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民事2022年04月11日 消費者裁判手続特例法見直しのゆくえ(4) 執筆者:井田雅貴

1 第208回国会において、消費者裁判手続特例法の改正案が提出され、よほどのことがない限り、同国会で同法の法改正がなされる予定である。
筆者は、これまで、消費者庁でなされていた「消費者裁判手続特例法等に関する検討会」の内容を3回にわけて記事にしてきた。今回の記事は、いわば総まとめである。
2 改正法案の概要
(1)共通義務確認訴訟の対象を拡大することとし、対象となる損害について は、算定の基礎となる主要な事実関係が相当多数の消費者について共通すること等の要件を満たす慰謝料も請求することができることとし、被告とすることができる者に、被用者の選任等について故意又は重大な過失により相当の注意を怠った事業監督者等の個人を加えている。
(2)共通義務確認訴訟における和解について、共通義務の存否にかかわらず和解をすることができることとした
(3)対象消費者に対する情報提供の充実を図るため、簡易確定手続において、事業者等は知れている対象消費者等に対し、一定の事項を通知しなければならないものとした。また、特定適格消費者団体の申立てにより、共通義務確認訴訟の時点で、裁判所が、事業者等が保有する対象消費者等の氏名等が記載された文書を開示することを命ずることできることとした。
(4)特定適格消費者団体が行う対象債権者への通知や事業者等から回収した金銭分配の業務の支援等を行うため、内閣総理大臣が認定する消費者団体訴訟等支援法人に係る制度を新設した。その他、特定適格消費者団体がなす、簡易確定手続の申立期限を伸長し、対象消費者への通知をより簡易にし、認定期間も伸長することとする等、特定適格消費者団体の負担を軽減している。
3 改正法案の具体的特徴
(1)共通義務確認訴訟の対象の拡大
現行法では、請求できる損害の範囲が限定されており、対象消費者の保護に欠けるとの批判があった。具体的には、特定適格消費者団体(消費者機構日本)が東京医科大学に対して共通義務確認訴訟を提起した際、大学受験で不利益な扱いを受けた対象消費者に生じた損害として類型的に慰謝料が観念しえたにも関わらず、現行法では慰謝料を同訴訟にて請求できる損害としていないことから、慰謝料の請求を望む対象消費者が別訴訟を提起しなければならなかった。係る取扱いは、対象消費者にとっても事業者にとっても迂遠であった。
また、現行法では、事業者でない「黒幕的存在の人物」を被告とすることができず、特定の消費者被害事案の実態に合わない解決となることが懸念されていた。この点、改正法案では、民法の使用者責任的発想の下、一定の黒幕的存在をも被告とすることができるとしている。
(2)和解事項の拡大
現行法では、共通義務確認訴訟で、事業者の共通義務の存在を確認する和解のみ可能とされており、手続の硬直性により柔軟な解決が困難となるという指摘があった。
改正法では、共通義務の存否に関わらず和解が可能となり、より多様な内容での和解が可能となった。和解の内容が多様となった反面、実効性ある和解をなすには、より、特定適格消費者団体と事業者との信頼関係の構築が重要となろう。特定適格消費者団体がなす和解の内容については、同法のガイドライン等で具体例が示されることも考えられる。
(3)対象消費者に対する情報提供の拡充
現行法では、共通義務確認訴訟に勝訴した場合(又は確認義務の存在を認めた和解が成立した場合)、対象消費者に対する通知は特定適格消費者団体がしなければならなかったところ、同団体は、対象消費者に関する情報を基本的には有していないので誰に情報提供するかという点で難があり、かつ、対象消費者を特定して通知したとしても、対象消費者側が、特定適格消費者団体を信頼できる団体として覚知できず、結果として対象消費者が増加しないという点が懸念されていた。今回、事業者が知れたる対象消費者に対して通知をすることにより、より迅速・簡易に通知をなすことができ、かつ、通知を受領した対象消費者も、かつて自身が取引をしたことがある事業者からの通知であることから、特定適格消費者団体が通知する場合に比して、通知内容を信頼して簡易確定手続への参加が促進されることが期待できる。
また、本制度の対象となる対象消費者に関する情報は事業者側が有しているところ、事業者側が、当該情報を保持し続けるとは限らず、結果として、参加可能な対象消費者に対する通知が不可能となる事態が懸念されていた。法改正により、特定適格消費者団体が共通義務確認訴訟係属中に対象消費者に関する情報を保全する方途が開けたことになる。
(4)特定適格消費者団体の負担軽減策
特定適格消費者団体は、第1段階で共通義務確認訴訟に勝訴した後、第2段階として簡易確定手続を申し立てなければならず、いずれの段階でも、多量の事務作業を余儀なくされていた。
改正法では、係る特定適格消費者団体の事務負担を軽減する趣旨で、消費者団体訴訟等支援法人が、これまで特定適格消費者団体がしてきた事務作業を支援できることとなっており、この点だけでも、相当の負担軽減が期待できる。その他、簡易確定手続の申立期間が伸長されるなどの改正もなされている
消費者団体訴訟等支援法人が、具体的にどのような事務を担えるのかはこれから更につめることとなるが、事務を担える範囲を可能な限り拡大することのみならず、当該法人に対する手厚い財政支援も期待したいところである。
4 その他
今回の法改正により、制度の積極的な活動が促進されることが期待される。筆者も、今回の法改正の内容は相当に満足できる内容であるものの、今回の法改正では実現しなかった事項もあり、この点も更なる改正により実現させたいところである。
(2022年4月執筆)

執筆者

井田 雅貴いだ まさき

弁護士(弁護士法人リブラ法律事務所)

略歴・経歴

出   身:和歌山県 田辺市
昭和63年:京都産業大学法学部法律学科入学
平成 4年:京都産業大学法学部卒業
平成 7年:司法試験合格
平成 8年:最高裁判所第50期司法修習生
平成10年:京都弁護士会 谷口法律会計事務所 所属
平成14年:大分県弁護士会登録変更 リブラ法律事務所 所属
平成16年:弁護士法人リブラ法律事務所に改組

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