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一般2021年10月06日 スポーツ・コンプライアンス研修の実践 執筆者:多賀啓

1 スポーツ・コンプライアンスの2つの柱としてよく言われるのが、「事前予防」と「事後対応」です。「事前予防」は、スポーツ・コンプライアンスに関する教育・啓発活動を意味し、「事後対応」は、危機管理体制の構築や不祥事発生時の対応等を指すものです。これらはどちらがより重要ということではなく、スポーツ・コンプライアンスを考える上での車の両輪といえるでしょう。
もっとも、「事後対応」は、制度を構築していた、不祥事や有事に適切な対処がなされた、といったように、到達点が目に見えやすい部分であるように思います(その反面、マイナスの評価も受けやすい部分ではあるのですが)。他方、「事前予防」は、先に述べたとおりステークホルダーに対する教育・啓発活動ですから、その効果や到達点がなかなか目に見えにくいところもあり、スポーツ競技団体の運営において、これをどのように実践していくのが良いか悩ましい部分です。実際に、どのように研修活動を進めていくべきか、という相談を受ける機会も多くあります。

2 スポーツ界においてコンプライアンス強化のための研修を実施していくべきことは、スポーツ団体ガバナンスコードでも求められていることです1
スポーツ競技団体にはたくさんのステークホルダーがいます。役員や職員等の組織運営を担う人たち、選手や指導者のようにその競技の現場で活躍する人たち、審判員等競技自体を運営する人たち。スポーツにおいて果たす役割が異なるステークホルダーたちにどのような研修を実施していくかに関しては、スポーツ団体ガバナンスコードにおいても、スポーツ・コンプライアンスに関する他のガイドライン等においても2、大きく「組織マネジメント」に関する研修(役員や職員等の組織運営を担う人たち向けの研修)と、「フォールドマネジメント」に関する研修(選手や指導者、審判員等その競技の現場でスポーツに関わる人たち)の2つを大別して研修を実施するという方向性が示されています。この点は抑えておくべき前提の一つでしょう。

3  「組織マネジメント」に関する研修、「フィールドマネジメント」に関する研修といっても、内容はそれぞれ多岐にわたります。一部の例を挙げただけでも、前者であれば関係法令、ガバナンス、不適切経理等の防止、代表選考に関する問題、後者であれば暴力・ハラスメントの防止、ドーピング・八百長等の不正行為の防止、SNSを巡る問題、権利救済(通報窓口やスポーツ仲裁の利用)等があります。およそ単年度に1回の研修でカバーしきれるものではありませんし、いずれも一度受講しただけで足りるというわけでもないでしょう。

4 そこで重要となってくるのが、スポーツ・コンプライアンス研修を実施していく上でどのような計画を立てるかです。①どこまでの範囲のステークホルダーに、②何の(どのような内容の)研修を受講してもらいたいか、③研修を実施する側、受講する側が一年間でどの程度研修に時間を割くことができるか、④各受講者にどのような知識を得てもらい、何を感じてもらい、今後何を検討していってもらいたいのか、を踏まえ、複数年にわたる研修の計画を立てて実践していくことが必要になると考えています。
これまでは、集合型の研修の実施が一般的でしたが、コロナ禍の影響もあり、Web会議システムの利用が広く浸透しつつあります。その他、eラーニング、オンデマンド型のコンテンツの配信、ハンドブックの作成といった方法もありますから、研修計画を策定する上で盛り込んでいくことも考えられます(ただし、先立つものとの兼ね合いもあります)。

5 まず研修を実施する、という姿勢は大切であり、コンプライアンス意識の醸成に向けた第一歩です。そこからさらに進んで、研修の計画を立てて取り組んでいくことも望まれます。研修の計画を立て、積み重ねを意識しないと、極端に言えば毎年同じ内容の研修を繰り返し行ってしまうということに陥ってしまうこともあります(同じ内容の研修を複数回実施することの効果を否定しているものではありません)。
冒頭にも述べたように、スポーツ・コンプライアンス教育・啓発活動自体、自ずから効果が目に見えにくいものです。到達目標や計画を立てる作業も骨が折れるものです。しかし、コンプライアンス意識の浸透・醸成を目指す上では、この骨の折れる作業が重要であると考えています。


1 スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>原則5
  https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop10/list/detail/1420887.htm
  スポーツ団体ガバナンスコード<一般スポーツ団体向け>原則3
  https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop10/list/detail/1420888.htm 参照
2 例えば、平成29年度スポーツ庁委託事業 スポーツ界におけるコンプライアンス強化ガイドライン
  https://www.jsaa.jp/ws/complianceindex.html

(2021年9月執筆)

執筆者

多賀 啓たが ひろむ

弁護士

略歴・経歴

パークス法律事務所・弁護士
東京都立大学法科大学院・講師
尚美学園大学スポーツマネジメント学部・講師
学歴
2010年 首都大学東京都市教養学部法学系(現 東京都立大学法学部)卒業
2012年 首都大学東京法科大学院(現 東京都立大学法科大学院)修了

取扱分野
スポーツ法務、企業・団体法務、訴訟・仲裁その他紛争解決

著書
『スポーツの法律相談』(共著)青林書院(2017年3月)
『スポーツ事故対策マニュアル』(共著)体育施設出版(2017年7月)
『Q&Aでわかる アンチ・ドーピングの基本』(編著)同文館出版(2018年11月)
『法務担当者のための契約実務ハンドブック』(共著)商事法務(2019年3月)

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