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民事2020年03月02日 集団的消費者被害回復手続活用事案の行方(1) 執筆者:井田雅貴

1 「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」は、平成28年10月1日から施行された制度である。同法で定められた手続(以下、「集団的消費者被害回復手続」という。)は、①特定適格消費者団体のみが手続の主体となれる点、②訴訟手続が2段階に分かれ、第1段階として共通義務確認の訴え(事業者が消費者に対して損害賠償義務を負担することの確認訴訟)が、第1段階にて特定適格消費者団体が勝訴(又は勝訴的和解)したことを前提に、第2段階として個別消費者の債権確定手続を経て最終的には消費者に損害賠償金が分配されるという、これまでにないユニークな訴訟手続である。集団的消費者被害回復制度がもたらす一番のメリットは、被害を被った消費者が、法的に被害回復が認められることが確定した後に配当を受けうる点、つまり、自ら訴訟を追行することなしに被害回復を受けられる点である。これまでは、消費者被害を被ったとしても、損害額が少額であることからその回復を断念し、現実の被害回復プロセスの煩雑さを嫌気する等していた消費者が、いわば「勝つことが見えてから」被害回復手続をとることができる点で、同制度施行時は、その活用が大いに期待された。

2 今般、集団的消費者被害回復制度を利用した訴訟手続につき、2020年3月16日に東京地方裁判所で第1段階に関する判決が言い渡される事案がある(申立ては2018年12月17日)。以下では、当該紛争の内容を紹介する。

3 事案は、いわゆる東京医科大学事件である。社会問題とも言いうるほど耳目を集めた紛争(医学部不正入試問題)であり、今なお覚えている読者も多いと思う。
事案の概要を単純化すれば、大学入試にあたり、男性と女性、また、現役受験生と浪人生との間で得点操作を行ったというものであるが、大学側(学校法人という事業者)の係る行為が、受験者(消費者)に対する債務不履行又は不法行為であるとして、共通(損害賠償)義務の確認を求めた訴訟である。学校法人と受験者との間には無名契約(受験契約、とでも呼ぼうか)が存することを前提としている。大学受験という公平性が求められる場面において、学校法人側がどのような反論をなしているかを紹介するものである。

*以下の文書は、公開されている情報に基づいて筆者の感覚でまとめた学校法人側の主張である。
 学校法人側の主張を簡略にまとめると、大学受験において、女性や一部の浪人生に対して加点しないという得点調整を行ったことは認めるが、受験契約における義務違反は存在しない、というものである。

<学校法人の主張その1 受験契約の義務違反はない>
 憲法は私人間には直ちに適用されるものではなく、大学設置基準は行政上の規制に過ぎない。このため、これに従っていなくても違法ではない。
また、採点方法の開示の必要はなく、アドミッションポリシーに沿った採点をする義務はないので、受験生に明示せずに得点調整を行っても不法行為には当たらない。さらに、得点調整をしていても、試験の実施と合否の判定自体は行っているので、債務不履行ではない。

<学校法人の主張その2 因果関係の不存在>
 受験生は、建学の精神や校風、所在地、学費など様々な要素を考慮して出願するかを決めること、他大学との試験日程の重なりはわずかであるので、知っていたら被告を受験せずに他大学を受験したとは言えないこと、志願者及び入学者の男女別、現役と浪人別の人数を明らかにしているので、属性ごとの入学のしやすさは十分判別可能であった、ことから、仮に、義務違反があったとしても、受験者の損害との間に因果関係はない。

<学校法人の主張その3 得点調整の背景>
 女性医師には、一般的な就業率が男性医師に比べて低い、勤務時間が短い、診療科の選択に偏りがある、という傾向がみられる。大学病院は、高度医療を提供するため多数の医師の確保が必要であるところ、医師の確保は卒業生に依拠するところが大きい、得点調整の背景には、係る実情がある。

 読者の皆様は、学校法人側の主張を、法的にどう理解されるであろうか。
 筆者の見解は、次回に述べることとする(その3の主張は「違法性がない」とも理解しうる)。

(2020年2月執筆)

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執筆者

井田 雅貴いだ まさき

弁護士(弁護士法人リブラ法律事務所)

略歴・経歴

出   身:和歌山県 田辺市
昭和63年:京都産業大学法学部法律学科入学
平成 4年:京都産業大学法学部卒業
平成 7年:司法試験合格
平成 8年:最高裁判所第50期司法修習生
平成10年:京都弁護士会 谷口法律会計事務所 所属
平成14年:大分県弁護士会登録変更 リブラ法律事務所 所属
平成16年:弁護士法人リブラ法律事務所に改組

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