一般2022年07月04日 スポーツを巡る不祥事対応に正解はあるのか 執筆者:多賀啓

また、JVAの役職者は、キャンセルをした選手(日本バレーボール協会がキャンセル手続きを徒過しているため、断りなく国際大会に出場しなかったこととなっている)にペナルティが付くことを回避するため、診断書を偽造して国際バレーボール連盟に提出しました。
この問題について、日本バレーボール協会は調査報告書(要約版)を公開しています1。
この問題については、日本バドミントン協会は第三者委員会を設置し、調査を進めているとされています3 4。
これは、スポーツ競技団体を巡る不祥事の場面でも同じことがいえるでしょう。不祥事が発生しないよう日頃から体制整備に取り組むこと(一段目)や、コンプライアンス意識を醸成していくことに努めることに加え、不祥事が発生してしまった場合にこれを如何にして重大化・紛争化しないようにすること(二段目)、という二段の構えをしておく必要があります。
二段目、すなわち不祥事発生後の危機管理体制の構築にあたっては、スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>7の原則12の補足説明や、(公財)日本スポーツ仲裁機構の危機管理マニュアルのモデル例8等も参考になるところですが、不祥事発生時の対応(個別の懲戒手続ではなく、外部向けの対応を想定しています)については、「これこそが正解」という対応を一般化するのは難しいでしょう。ただ、先に挙げた3つの事案以外にも様々な事案を見ていると、事実をオープンにしていない、さらには隠蔽に走っているように見受けられる場合には、当初発端となった不祥事以上に問題が大きく発展し、また批判も強くなるということはいえるでしょう9。
スポーツに対する社会の注目が高まるにつれ、同時に厳しい見方をされるところもありますから、スポーツ競技団体としては、自身の「見え方」にも相当の配慮をする必要があります。
不祥事発生時の(外部向けの)対応としては、基本的に事実はオープンにするという姿勢で臨む必要があろうかと思います(もちろん関係者のプライバシーへの配慮は必須です)。
以前、スポーツ・コンプライアンス研修の実践でも書きましたが、上記の一段目にあたるこの部分については、時間をかけて醸成し、根付かせていく必要があります。
スポーツ競技団体には、取り組まなければならないことがたくさんあります。
1 日本バレーボール協会は調査報告書(要約版)を公開している。
https://www.jva.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022.03.07_3rd_party_report_summary.pdf 2022年6月20日アクセス
2 日本バドミントン協会は会員向けにリリースを行っている。
https://www.badminton.or.jp/info/docs/memberInfo_20220325.pdf 2022年6月20日アクセス
3 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220419/k10013589651000.html 2022年6月20日アクセス
4 https://www.nikkansports.com/sports/news/202205120000598.html 2022年6月20日アクセス
5 https://news.yahoo.co.jp/articles/6bcef0e4058bc499a7b35595092001e8ef1b9c3a 2022年6月20日アクセス
6 https://www.nikkansports.com/sports/news/202201130000962.html 2022年6月20日アクセス
7 https://www.mext.go.jp/sports/content/1420887_1.pdf 2022年6月20日アクセス
8 https://www.mext.go.jp/sports/content/20210318-spt_sposeisy-000013551_2.pdf 2022年6月20日アクセス
9 ちなみに、日本バドミントン協会の事案も、秀岳館高校の事案も、当人らは「隠蔽の意図」を否定しています。また、日本バレーボール協会の調査報告書においても「隠蔽」という文言は出てきません。この段落は筆者が考える一般論であり、これらの事案に何らかの評価を加えるものではありませんので、念のため補足します。
(2022年6月執筆)
人気記事
人気商品
執筆者

多賀 啓たが ひろむ
弁護士
略歴・経歴
パークス法律事務所・弁護士
東京都立大学法科大学院・講師
尚美学園大学スポーツマネジメント学部・講師
学歴
2010年 首都大学東京都市教養学部法学系(現 東京都立大学法学部)卒業
2012年 首都大学東京法科大学院(現 東京都立大学法科大学院)修了
取扱分野
スポーツ法務、企業・団体法務、訴訟・仲裁その他紛争解決
著書
『スポーツの法律相談』(共著)青林書院(2017年3月)
『スポーツ事故対策マニュアル』(共著)体育施設出版(2017年7月)
『Q&Aでわかる アンチ・ドーピングの基本』(編著)同文館出版(2018年11月)
『法務担当者のための契約実務ハンドブック』(共著)商事法務(2019年3月)
執筆者の記事
執筆者の書籍
-
-
団体向け研修会開催を
ご検討の方へ弁護士会、税理士会、法人会ほか団体の研修会をご検討の際は、是非、新日本法規にご相談ください。講師をはじめ、事業に合わせて最適な研修会を企画・提案いたします。
研修会開催支援サービス -
Copyright (C) 2019
SHINNIPPON-HOKI PUBLISHING CO.,LTD.