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民事2023年08月07日 ~景表法改正の行方 いわゆるステマ規制編~ 執筆者:井田雅貴

 景品表示法は令和5年改正がなされた。
 ただ、法改正以外でも重要な規制が追加された。いわゆるステマ規制である。まずはステマ規制導入の背景から見ていく。

1  ステマ規制の内容

 ステマ規制の導入やその内容は、消費者庁「ステルスマーケティングに関する検討会」(以下「検討会」という。)で議論された結果、景表法で規制する必要があるとの結論となった。
 今回創設されたステマ規制(「内閣府告示第19号」)は、下記のとおりである。

不当景品類及び不当表示防止法第五条第三号の規定に基づき、一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示を次のように指定し、令和五年十月一日から施行する。

一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示

事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示であって、一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であると認められるもの

2 運用基準の概要

 消費者庁は、ステマ規制にあたり、「『一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示』の運用基準」(以下「運用基準」という。)を公表している。

(1)事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示
運用基準では、係る要件を「事業者が表示内容の決定に関与したと認められる場合」とし、更に「事業者が自ら行う表示」と「事業者が第三者をして行わせる表示」に分類している。

①事業者が自ら行う表示
事業者が自ら行う表示として問題となるのは、
「事業者と一定の関係性を有し、事業者と一体と認められる従業員や、事業者の子会社等の従業員が行った事業者の商品又は役務に関する表示が、事業者が自ら行う表示と言えるか」である。
この点、運用基準では、従業員の事業者内における地位、立場、権限、担当業務、表示目的等を考慮し、例えば、販売や開発に係るチームの従業員等が、商品の認知向上のために行う表示は「事業者が自ら行う表示」に該当するとする反面、事業者の従業員でも、販売等に関与していない従業員が販売促進等の目的なく行う表示は「事業者が自ら行う表示」には該当しない、としている。

②事業者が第三者をして行わせる表示
次に、事業者が第三者をして行わせる表示が問題となるのは
「事業者が第三者に対して表示の内容について明示的に依頼・指示していない場合」である(明示的に依頼・指示した場合が「事業者が行う表示」に該当することはいうまでもない)。
この点、運用基準では、事業者と第三者との間に、

・事業者が第三者の表示内容を決定できる関係性
・(客観的な状況に基づき)第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある場合には、事業者が行う表示になるとしている。
 がある場合には、事業者が行う表示になるとしている。
 運用基準は「第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない関係性がある場合」かどうかは、以下の実態を踏まえて総合的に判断するとしている。
・事業者と第三者との間の具体的なやり取りの態様や内容
・事業者が第三者の表示に対して提供する対価の内容
・対価の主な提供理由
・事業者と第三者の関係性の状況 等

 運用基準には、第三者の自主的な意思による表示内容とは認められない場合の例として、下記が掲げられている。

・事業者が第三者にSNSを通じた表示を依頼しつつ、自らの商品等について表示してもらうことを目的に、当該商品等を無償で提供し、その提供を受けた第三者が事業者の方針や内容に沿った表示を行うなど、客観的な状況に基づき、表示内容が第三者の自主的な意思によるものとは認められない場合
・事業者が第三者に自らの商品等について表示することが、当該第三者に経済上の利益をもたらすことを言外から感じさせたり(遠回しに第三者に自らとの今後の取引の実現可能性を想起させるなど)、言動から推認させたりする(今後の取引の実現可能性に言及することなど)などの結果、第三者が事業者の商品等について表示を行うなど、客観的な状況に基づき、表示内容が第三者の自主的な意思によるものとは認められない場合

 もっとも、ある表示が第三者の自主的な意思に基づくか否かの認定は困難な場合があると予想される。事業者側からは基準の明確性を求められるであろうが、こればかりは事例の集積を待つほかないと考える。

(2)一般消費者が当該表示であることを判別することが困難であること消費者にとって事業者の表示であることが明瞭かどうかである。この点、運用基準は、消費者にとって事業者の表示であることが明瞭かどうかについて、それぞれの具体例を掲げている。

<明瞭となっていないもの>
・冒頭に「広告」と記載しているにもかかわらず、文中に「これは第三者として感想を記載しています。」と事業者の表示であるかが分かりにくい表示をする場合
・動画で表示を行う際に、消費者が認識できないほど短い時間だけ事業者の表示であることを示す場合(長時間動画で、冒頭以外にのみ表示をする場合を含む)
・事業者の表示であることを消費者が視認しにくい表示の末尾に表示する場合
・事業者の表示である旨を周囲の文字と比較して小さく表示する場合
・事業者の表示である旨を文章で表示しているものの、消費者が認識しにくいような表示(長文による表示、周囲の文字よりも小さい表示、他の文字より薄い色を使用した表示など)となる場合
・事業者の表示であることを他の情報に紛れ込ませる場合(SNSの投稿で、大量のハッシュタグを付した文章の記載の中に事業者の表示である旨の表示を埋もれさせる場合など)
<明瞭となっているもの>
・「広告」、「宣伝」、「プロモーション」、「PR」といった文言による表示を行う場合
・「A社から商品の提供を受けて投稿している」といった表示を行う場合

3 その他

 現時点でのステマ規制の概要は上記のとおりであるところ、検討会では、本規制によってもステマがなくならない場合は、中長期的には現行の景品表示法の見直しも含めた更なる規制が必要となってくるとして

・広告主だけを景品表示法で規制しても、不当表示をなくすことができないと考えられるため、景品表示法の供給主体又は責任主体の位置付けの見直しを行い、仲介事業者やインフルエンサーまでに規制の対象範囲を拡大するよう検討すべき
・諸外国ではデジタルプラットフォーム提供者に対する責任を追及する事例も増えてきていることに加え、デジタルサービス法の制定が行われるなど、デジタルプラットフォーム提供者に対する法執行や規制が厳しくなってきている。消費者庁では、取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律(令和3年法律第32号)に基づき、デジタルプラットフォームを利用した通信販売に係る取引の適正化及び紛争解決の促進や官民協議会の開催を通じて、消費者利益の保護に努めているところである。このような同法に基づく取組については、景品表示法の目的に沿うものであると考えられるため、同法の積極的な活用が求められる。

との言及がなされている。
 つまり、事業者側のステマ対応如何では、更なる規制がなされる可能性も否定できない。事業者側の自主的な改善を望むものである。

(2023年8月執筆)

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執筆者

井田 雅貴いだ まさき

弁護士(弁護士法人リブラ法律事務所)

略歴・経歴

出   身:和歌山県 田辺市
昭和63年:京都産業大学法学部法律学科入学
平成 4年:京都産業大学法学部卒業
平成 7年:司法試験合格
平成 8年:最高裁判所第50期司法修習生
平成10年:京都弁護士会 谷口法律会計事務所 所属
平成14年:大分県弁護士会登録変更 リブラ法律事務所 所属
平成16年:弁護士法人リブラ法律事務所に改組

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