比較して、社会的に妥当な内容であること・同程度の不祥事には同程度の処分がなされること、が必要である。
 このような問題に対する司法の判断の一つが、長崎地裁平成31年4月16日判決(判例自治463号51頁)である。
 この事案は、酒気帯び運転事案に対して、長崎県の教育委員会が懲戒免職、退職金全額不支給処分をおこなったことに対して、懲戒免職は認めながらも、退職金の全額不支給は裁量を逸脱しているとしてこちらは取り消した。なお、この判断は控訴審でも維持されている。(福岡高裁令和元年11月27日判決)
 判決においては、退職金が賃金の後払いや生活保障の性格も有していることなども考慮し、懲戒免職に相当するとしても、それが退職金全額不支給とする判断には合理性はないとしている。
 実は、筆者も同様の酒気帯び運転で、懲戒免職・退職金全額不支給という処分を受けた事例でこれを争っていたが、先日退職金全額不支給処分については取り消す判決を受けたばかりである。
 もちろん、類似事例で、裁判所で係争したものの、退職金全額不支給が相当と判断された事例もいくつも存在しており、常に退職金全額不支給が相当ではないというものでもない。
 ここで考えるべきは、いかに社会的に飲酒運転撲滅が望まれるとしても、様々な事情があるにもかかわらず、原則一律懲戒免職・退職金全額不支給とする行政の対応である。
 飲酒の程度も、事故の危険性も、運転するに至る事情も、長年の勤務内容もそれぞれ異なるのであるから、それらを細かく把握して適切な処分の程度を検討することが望まれる。
 それとともに、確かに飲酒運転に対する社会的非難は強いが、教員が生徒に対して性的暴行をおこなったような事案や体罰事案、収賄などの処分事例などと比べてみると、飲酒、中でも酒気帯び運転レベルで一律懲戒免職という処分基準は、他の事案と比べ社会的な評価としていささかバランスを欠いているようにも思えてしまう。
 司法判断では、懲戒免職まで取り消している事案はあまりないが、このあたりの飲酒事案と他の事案の評価も再検討する必要があるのではないだろうか。
 この問題に限らず、多様な事例が存在する場合に、一律一定の結論を決めるような審査基準は妥当性を欠くという場合があり、それは司法審査により覆される可能性があると言うことだけは、認識しておく必要がある。
 なお、裁判所で退職金全額不支給処分が取り消された場合、再度どの程度の退職金を支払うのかは行政がまず判断することとなるが、多くの事例はかなり高い割合で減額しているようである。
 取りあえず全額不支給処分が取り消されたとしても、かなり厳しい結果にしかならないので、現実問題としては、飲酒運転のリスクは極めて高いことも、改めて認識しておく必要がある。

(2020年10月執筆)

執筆者

日置 雅晴ひおき まさはる

弁護士

略歴・経歴

略歴
1956年6月 三重県生まれ
1980年3月 東京大学法学部卒業
1982年4月 司法習修終了34期、弁護士登録
1992年5月 日置雅晴法律事務所開設
2002年4月 キーストーン法律事務所開設
2005年4月 立教大学法科大学院講師
2008年1月 神楽坂キーストーン法律事務所開設
2009年4月 早稲田大学大学院法務研究科教授

著書その他
借地・借家の裁判例(有斐閣)
臨床スポーツ医学(文光堂) 連載:スポーツ事故の法律問題
パドマガ(建築知識) 連載:パドマガ法律相談室
日経アーキテクチャー(日経BP社) 連載:法務
市民参加のまちづくり(学芸出版 共著)
インターネット護身術(毎日コミュニケーションズ 共著)
市民のためのまちづくりガイド(学芸出版 共著)
スポーツの法律相談(青林書院 共著)
ケースブック環境法(日本評論社 共著・2005年)
日本の風景計画(学芸出版社 共著・2003年)
自治体都市計画の最前線(学芸出版社 共著・2007年)
設計監理トラブル判例50選、契約敷地トラブル判例50選(日経BP社 共著・2007年)
新・環境法入門(法律文化社・2008年)
成熟社会における開発・建築規制のあり方(日本建築学会 共著・2013年)
建築生産と法制度(日本建築学会 共著・2018年)
行政不服審査法の実務と書式(日本弁護士連合会行政訴訟センター 共著・2020年)

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