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民事2021年10月22日 消費者裁判手続特例法見直しのゆくえ(2) 執筆者:井田雅貴

1 消費者庁では、消費者裁判手続特例法等に関する検討会(以下、「検討会」という。)が開催されていた。
検討会は、令和3年3月24日に第1回検討会が開催され、同3年9月28日に第11回検討会が開催され、終了した。検討会の報告書は消費者庁のホームページで公表されている。
検討会では、現行の消費者裁判手続特例法の問題点を議論し、改めるべき点とその内容が議論されたものである。
以下は、筆者が、検討会の報告書を読んでいくつかの論点について意見を述べるものである。
2 論点と意見について
(1)慰謝料請求を消費者団体訴訟制度(以下、「本制度」という。)の対象とすることについて
報告書は「慰謝料として相当多数の消費者に同一額ないしは共通の算定基準により算定される額が認定される場合、すなわち、不法行為の場合には被侵害権利・法益及びその侵害態様が、債務不履行の場合には債務及びその不履行の態様が、相当多数の消費者について共通し、かつ、慰謝料額の算定の基礎となる主要な事実関係が相当多数の消費者について共通する場合については、本制度の対象とすることが考えられる。」としている。
現行法では、慰謝料を本制度の対象としていない。この結果、例えば、大学受験で特定の属性であるもの(女性や浪人生)が得点上不利に扱われ、本制度上、大学運営法人の当該受験生に対する債務不履行が認定された事案でも、本制度による慰謝料請求は認められなかった。しかし、裁判実務上、慰謝料の画一化による審理促進・被害救済は消費者被害事件以外の事案でも認められており、慰謝料請求を一律に本制度の対象外と する根拠は薄かったと言わざるを得ない。報告書の上記方向性は妥当である。
(2)被告の範囲の見直し
報告書は「不法行為に基づく損害賠償請求について、現行法上被告に該当する事業者が故意又は重大な過失による不法行為責任を負う場合において、当該事業者と故意又は重大な過失による共同不法行為責任を負う個人を共通義務確認訴訟の被告となる者に追加することが考えられる。」としている。
自らが事業者ではない又は事業法人の役員となっていない者であっても、いわゆる黒幕的に問題のある事業を遂行する者の存在は、夙に認められているところである。現行法では、本制度の被告となる者が事業者のみとなっているが、これでは、消費者の被害救済範囲が狭かったと言わざるを得ない。どのような場合に、事業者ではない個人が被告となるのかは更に検討する必要があるものの、方向性は妥当である。
(3)和解に関する規律について
報告書は「和解可能な内容の範囲を拡大する意義に鑑みれば、個々の事案に応じて柔軟に和解内容を調整可能とすることが望ましいことから、可能な和解の範囲を追加規定するのではなく、和解内容を限定する法第10条の規律を削除することが考えられる。」としている。
現行法では、特定適格消費者団体と事業者とが、第1段階である共通義務確認の存否に関して和解が可能であると規定されており、これでは、柔軟な解決が困難であるとの指摘がなされていた。特定適格消費者団体と事業者との間で、具体的にどのような和解をしていくのかはこれからの実務にて工夫を重ねるべき点であるが、和解による解決は事業者にとってもメリットがあり、方向性は妥当である。
(4)対象消費者への情報提供の方法について
報告書は「事業者の個別連絡義務及び公告に要する一定額の支払義務に関する規定を設けたうえで、その実現手段について、基本的に当事者間の対応に委ねることとすることや、共通義務確認訴訟又は簡易確定手続に付随する裁判として、裁判所において、特定適格消費者団体及び事業者双方の意見を聴いた上で、事業者が個別連絡義務を負うか否か、事業者が公告に要する一定額の支払義務を負うか否か、及び、支払義務を負う場合の金額について判断し、その結果、個別連絡義務や支払義務を負うと判断する場合にはその旨を命じる手続を導入することが考えられる」とする。
現行法では、特定適格消費者団体が第1段階の訴訟に勝訴し、事業者の消費者に対する共通義務の存在が確認された後、対象消費者に係る共通義務の存在等を通知・公告することとなっており、その際に要する費用についても特定適格消費者団体が負担することとなっている。しかし、対象消費者からすれば、それまで関わりがあるわけではない特定適格消費者団体からよりも、取引関係に入った当該事業者から共通義務の存在を通知された方が係る情報に対する信頼度があり、かつ、共通義務があることが確定した事業者が、対象消費者の被害回復のために積極的に情報発信し、その際の費用を負担することが、本制度の趣旨に沿うものといえる(本制度の対象となる事案は、もはや個別訴訟と同列に扱うのは適当でない)。このため、事業者に対して一定の場合に個別連絡義務や費用負担を認める方向性は妥当である。
3 次回も、引き続き報告書の内容を紹介する。
(2021年10月執筆)

執筆者

井田 雅貴いだ まさき

弁護士(弁護士法人リブラ法律事務所)

略歴・経歴

出   身:和歌山県 田辺市
昭和63年:京都産業大学法学部法律学科入学
平成 4年:京都産業大学法学部卒業
平成 7年:司法試験合格
平成 8年:最高裁判所第50期司法修習生
平成10年:京都弁護士会 谷口法律会計事務所 所属
平成14年:大分県弁護士会登録変更 リブラ法律事務所 所属
平成16年:弁護士法人リブラ法律事務所に改組

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