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一般2022年07月04日 スポーツを巡る不祥事対応に正解はあるのか 執筆者:多賀啓

1 ここ最近、スポーツ競技団体等を巡り、いくつかの不祥事が取沙汰されました。

  ● (公財)日本バレーボール協会において、ビーチバレーボールの国際大会へのエントリー手続きの際に、キャンセルを希望した先順位のチームの手続きの期限を徒過し、本来出場できるはずだった後順位のチームが出場できなくなりました。
また、JVAの役職者は、キャンセルをした選手(日本バレーボール協会がキャンセル手続きを徒過しているため、断りなく国際大会に出場しなかったこととなっている)にペナルティが付くことを回避するため、診断書を偽造して国際バレーボール連盟に提出しました。
この問題について、日本バレーボール協会は調査報告書(要約版)を公開しています1

  ● (公財)日本バドミントン協会において、2018年10月から2019年3月に、元職員が公金約680万円を私的流用していたことが発覚し、2019年11月末に、理事会において理事・監事が損失欠損分を補填する形としていたことが、最近になって公にされました2
この問題については、日本バドミントン協会は第三者委員会を設置し、調査を進めているとされています3 4

  ● 熊本県の秀岳館高校において、サッカー部のコーチが部員に暴行を加えている様子が拡散したことを契機に、Twitter上で、部員らが謝罪動画を公表し、大きな波紋を起こしました。部の元監督は、当初は部員らが自主的に謝罪動画を作成し公表した、と説明していましたが、実際には元監督が謝罪動画の作成と公表に関与していたことが発覚しました5

2 各問題は、人為的なミス、私的流用、指導者による暴力といった不祥事が発生し、その後の団体の対応も相まってさらに大きな問題へと発展した事案といえます。日本バドミントン協会の事案は現在も調査継続中ですが、日本バレーボール協会の事案では、当時の会長や複数名の役員が解任等される事態にまで至っています6

3 ところで、スポーツ事故予防の場面では、複数の視点を持つことが重要だといわれています。まず、「事故を発生させないこと」、次に、「事故が発生してしまう自体はやむを得ないとして、事故を重症化・紛争化させないこと」です。
これは、スポーツ競技団体を巡る不祥事の場面でも同じことがいえるでしょう。不祥事が発生しないよう日頃から体制整備に取り組むこと(一段目)や、コンプライアンス意識を醸成していくことに努めることに加え、不祥事が発生してしまった場合にこれを如何にして重大化・紛争化しないようにすること(二段目)、という二段の構えをしておく必要があります。
二段目、すなわち不祥事発生後の危機管理体制の構築にあたっては、スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>7の原則12の補足説明や、(公財)日本スポーツ仲裁機構の危機管理マニュアルのモデル例8等も参考になるところですが、不祥事発生時の対応(個別の懲戒手続ではなく、外部向けの対応を想定しています)については、「これこそが正解」という対応を一般化するのは難しいでしょう。ただ、先に挙げた3つの事案以外にも様々な事案を見ていると、事実をオープンにしていない、さらには隠蔽に走っているように見受けられる場合には、当初発端となった不祥事以上に問題が大きく発展し、また批判も強くなるということはいえるでしょう9
スポーツに対する社会の注目が高まるにつれ、同時に厳しい見方をされるところもありますから、スポーツ競技団体としては、自身の「見え方」にも相当の配慮をする必要があります。
不祥事発生時の(外部向けの)対応としては、基本的に事実はオープンにするという姿勢で臨む必要があろうかと思います(もちろん関係者のプライバシーへの配慮は必須です)。

4 なお、日本バレーボール協会の調査報告書では、「ガバナンスの脆弱性」に関する指摘に加え、診断書偽造に関して「コンプライアンス意識が欠如」していたという指摘もなされています。
以前、スポーツ・コンプライアンス研修の実践でも書きましたが、上記の一段目にあたるこの部分については、時間をかけて醸成し、根付かせていく必要があります。
スポーツ競技団体には、取り組まなければならないことがたくさんあります。


1 日本バレーボール協会は調査報告書(要約版)を公開している。
  https://www.jva.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022.03.07_3rd_party_report_summary.pdf 2022年6月20日アクセス
2 日本バドミントン協会は会員向けにリリースを行っている。
  https://www.badminton.or.jp/info/docs/memberInfo_20220325.pdf 2022年6月20日アクセス
3 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220419/k10013589651000.html 2022年6月20日アクセス
4 https://www.nikkansports.com/sports/news/202205120000598.html 2022年6月20日アクセス
5 https://news.yahoo.co.jp/articles/6bcef0e4058bc499a7b35595092001e8ef1b9c3a 2022年6月20日アクセス
6 https://www.nikkansports.com/sports/news/202201130000962.html 2022年6月20日アクセス
7 https://www.mext.go.jp/sports/content/1420887_1.pdf 2022年6月20日アクセス
8 https://www.mext.go.jp/sports/content/20210318-spt_sposeisy-000013551_2.pdf 2022年6月20日アクセス
9 ちなみに、日本バドミントン協会の事案も、秀岳館高校の事案も、当人らは「隠蔽の意図」を否定しています。また、日本バレーボール協会の調査報告書においても「隠蔽」という文言は出てきません。この段落は筆者が考える一般論であり、これらの事案に何らかの評価を加えるものではありませんので、念のため補足します。

(2022年6月執筆)

執筆者

多賀 啓たが ひろむ

弁護士

略歴・経歴

パークス法律事務所・弁護士
東京都立大学法科大学院・講師
尚美学園大学スポーツマネジメント学部・講師
学歴
2010年 首都大学東京都市教養学部法学系(現 東京都立大学法学部)卒業
2012年 首都大学東京法科大学院(現 東京都立大学法科大学院)修了

取扱分野
スポーツ法務、企業・団体法務、訴訟・仲裁その他紛争解決

著書
『スポーツの法律相談』(共著)青林書院(2017年3月)
『スポーツ事故対策マニュアル』(共著)体育施設出版(2017年7月)
『Q&Aでわかる アンチ・ドーピングの基本』(編著)同文館出版(2018年11月)
『法務担当者のための契約実務ハンドブック』(共著)商事法務(2019年3月)

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