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民事2021年11月09日 消費者裁判手続特例法見直しのゆくえ(3) 執筆者:井田雅貴

1 本稿は、拙稿(消費者裁判手続特例法見直しのゆくえ(2))の続きである。
2 論点と意見について
(1)情報提供の実効性を高めるための方策について
報告書は「裁判所の関与の下、事業者が保有する対象消費者の氏名及び住所又は連絡先の各情報を、共通義務確認訴訟が終了するより前の段階で保全する仕組みを設けることが考えられる」とする。
現行法では、特定適格消費者団体が事業者に対し、第2段階の手続で、対象消費者の個人情報の開示を求めることができ、あるいは、裁判所に情報開示命令の申立てを行うことが出来る。しかし、それでは時期的に遅く、結果として、対象消費者に関する情報が存在しない場合もありうる。裁判所が関与したうえで、一定の要件の下に情報保全命令を発することができるとすることは、対象消費者の被害保護にも繋がるものであり、報告書の方向性には賛成する。
(2)行政機関が保有する情報の提供について
報告書は「・・・内閣総理大臣は、内閣府令で定めるところにより、特定適格消費者団体の求めに応じ、当該特定適格消費者団体が被害回復裁判手続を適切に追行するために必要な限度において、当該特定適格消費者団体に対し、特定商取引に関する法律(昭和51年法律第57号)又は預託等取引に関する法律(昭和61年法律第62号)に基づく処分に関して作成した書類で、内閣府令で定めるものを提供することができるものとされた。・・・。上記以外に行政機関が保有する情報として、例えば、景品表示法に基づく処分に関して作成した書類の特定適格消費者団体への提供も可能とするべきとの意見があったが、・・・執行への影響等も踏まえた、将来的な検討課題とすることが考えられる。」とする。
令和3年度の法改正により、特定適格消費者団体が、行政機関に対し、特定商取引法又は預託法に基づいて事業者を行政処分したことに関して作成した書類の提供を求めることができるとされた。
しかし、報告書は、特定商取引法・預託法以外の法律に基づく行政処分をなす際に行政機関が作成した文書の交付については慎重な態度を示したものである。
この点、法改正により、行政処分のために行政が得た情報が記載された文書を特定適格消費者団体に提供することを認めた趣旨は、行政処分を受けても違法な業務執行を止めない事業者に対し、特定適格消費者団体が係る情報に基づいて本制度を利用することで、行政処分の実効性を補完しつつ対象消費者の被害回復を図ることが、行政機関と特定適格消費者団体との間の役割を踏まえた適切な連携であると評価された点にある。
係る趣旨は、例えば、ある事業者を景品表示法に基づく行政処分をした際に作成した文書にも該当する。この点は、更なる検討のうえ、特定商取引法・預託法以外の法律に基づく行政処分をなす際に作成した文書の提供も認めるよう、検討を進められたい。
(3)事業者の財産に関する情報の取得について
報告書は「簡易確定手続において事業者の財産に関する情報の開示手続を設けるべきであるとの意見もあったが、・・・今後の運用状況等も踏まえた、将来的な検討課題とすることが考えられる。」としている。
現行法では、特定適格消費者団体が事業者の財産に関する情報を取得することが認められているわけではない。
しかし、特定適格消費者団体にとって、事業者の財産情報は、当該事業者を提訴するか否かの判断を大きく左右する。特定適格消費者団体としては、現実の被害回復可能性が低い事業者を提訴することによる時間的・費用的なロスを避けることが負担軽減につながるものである。事業者の財産情報はいわば営業秘密とも目しうるものであることは理解するものの、例えば、情報開示の時期を、第1段階で事業者に対する共通義務が認められた後にする、あるいは、情報開示の範囲を適切なものとする等の制度設計により、事業者に配慮しつつも特定適格消費者団体の負担軽減を図ることは可能といえる(特定適格消費者団体の負担軽減は対象消費者の負担軽減にもつながる)。この点、更に検討を進められたい。
(4)消費者団体訴訟制度の運用を支える主体について
報告書は「・・・、消費者団体訴訟制度の実効的な運用を支える第三者的な主体を法的に位置付ける指定法人制度を導入することが考えられる。」としている。
適格消費者団体が消費者団体訴訟制度を運用することで被害回復制度の実効性を高めるためには、同団体の活動を支える環境整備が必要である。消費者団体訴訟制度が、広く消費者の被害回復を図るという公益的な側面を担っていることに鑑みれば、本来、適格消費者団体がなす業務の運用に関し、公的な援助があっても然るべきところであった。
報告書は、指定法人制度を導入することで、消費者団体訴訟制度の実効的な運用を支える第三者的な主体を新たに設置し、同団体が特定の役割を担うことで、適格消費者団体の負担を軽減することを目的の1つにしている。報告書の係る方向性には賛成である。ただ、指定法人制度が実効性あるものとなるためには、指定法人の人的・物的・財政的体制を確保することが極めて重要となる。
(5)検討会の検討対象外とした事由について
報告書は「・・・将来的な課題として、訴訟外での協議の促進やいわゆるオプトアウト方式の検討を指摘する意見があった。上記のような点についても、今後の本制度の見直し及び運用の各状況等も踏まえながら、将来的な検討課題とすることが考えられる。」とする。
本制度は、少額多数の消費者被害の特性に鑑み創設された制度である。しかし、現実には、対象消費者の少額な被害については、当該消費者のインセンティブや同消費者が負担すべき費用や特定適格消費者団体に対する報酬が賄えない等の理由から、本制度の利用を断念することがある。現実を変える方策の1つとして、現行のオプトイン方式(手続参加を希望する対象消費者のみ本制度を利用して被害回復がなされる)だけではなく、オブトアウト方式(手続からの離脱を希望する対象消費者のみ本制度を利用して被害回復がなされない)の採用が考えられる。諸外国では、アメリカ、カナダの英米法の国(EUでも採用されることが認められている)、ノルウェー、デンマーク、ベルギーなどは、オプトイン型とオプトアウト型を併用することができ、多数消費者の少額被害にも対応できる制度設計となっている。我が国でも、直ちにオプトアウト方式を採用することは困難かもしれないが、被害回復の実効性確保のために、十分、検討の余地があるといえる。
(2021年10月執筆)

執筆者

井田 雅貴いだ まさき

弁護士(弁護士法人リブラ法律事務所)

略歴・経歴

出   身:和歌山県 田辺市
昭和63年:京都産業大学法学部法律学科入学
平成 4年:京都産業大学法学部卒業
平成 7年:司法試験合格
平成 8年:最高裁判所第50期司法修習生
平成10年:京都弁護士会 谷口法律会計事務所 所属
平成14年:大分県弁護士会登録変更 リブラ法律事務所 所属
平成16年:弁護士法人リブラ法律事務所に改組

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