民事2023年04月06日 景品表示法改正のゆくえ(3) 執筆者:井田雅貴
1 消費者庁は、本国会に、景品表示法改正法案が提出されたことを公表した。
筆者は、これまで景品表示法検討会の議論状況を紹介してきた。以下、改正法案の概要と筆者の意見を述べる。
2 改正法案の概要は下記3点である。
(1)事業者の自主的な取組の促進
・優良誤認表示等の疑いのある表示等をした事業者が是正措置計画を申請し、内閣総理大臣から認定を受けたときは、当該行為について、 措置命令及び課徴金納付命令の適用を受けないこととすることで、迅 速に問題を改善する制度の創設(独占禁止法上の確約手続を景品表示法にも導入)
・特定の消費者へ一定の返金を行った場合、課徴金額から当該金額が 減額される返金措置に関して、返金方法として金銭による返金に加えて第三者型前払式支払手段(いわゆる電子マネー等)も許容(返金方法を多様化することで自主的取り組みを促進する)
(2)厳正・円滑な法執行の実現に向けた各規定の整備
課徴金の見直し
・課徴金の計算の基礎となるべき事実を把握することができない期間における売上額を推計することができる規定の整備(推計を可能としたことで円滑な法執行が見込まれる)
・違反行為から遡り10年以内に課徴金納付命令を受けたことがある 事業者に対し、課徴金の額を加算(1.5倍)する規定の新設(違反を繰り返す事業者に対する厳正な法執行が見込まれる)
罰則規定の拡充
・優良誤認表示・有利誤認表示に対し、直罰(100万円以下の罰金) の新設(表示自体を直接処罰の対象とし、厳正な法執行が可能)
国際化の進展への対応
・措置命令等における送達制度の整備・拡充
(所在を明確にしない事業者に対する送達を可能とし、厳正な法執行に資する)
・外国執行当局に対する情報提供制度の創設
(インターネットを通じ、外国のサーバーを通じた不当表示にも相互に対応することで厳正な法施行が見込まれる)
(3)その他
適格消費者団体による開示要請規定の導入
・適格消費者団体が、一定の場合に、事業者に対し、当該事業者による 表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の開示を要請することができるとともに、事業者は当該要請に応ずる努力義務を負う旨の規定の新設(令和4年改正消費者契約法に同種の規定がある、とりわけ、 適格消費者団体が事業者に対して優良誤認表示に基づく差止請求を 検討する際、事業者が有する資料の開示を求められることで、より 厳正な法施行が可能)
3 筆者の評価
(1)確約手続について
確約手続制度は、現在、行政庁が行う行政処分よりも、①迅速に不当表示が是正され、その結果、消費者被害を未然に防止しうること、 ②事業者の自主的な行動が期待できる、というメリットがある反面、ⅰ)計画の内容次第では行政処分よりも執行力が弱まる可能性がある、ⅱ)同種事案における将来の法執行の参考としづらい、という懸念がある。また、いわゆる悪質な事案を確約手続ですませてよいかという価値判断もある。筆者は、確約手続の導入には賛成するものの、どういう事案が確約手続に資するかという点は、独占禁止法上の同種制度のように、ガイドラインの策定によりある程度明示すべきと考えている (事業者も是認されるであろう)。
(2)課徴金制度について
課徴金制度は、平成28年4月1日から施行された制度であり、不当表示規制の目玉制度と目されてきた。ただ、制度運用の中で課題が見え てきた(違反を繰り返す事業者への対処、所在不明となった場合の対処)ことから、係る課題に対処したものである。筆者は、制度自体よりも、改正を契機としてより積極的な運用を望むものである。
(3)適格消費者団体による開示要請
全国の適格消費者団体は、景品表示法に基づいて差止請求をしているものの、その大部分は「有利誤認表示」であり「優良誤認表示」に対する差止請求はほとんど見受けられない。その理由は、人的資源・ 物的資源に限界がある適格消費者団体が、当該商品・役務の「優良誤認 性」を独自に判断することが容易でない点に求められるところ、今回の改正では、事業者が努力義務を負うのみであるものの、たとえば、事業者が当該優良表示をした根拠となる資料の開示を求められることとなっ た。もちろん、適格消費者団体としても事業者から開示された資料の 取扱いを厳格になすべきものではあるものの、もともと、事業者側は、 合理的な根拠を有する資料があるからこそ優良表示を行っているものと 思慮されることから、適格消費者団体からの開示要請については積極的に応じていただきたいと考えている。
(4)その他
景品表示法検討会は、議論の成果を報告書として公表している。
報告書には、今回の改正内容とならなかったものの、引き続き検討を要すべき事項が複数ある。いくつか紹介すると
・消費者裁判手続特例法第91条において、特定適格消費者団体に対し、現行の特定商取引法及び預託法に加えて景品表示法に基づく 処分に関して消費者庁が作成した書類も提供する制度を創設すべきではないか
・課徴金の対象となる表示の拡大、具体的には、指定告示に係る表示についても課徴金の対象とすべきではないか
・不当表示類型の追加、とりわけ、近時増大している「消費者が気付か ない間に不利な判断・意思決定をしてしまうよう誘導する仕組みと なっているウェブデザイン」(ダークパターンと呼称される)も不当表示として規制すべきではないか
という点である。
事業者がインターネットを通じて事業を営む例が飛躍的に増大しており、その中には優良誤認表示・有利誤認表示等が含まれるところ、 法執行が係る現実に追いついていない面がある。今後も、景品表示法の改正が求められる場面があると思慮する。
なお、消費者庁は、景品表示法改正とは別に、いわゆるステルスマーケティングについても問題意識を持ち、検討会を実施したりしている。 機会があれば、この点にも触れたい。
(2023年3月執筆)
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執筆者
井田 雅貴いだ まさき
弁護士(弁護士法人リブラ法律事務所)
略歴・経歴
出 身:和歌山県 田辺市
昭和63年:京都産業大学法学部法律学科入学
平成 4年:京都産業大学法学部卒業
平成 7年:司法試験合格
平成 8年:最高裁判所第50期司法修習生
平成10年:京都弁護士会 谷口法律会計事務所 所属
平成14年:大分県弁護士会登録変更 リブラ法律事務所 所属
平成16年:弁護士法人リブラ法律事務所に改組
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