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相続・遺言2021年06月21日 動き出した土地法制改革 執筆者:日置雅晴

 不在者の所有する土地問題や土地の所有権放棄制度に関連する改正をまとめた「民法等の一部を改正する法律」「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が2021年4月に国会で可決され、4月28日に公布されました。
 これは、この間不在者名義の土地の増加にともなう諸問題の発生や、いわゆる負動産について放棄したいという要望の増加など、少子高齢化や経済の衰退に伴い表面化してきた日本の土地制度を取り巻く状況の変化に対応するための法制度の改正を目的としたものです。
 その主な内容は次の通りです。

① 境界標の調査のための隣地使用権に関する規定等の整備と、電気等の継続的給付を受けるための設備設置権に関する規定の創設。
  ★隣地所有者が不明の場合に相隣関係規定の実効をあらしめるための隣地使用などの手続き規定の整備と、いわゆる導管囲繞地問題に対する規定を整備するもの
② 所在等が不明な共有者がいる場合の共有物の変更又は管理に関する決定方法、共有物の管理者に関する規定及び所在等が不明な共有者の不動産の共有持分の他の共有者による取得に関する特則等の創設。
  ★共有土地について、その所有者の一部が所在不明等の場合に、その土地の維持管理を実効あらしめるための規定を整備するもの
③ 所有者の所在等を知ることができない土地や所有者による管理が不適当である土地又は建物について裁判所が管理人による管理を命ずる規定等の創設。
  ★所有者不明あるいは所在は判明しても適切な管理をしないような場合に、裁判所の関与の元、管理人を選任して、管理人による適切な管理ができるようにするための規定を整備するもの
④ 相続財産の保存のための統一的な相続財産管理制度を創設するとともに、具体的相続分による遺産分割を求めることができる期間の制限の規定等の整備。
⑤ 不動産登記法の一部改正
  相続等による所有権の移転の登記等の申請を相続人に義務付ける規定を創設するとともに、不動産登記に係る手続における申請人の負担の軽減を図るための規定(相続人申告登記制度及び所有不動産記録証明制度の創設、登記の抹消手続の簡略化等)の創設。
  ★これまで相続が発生しても、相続人は遺産分割や相続登記を長年放置したままで良かったが、一定期間内に分割合意や相続登記を行うことを義務付けることとしたもの
⑥ 相続又は遺贈により土地の所有権又は共有持分を取得した者等がその土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度の創設。
  ★いわゆる土地所有権の放棄を認める制度をはじめて明文で認めたもの

 これらの一連の法改正は、民法の中において、土地所有者が不明であることから生じる管理不全の問題や、隣地所有者などが相隣関係の規定を実際に行使することが困難であったことを一定カバーするための立法措置を講じたものです。
 いくつかの場面で、所有者不明の土地や共有持ち分が存在する場合に、他の所有者ができる行為の範囲を拡大したり、裁判所が関与して管理人を選任することで、不明所有者に変わる意思決定が可能になります。
またそれとともに、所有者不明土地発生の原因の多くとなっている、相続発生後の遺産分割や相続登記処理がなされないまま放置されていた問題について、相続人に一定の期間内の分割合意や相続登記を義務付けることにより、登記上も所有者を明確にしようとしたものです。
 前者はすでに発生している所有者不明土地への現実的対応の拡大と言うことができるし、後者は今後の発生を少なくすることを目指したものです。
 また、併せてこれまで明確になっていなかった土地所有権の放棄について一定の範囲で国庫に帰属できる制度を作り、その手続きを明確にしたものです。
 いずれも、これまで所有者不明土地や事実上放置された土地がもたらしていた様々な弊害に対する一定の対応策であることは確かであり、従前解決が困難だった問題のいくつかはこれで前進することが期待されます。
 しかし、今回の制度では救済が困難な根本的な問題があります。それはこれらの制度を使うには、問題を抱えた人が裁判手続き費用や管理人の費用などを負担し、あるいは所有権放棄に伴い一定の費用負担が生じることです。
 そもそも従前財産的価値が高いと言われてきた土地が放置され、所有者不明土地が増加した背景には、地方の負動産、特に山林や農地などがほとんど無価値、むしろ管理費用を考えるとマイナス価値にしかならないという経済問題があります。それ故に、多くの土地所有者は費用をかけてまで自己名義にしたり、管理したりする動機がないことが、今日の事態を招いたと言えるでしょう。今回の改正では、隣地所有者や他の共有者が、自分の費用負担で問題解決を図りたいという場合には制度が使えます。問題を解決することで、その土地に経済的価値が生じる場合には、そういう行動につながることが期待できます。
 しかし、問題を抱えた土地の多くは、そもそも経済的に価値が低いかマイナスと言われるものが多いと考えられ、経済的な意味での実効性がどれだけ上がるのかは疑問です。
 また相続登記や遺産分割の義務付けは、根本の相続制度が、相続人による遺産の共有という考え方が根底にあることから、これを安易に進めることは、かえって共有不動産を増加させてしまうことにつながりかねません。これは将来的に不動産所有権の細分化につながりかねず、別の問題が生じかねません。
 また、土地所有権の放棄制度の立法化は、ある意味画期的なものです。ただ、ここにも放棄に伴い一定の費用負担が生じることから、経済的な実効性がどの程度上がるのかは疑問ですし、放棄できるのが相続の場合に限定されている点も、今後の議論によりどこまで拡大できるのかも問われるでしょう。
 そう考えると今回の法改正で問題が解決するのは、所有者不明土地のごく一部に過ぎず、土地問題の抜本的な解決に向けた議論は今後一層必要になるとみるべきでしょう。

(2021年6月執筆)

執筆者

日置 雅晴ひおき まさはる

弁護士

略歴・経歴

略歴
1956年6月 三重県生まれ
1980年3月 東京大学法学部卒業
1982年4月 司法習修終了34期、弁護士登録
1992年5月 日置雅晴法律事務所開設
2002年4月 キーストーン法律事務所開設
2005年4月 立教大学法科大学院講師
2008年1月 神楽坂キーストーン法律事務所開設
2009年4月 早稲田大学大学院法務研究科教授

著書その他
借地・借家の裁判例(有斐閣)
臨床スポーツ医学(文光堂) 連載:スポーツ事故の法律問題
パドマガ(建築知識) 連載:パドマガ法律相談室
日経アーキテクチャー(日経BP社) 連載:法務
市民参加のまちづくり(学芸出版 共著)
インターネット護身術(毎日コミュニケーションズ 共著)
市民のためのまちづくりガイド(学芸出版 共著)
スポーツの法律相談(青林書院 共著)
ケースブック環境法(日本評論社 共著・2005年)
日本の風景計画(学芸出版社 共著・2003年)
自治体都市計画の最前線(学芸出版社 共著・2007年)
設計監理トラブル判例50選、契約敷地トラブル判例50選(日経BP社 共著・2007年)
新・環境法入門(法律文化社・2008年)
成熟社会における開発・建築規制のあり方(日本建築学会 共著・2013年)
建築生産と法制度(日本建築学会 共著・2018年)
行政不服審査法の実務と書式(日本弁護士連合会行政訴訟センター 共著・2020年)

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