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一般2024年01月12日 選手を被害者にも加害者にもしないために 執筆者:多賀啓

1.  2023年11月、プロ野球チームである楽天イーグルスに所属する選手が、複数の後輩選手に対してハラスメント行為を行った問題がメディアで大きく取り沙汰されました。チームの調査の結果、チームは当該選手による複数のハラスメント行為を認定し、結局、当該選手は自由契約となり、チームを退団しました。
  楽天イーグルスは、この件を受け、概要以下の再発防止策を策定し公表しました 1
  (1) 定期的な面談の実施(チーム全員を対象、年に2回)
  (2) アンケート調査実施による実態把握(チーム全員を対象、年に1回)
  (3) ハラスメント研修の実施(チーム全員を対象、年に1回)
  (4) チーム内において、ハラスメント行為が生じ、又は生じるおそれがあることを認知した場合に通報・相談ができる「ハラスメント相談窓口」の設置とその周知(既に2023年11月29日に設置済み)

2.  また、この件を受け、NPB(日本野球機構)は、各球団内に選手が安心して相談・通報できる複数の窓口の設置と、春季キャンプ期間中に全選手を対象にしたハラスメント防止講習会を実施することを公表しました 2 3

3.  今回の楽天イーグルスで発生した事案は、プロ野球界特有の問題とはいえないでしょう。
他のスポーツ、他のリーグ、他のチームや団体でも起こり得る問題と捉え、他のスポーツリーグ、チームや各種団体においても、各組織において既に設置している防止策を改めて検証し、また、未整備の組織においては、選手によるハラスメント等の問題行為に関する防止策の策定に向けて早急に着手すべきと考えます。

4.  楽天イーグルスが既に設置し、またNPBが設置を予定している相談窓口は、ハラスメント事案発覚の端緒となり、組織内の自浄作用を機能させ、不祥事の予防に寄与するものです。組織ごとに対象範囲や対象者が異なることも考えられますから、チームやリーグに複数設置されることが望ましい方向性であることは間違いありません。
また、既に複数のスポーツ団体やリーグが取り組んでいるように、ハラスメント撲滅に向けた宣言を公表することも、組織としてのポリシー・理念を共通認識化するために重要となります。

5.  個人的に最も重要だと考えているのは、過去のコラム(「スポーツ・コンプライアンス研修の実践」)でも言及した「事前予防」、すなわち教育・啓発活動です。今回の事案との関係では、ハラスメント防止に向けた研修や講習が主なものとなるでしょう。
研修等の内容や方式については様々なものが考えられますが、こうした教育・啓発活動は、一過性の取組ではなく、定期的・継続的に実施することが重要と考えます。単発的に研修を受講することに意味がないと言うつもりは全くありませんが、定期的にハラスメントの防止について考えることで、日々の自身の言動を振り返り、知らず知らずのうちにハラスメントのラインに近づかないよう、また近づいてしまっていた場合にはそれにストップをかけるための機会となります。一歩間違えば、自身が被害者だけではなく加害者にもなり得るということを選手たちにも理解してもらうために、この機会を定期的に設けることが肝心です。

6.  ハラスメントの防止に向けては、複数の取り組みを継続し、ハラスメントを排除する雰囲気・土壌を組織において醸成していかなければなりません。この取り組みは、それぞれの競技にとどまらず、スポーツ界全体でポリシーや理念を共有し、取り組まなければならない課題です。
選手を被害者にも、加害者にもしないために、歩みを止めてはならないと強く感じています。



1 https://www.rakuteneagles.jp/news/detail/202300497644.html 2023年12月19日アクセス
2 「ハラスメント根絶について榊󠄀原定征コミッショナー談話」
  https://npb.jp/news/detail/20231204_01.html 2023年12月19日アクセス
3 NPBによる公表前の2023年12月1日に、NPBとプロ野球選手会との間で事務折衝も行われている。
  https://www.jiji.com/jc/article?k=2023120100856&g=spo 2023年12月19日アクセス

(2023年12月執筆)

執筆者

多賀 啓たが ひろむ

弁護士

略歴・経歴

パークス法律事務所・弁護士
東京都立大学法科大学院・講師
尚美学園大学スポーツマネジメント学部・講師
学歴
2010年 首都大学東京都市教養学部法学系(現 東京都立大学法学部)卒業
2012年 首都大学東京法科大学院(現 東京都立大学法科大学院)修了

取扱分野
スポーツ法務、企業・団体法務、訴訟・仲裁その他紛争解決

著書
『スポーツの法律相談』(共著)青林書院(2017年3月)
『スポーツ事故対策マニュアル』(共著)体育施設出版(2017年7月)
『Q&Aでわかる アンチ・ドーピングの基本』(編著)同文館出版(2018年11月)
『法務担当者のための契約実務ハンドブック』(共著)商事法務(2019年3月)

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