一般2022年03月07日 繰り返される体罰に立ち向かう 執筆者:多賀啓
スポーツの現場における体罰は、今なお繰り返されています。
もちろん事案は異なるものの、筆者は、桜宮高校事件を思い出すとともに、桜宮高校事件の反省は活かされていないのではないかという危機感すら覚えました。
また、Human Rights Watchは、『数えきれないほど叩かれて 日本のスポーツにおける子どもの虐待』(2020年7月)5と題する調査報告において、現在スポーツをしている子どもや子どもの頃スポーツをしていた人たち、スポーツに関わる団体、トップ選手等へのインタビューを実施し、日本における暴力指導等の実態を浮き彫りにしました。
「暴力やハラスメントは違法な行為だから」という説明や、会津藩の什の掟(「ならぬことはならぬものです」)のように、ダメなものはダメである、という説明も、説得力を持つものでしょう。
もっとも、さらに一歩進んで、なぜ体罰というものが排除されるべきか、という根本的な問いに対する説明を浸透させていく必要もあると考えます。
この点に言及した裁判例として、福岡地判平成8年3月19日・判時1605号97頁があります。この裁判例は、以下のように述べています。
「学校教育法11条ただし書が体罰の禁止を規定した趣旨は、いかに懲戒の目的が正当なものであり、その必要性が高かったとしても、それが体罰としてなされた場合、その教育的効果の不測性は高く、仮に被懲戒者の行動が一時的に改善されたように見えても、それは表面的であることが多く、かえって内心の反発などを生じさせ、人格形成に悪影響を与えるおそれが高いことや、体罰は現場興奮的になされがちでありその制御が困難であることを考慮して、これを絶対的に禁止するというところにある。」
この裁判例が述べていることはもっともであり、体罰により選手の行動をコントロールしたとしても、それは一時的に選手を力で押さえつけ、選手自身が考えることをやめさせているにすぎません。体罰を受けた選手の心にはもやもやとしたものが残り、スポーツを通して人格を発育させていくはずが、むしろ人格形成にマイナスの影響を与えるものとなります。さらに、体罰がエスカレートし歯止めが効かなくなるおそれが強いことも、過去の凄惨な事例を見れば明らかでしょう。
この裁判例の判断は、体罰が許されないそもそもの理由を的確に表現したものと考えます。
スポーツに関わる人全てが、スポーツから体罰を排除するという強い決意と姿勢をもって臨まなければなりません。その際、なぜ体罰が排除されるべきなのか、その理由を正確に捉え、これを唱え続けていくことが重要と考えます。
1 学校教育法第11条「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、監督庁の定めるところにより、学生、生徒及び児童に懲戒を加えることができる。 但し、体罰を加えることはできない。」
2 スポーツ庁「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」(2018年)20頁
3 東京地判平成28年2月24日・判時2320号71頁、大阪地判平成25年9月26日。民事裁判・刑事裁判のいずれも行われた。
4 https://news.yahoo.co.jp/articles/0ff102ce2156a3fef866be33535942d69e5c75c7 2022年2月25日アクセス
5 https://www.hrw.org/sites/default/files/media_2020/07/japan0720jp_web.pdf 2022年2月25日アクセス
(2022年2月執筆)
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執筆者
多賀 啓たが ひろむ
弁護士
略歴・経歴
パークス法律事務所・弁護士
東京都立大学法科大学院・講師
尚美学園大学スポーツマネジメント学部・講師
学歴
2010年 首都大学東京都市教養学部法学系(現 東京都立大学法学部)卒業
2012年 首都大学東京法科大学院(現 東京都立大学法科大学院)修了
取扱分野
スポーツ法務、企業・団体法務、訴訟・仲裁その他紛争解決
著書
『スポーツの法律相談』(共著)青林書院(2017年3月)
『スポーツ事故対策マニュアル』(共著)体育施設出版(2017年7月)
『Q&Aでわかる アンチ・ドーピングの基本』(編著)同文館出版(2018年11月)
『法務担当者のための契約実務ハンドブック』(共著)商事法務(2019年3月)
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