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消費税2025年09月10日 私たちが負担した消費税は国に納められているか~インボイス制度からみる消費税のしくみ(前編)(法苑WEB連載第18回)執筆者:深作智行 法苑WEB  

1 はじめに

 本稿は、いわゆる「インボイス制度」について細々と解説をするものではございません。そのテについては国税庁ホームページ等をご覧ください。
 インボイス制度は、消費税という税金のルールです。消費税のしくみについてのそれなりに正しい知識を身に付けていただき、もろもろの判断やもろもろの評価をするためのお役に立てたらということを目的にしています。と申しますのも、政治家やメディアも含めて消費税のしくみがよくわかっていないとしか思えない論調が少なくないことや、某AIチャットボットでインボイス制度のメリットとデメリットについて聞いてみても、それっぽい回答が出てきますが、深掘りのない表面的なもののように思えたためでございます。
 一般には、税率のことしか関心がない消費税ですが、インボイス制度を切り口にして、消費税についてコメントしてまいります。

2 なぜ消費税がわかりにくいのか

 消費税はすでに導入から40年近く経っています。消費税は国政選挙で必ずといっていいほど争点となりますが、好むと好まざるとにかかわらず現実の我が国の経済、国民生活にすっかり根付いているということができます。
 消費税という税の特殊性としては、①負担者と納税者が異なること、②事業者にとって消費税は売り手の立場と買い手の立場があることが挙げられます。
① 負担者と納税者が異なること
 消費税は「取引」に対して課される税金です。
 消費税を負担するのはモノを買ったりサービスを受けた者(消費者)です。ところが、私たちは買い物をしたときに売り手に対して代金と消費税を支払うわけで、買い物のたびに税務署に納めに行くわけではありません。消費税を納税するのはモノを売ったりサービスを提供したときに買い手から消費税を預かった事業者です。さて、ここで「売り手に支払った消費税だけど、売り手はちゃんと国に納めてんの?」という問題意識は、インボイス制度を理解するうえでも極めて重要です。
 とはいえ、個人事業主として事業をしていなかったり、法人の経理や経営に携わっていない方は、日々の生活で消費税をひたすら支払っているだけなので、消費税のしくみ、ましてや、インボイス制度にはまったくといっていいほど関心がないのは当然といえば当然です。
② 事業者にとって消費税は売り手と買い手の相反する立場があること
 さて、消費者にモノを売ったりサービスを提供する事業者は、買い手から預かった消費税について、消費税の確定申告をして納税しています。
 ところが、その事業者も、モノを売ったりサービスを提供するための仕入や経費などの支払いがあり、その際に消費税を支払っています。つまり、事業者は、売り手側の立場と買い手側の立場の両方があるわけです。まして、個人事業主として事業を行っている人は、個人事業主としての立場と、プライベートな立場のふたつがあります。プライベートな立場の場合はいち消費者としてもっぱら消費税を負担しているだけですが、個人事業主としての立場では、個人事業の販売行為で消費税を預かり、そのための仕入や経費で消費税を支払っているのです。

3 私たちが支払った消費税は売り手の事業者によってどのように国に納められるのか

(1)事業者は消費税の確定申告を行う

 現行の憲法によれば、私たち国民には3つの義務があり、そのひとつが納税の義務です。さて、納税は義務ということもあるため関心は高いわけですが、納めた税金がムダなくキチンと使われているかについてとなると相対的に関心は薄いという指摘もあります。まして、消費税は私たちが直接国に納めるのではなく、売り手の事業者に支払っています。売り手の事業者は私たちが支払った消費税をちゃんと国に納めているのか気になるところです。
 先ほど申し上げましたが、消費者にモノを売ったりサービスを提供する事業者は、買い手から預かった消費税について、消費税の確定申告をして納税していますが、その事業者も、モノを売ったりサービスを提供するために仕入や経費などの支払いがあり、その際に消費税を支払っています。
 つまり、事業者は、消費税の確定申告で、売り手の立場で販売によって預かった消費税の額から、買い手の立場で支払った消費税の額を差し引いて消費税を納税したりしているのです。ここで、「(納税)したりしている」というのがポイントです。事業者は利益を獲得するために商売をしているため、一般的に売上高のほうが費用を上回ります。極めてシンプルに考えると、売上で預かった消費税の額のほうが費用で支払った消費税の額を上回ることから差額の消費税は納税することになります。一方で、赤字になった場合には逆に支払った消費税の額のほうが預かった消費税の額を上回るため消費税は還付されることになります。また、輸出販売をした場合には消費税は発生しないため(正確に言えば、消費税が免除(0%で課税)されます。)、預かる消費税の額がないため支払った消費税のほうが上回って消費税は還付となります。「輸出したものと仮装して消費税の還付を受けた」という報道がありますがこういうことです。

(2)事業者にとっては支払った消費税の集計が重要

 消費税の申告にあたっては、預かった消費税の額から差し引く消費税の額の計算が極めて重要になります。預かる消費税の額も、支払う消費税の額も、事業活動のなかで日々発生しているため、日々の経理処理が極めて重要なのです。
 消費税は取引に対して課される税金であり、国内で事業者が行う大半の取引は消費税が課される取引(課税取引)です。このため、事業者が買い手の立場で支払う取引も多くは消費税の支払いが伴います。
 そして、現行の消費税では、10%の税率で課される消費税の取引と、軽減税率8%で課される取引があります。ここで、実際は8%分の消費税しか支払っていないのに、経理上で10%を支払ったものとして経理処理をしてしまうと、支払った消費税の額が過大になります。この場合、消費税の確定申告では、預かった消費税から差し引く消費税の額が過大のため、納める消費税の額が過少になってしまうため誤った申告・納税となります。
 さらに、消費税の支払いがない取引もあります。典型的なものとして、給料の支払いや税金や保険料の支払いがあります。これらの計算を誤ることはほぼないのですが、交際費として香典や祝い金として支払った額には消費税は課されませんし、国外で発生した支払いにも日本の消費税は課されません。
 ふだんはもっぱら消費者の方も、勤務先で経費精算をすることがあるかもしれません。経費精算での勘定科目も大事なのですが、経理では消費税の処理も大変重要なのです。軽減税率での支払いや消費税のない支払いをキチンと分けなければならないのです。
 現在の会計ソフトでは、旅費交通費や交際費などは税込み金額を入力すれば自動的に本体価格と消費税の額を計算するわけですが、軽減税率の取引があったり消費税の支払いがない取引があるのに他の取引と同じに処理していると、うっかり消費税を支払ったものとして処理されてしまうのです。
 このように、事業者は、消費税の確定申告で、売り手の立場で販売によって預かった消費税の額から、買い手の立場で支払った消費税の額を差し引いて消費税を納税したりしているのです。預かる消費税は比較的簡単に把握できますが、支払った消費税の額の集計は誤りが起こりやすいのです。

(3)小規模事業者に対する特例措置

 消費税はすでに導入から40年近く経っています。実は消費税が導入されたのは平成元年であり、平成とともに消費税はスタートしたのです。ところが、40年前というのは、バブル真っ盛りとはいえ猛烈な反対のなかで消費税が導入されたため、小規模事業者に対して特例的な措置が2つ行われました。
 一つ目は、事業者が行う消費税の申告で、預かった消費税から差し引く消費税の額の計算を、実際に支払った消費税の額ではなく、売上の態様に応じた一定の率(みなし仕入率)をそれぞれの売上高に乗じた額をもって支払った消費税の額とみなすというものです。すなわち、簡易課税制度です。例えば、卸売業のみなし仕入れ率は90%、小売業は80%、製造業は70%、サービス業は50%です。
 消費税の申告にあたっては、例えばサービス業は売上で預かった消費税の50%を支払ったものとして申告・納税すればよく、実際に支払った消費税を正確に集計する必要はないのです。この場合、例えば人件費だけしか発生しないサービス業の場合、支払った消費税の額はゼロであり、本来なら売上で預かった消費税を全額納めなければならないところですが、簡易課税制度を適用すれば半額の納税で済むことになります。いわゆる「益税」です。もちろんこの益税分は利益になることから、法人の場合は法人税、個人事業者の場合は所得税が課されるわけですが、最大税率であってもざっくり半分は手元に残ることになります。ちなみに、みなし仕入率で計算された額が支払った消費税の額とみなされるため、実際に支払った消費税の額が大きかったとしても、あるいは、預かった消費税よりも大きく通常の申告であれば還付を受けられた場合でもできないことになります。
 この簡易課税制度は、消費税導入当初は2年前(基準年度)の消費税を預かる売上高(「課税売上高」といいます。)が2億円以下の事業者が適用を受けることができました。現在でも基準年度の課税売上高が5,000万円以下の事業者が適用を受けることができます。ちなみに、簡易課税制度の適用を受けるためには届出が必要であり2年間は変更できません。
 そしてもう一つが、売上高が一定以下の事業者は消費税の申告と納税が免除されるというものです。いわゆる免税事業者です。この免税事業者の制度により、買い手から消費税を預かりながらその消費税は納めなくてよいことになります、まさに、預かった消費税がまるまる益税となります。
 消費税導入当初は基準年度の課税売上高が3,000万円以下の事業者は納税義務が免除されました。現在でも基準年度の課税売上高が1,000万円以下の事業者は納税義務が免除されます。なお、課税売上高が1,000万円を超えた場合には2年後は納税義務は免除されません。

4 次回予告

 まさに今申し上げた小規模事業者への特例によって、いち消費者の立場からするとモヤモヤした状況があるわけですが、ここに大きな変化をもたらしたのがインボイス制度の導入なのです。
 次回では、インボイス制度の影響や登録における判断などについてコメントいたします。
 結論から申し上げます。
 小規模事業者にとってインボイス登録のメリットは、「販売相手に堂々と消費税分を上乗せして請求できること」です。
 同時に、相手方に「弊社(私)はお客様から預かった消費税をちゃんと納税しています」、「貴社(貴殿)の消費税の申告で迷惑をかけることはありません」という宣言をしていることになります。
 逆に、インボイス登録をしないデメリットは相手方からはネガティブなイメージで受け取られるおそれがあります。つまり、「消費税を納めていないくせに消費税(相当額)を上乗せして請求して厚かましい」「『事業者である買い手が消費税の申告で損失が発生しようが知ったことではない。自分がよければそれでいい』という考えをもっている」などというイメージです。
 同時に「弊社(私)は売上高が年間1,000万円ありません」と事実上宣言していることになります。

(公認会計士)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

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