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訴訟手続2026年03月26日 太陽光発電を巡る環境訴訟の動向 執筆者:日置雅晴

 東日本大震災に起因する福島原発の事故を踏まえて、2011年以降再生エネルギーに対する優遇政策が集中的に行われ、その結果日本の発電量における再生エネルギーのシェアは2023年で23%まで上昇した。
 このこと自体は、環境面への貢献という評価もできるが、性急な再生エネルギー発電施設、中でも太陽光発電設備の急増 は、当初高額な固定価格買取制度が作られたこと、ほかの再生エネルギー発電に比べ技術的な参入障壁が低いこと、などから全国的に急増し、中でも大規模なメガソーラーが山間地などに設置されるケースが増えた。自然景観の破壊や、土砂災害リスクへの関与などが全国で問題とされ、他方でこの種の環境影響を周辺に与えかねない事業に初めて関わる事業者が多く、その手法なども強引なものが目立ち、結果的に多くの反対運動が起こり、紛争を巡って相当数の裁判事例も存在している。
 ここでは、太陽光発電設備をめぐる紛争と裁判事例を整理してみる。
 太陽光発電設備を巡る訴訟は、大きく分けると
① 景観や洪水被害などを理由とする民事的な差し止めや損害賠償訴訟
② 設置に伴う開発許可や山林法の許可などが出された場合に近隣住民が許可の取消などを求める、あるいは行政が許可を出さなかった場合に事業者が不許可処分の取消を求める行政訴訟
③ スラップ訴訟、名誉毀損など反対運動などを巡るトラブル関連訴訟
 に分けられるが、ここでは①と②について考える事とする。
 民事訴訟においては、太陽光発電所の設置が、被害を訴える住民に対して、受忍限度を超える被害を与えるか否かが判断の基準となるが、いわゆるメガソーラーはある程度住居地から離れたところに設置されることが多いので、その設置により受忍限度を超える被害の立証は容易ではなく、棄却事例が散見される。(大分地裁平成28年11月11日判決 請求棄却)
 知られているある程度成果のあったと思われる事例としてはメガソーラーの反射熱で熱中症になったとして損害賠償やパネルの撤去を求めた訴訟で、施設側が植栽やネットなどを設置して最終的に訴訟取り下げになった事例があるようである。(持続可能な地域活性化と里山里海の保全活用の法律実務 第一東京弁護士会環境保全対策委員会 勁草書房 215ページ)
 請求が認められた事例としては、都市部において隣地のソーラーパネルによる反射光を巡って争われた、相隣問題的な裁判例があるが、被害者がソーラーパネルを設置した建物の所有者に対し、自己の建物所有権に基づく妨害排除請求として当該パネルの撤去を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償を請求し、その設置工事を請け負った業者に対しても損害賠償を請求したところ、撤去請求が認められるとともに、損害賠償についても連帯責任が認められた(横浜地判平成24年4月18日)
 (控訴審ではパネルが撤去されたこともあり、事業者の損害賠償責任は否定されている 東京高判平成25年3月13日判例時報2199号23頁)
 受忍限度を超える被害の発生は、個別事情によるので、状況次第では民事訴訟による救済も考えられるが、かなりハードルは高いと考えられる。
 これに対して、行政訴訟においては、どちらかというと、行政が既存の法制度における許認可制度を使って、太陽光発電設備の設置許可を与えなかった事例で、事業者からの不許可処分取消請求を認容した事例が目立っている。自然公園法による不許可を取り消した事例(水戸地裁平成30年6月15日判決)や、河川法による占有許可の不許可処分を取り消した事例(静岡地裁令和2年5月22日判決)などがあるが、既存の法制度はメガソーラーの規制などは想定しておらず、いわば目的外の使い方による設置の不許可には裁判所は厳しい判断をとってきたといえるかもしれない。又、ソーラーパネルの設置は建築物ではないことから、そもそも都市計画法の開発許可の対象にならないなど、既存の法律だけではメガソーラーの被害防止には十分ではない状況がある。
 これに対して、最近では多くの自治体が景観破壊や水害リスクなどのメガソーラーの社会的影響を踏まえた規制条例を制定する動きがある。その一つの事例として、高知県が制定した四万十川の保全及び流域の振興に関する基本条例(https://www.pref.kochi.lg.jp/doc/h29-sekoukisoku-ikenkoubo-syuuryou/file_contents/file_20171215165341_1.pdf)によるメガソーラーの設置不許可処分を事業者が争った裁判がある。
 この条例は、メガソーラーだけを規制するものではなく、四万十川という日本を代表する清流域の環境保護を目的とする条例であるが、結果的にメガソーラーの設置に対する規制にもなっている。
 裁判所は四万十川流域の自然的景観的価値を踏まえた上で、メガソーラー設置による影響を考えると、条例による設置の不許可には行政の裁量逸脱はないと判断した。(高知地裁令和6年1月23日判決 判例地方自治519号122ページ)
 この事例では、背景に四万十川流域という日本を代表する清流という保護対象があったことが重要ではあるが、きちんとその地域における保護すべき社会的利益を把握し、その保護のために必要な合理的な規制を課することについては、裁判になっても通用することが示された事例ということができる。
 メガソーラーを巡っては、未だに多数の紛争事例が報じられているが、特に行政は、適切な条例の設置により保護すべきものはきちんと保護していくことが重要だと認識する必要があるし、地域住民としても行政の積極的な条例制定を求めていくことは地域景観や環境保護の上で重要である。

(2026年3月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

執筆者

日置 雅晴ひおき まさはる

弁護士

略歴・経歴

略歴
1956年6月 三重県生まれ
1980年3月 東京大学法学部卒業
1982年4月 司法習修終了34期、弁護士登録
1992年5月 日置雅晴法律事務所開設
2002年4月 キーストーン法律事務所開設
2005年4月 立教大学法科大学院講師
2008年1月 神楽坂キーストーン法律事務所開設
2009年4月 早稲田大学大学院法務研究科教授

著書その他
借地・借家の裁判例(有斐閣)
臨床スポーツ医学(文光堂) 連載:スポーツ事故の法律問題
パドマガ(建築知識) 連載:パドマガ法律相談室
日経アーキテクチャー(日経BP社) 連載:法務
市民参加のまちづくり(学芸出版 共著)
インターネット護身術(毎日コミュニケーションズ 共著)
市民のためのまちづくりガイド(学芸出版 共著)
スポーツの法律相談(青林書院 共著)
ケースブック環境法(日本評論社 共著・2005年)
日本の風景計画(学芸出版社 共著・2003年)
自治体都市計画の最前線(学芸出版社 共著・2007年)
設計監理トラブル判例50選、契約敷地トラブル判例50選(日経BP社 共著・2007年)
新・環境法入門(法律文化社・2008年)
成熟社会における開発・建築規制のあり方(日本建築学会 共著・2013年)
建築生産と法制度(日本建築学会 共著・2018年)
行政不服審査法の実務と書式(日本弁護士連合会行政訴訟センター 共著・2020年)

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