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一般2023年05月19日 スポーツ団体の相談窓口対応に関する実務上の注意点 執筆者:多賀啓

1 近年、スポーツ団体(中央競技団体に限りません)が暴力・ハラスメント行為等を対象とした相談窓口を設置する例が増えています。
筆者は、スポーツ団体の相談窓口体制に関するアドバイス、相談窓口での相談受付業務、相談窓口での相談受付後の調査・処分手続といったように、いくつかの角度から相談窓口に関与することがあります。そこで、本稿では、筆者の視点から、実務上「これは避けたい」という例や対応をいくつか見ていきたいと思います。
なお、通報制度に関する全体像は古田直暉弁護士のスポーツに関する通報手続及び懲罰手続に関する留意点をご参照ください。

2 まず、1つ目は、「伝書鳩型」の対応です。これは、相談者から聞いた話をそのまま行為者(とされている人)に伝えてしまうという対応です。「当事者同士で話してもらえれば解決するだろう」という安易な考えに基づいてなされる対応で、事案を複雑化させ、場合によって二次被害を生じさせることにつながります。相談窓口に端を発してその後のヒアリング等を実施する場合、相談者からの話をよく聞き、事実関係を整理し、客観的な証拠の有無を確認した上で、最後に行為者(とされている人)にヒアリングをする、というのが基本的なプロセスです。相談者からの話も含めた各証拠を精査した上で行為者(とされている人)の認識や言い分を慎重にヒアリングしなければなりません。
次に、2つ目は、「放置型」の対応です。相談を受け付けてから、その後のヒアリングや調査に合理的な理由なく数か月以上(極端な例だと1年以上)時間をかけてしまっている例です。時間がかかればかかるほど(人の記憶も含めた)証拠は散逸し、事実の究明が難しくなっていきます。また、相談窓口、ひいては当該スポーツ団体に対する信頼も大きく損なわれます。
多くのスポーツ団体は、多くの業務をこなしていかなければならない一方で、必ずしも人的リソースが十分ではありません。特に窓口担当者に他の業務も含めて負担が集中すると「放置型」の対応は起こりやすくなりますが、相談窓口等の制度を設置する以上は、迅速な対応が求められます。
また、3つ目は、「客観証拠無視型」の対応です。1つ目の「伝書鳩型」の対応と近いものですが、相談者や行為者(とされている人)をはじめ、「人の話」のみから判断を行おうとする対応です。もちろん、相談窓口及びそれに端を発する調査手続において、相談者からのヒアリングは事案の概要や申告されている被害の内容を把握する上で重要ですし、行為者(とされている人)の認識や言い分も判断をする上で重要です。また、事案によっては、その他に証拠がなく、人の話のみで判断しなければならない場面も出てきます。
しかし、暴力・ハラスメント事案において、録音・録画はないか(または録音・録画をしている可能性のある人はいないか)、当時のメールやLINEのやりとり、メモの存在等、客観的な証拠の有無をチェックすることは必須です。このチェックを看過し、または相談者の話からそういった証拠に関するヒントが得られているにも関わらずこれを看過するという対応は意外に見受けられます。

3 また、以上のほか、「これは避けたい」という対応というわけではありませんが、相談者に対し、相談者の個人名等も含めた相談内容に関する情報の取扱いについても注意が必要です。
相談窓口を設置する際の規程で情報の取扱いについて明記して公表していても、相談者が当該規程の記載を認識していないことも多々あります。不要なトラブルをできる限り回避するため、相談窓口の受付担当者は、相談者に対して、相談内容等の情報が連盟のどの機関・範囲まで共有されるかにつき、よくよく説明をして理解を得ておく必要があるでしょう。

4 相談窓口は、スポーツ団体の自浄作用を機能させ、不祥事の予防にも寄与するものです。他方で、その運用に問題があると、紛争が拡大・長期化し、当該スポーツ団体への信頼も低下するほか、不祥事予防の実効化を図ることもできず、結果としてコンプライアンス意識の低下にもつながります。
今一度、スポーツ団体における相談窓口の重要性を再確認し、適切な制度設計や運用を目指す必要があります。

(2023年5月執筆)

執筆者

多賀 啓たが ひろむ

弁護士

略歴・経歴

パークス法律事務所・弁護士
東京都立大学法科大学院・講師
尚美学園大学スポーツマネジメント学部・講師
学歴
2010年 首都大学東京都市教養学部法学系(現 東京都立大学法学部)卒業
2012年 首都大学東京法科大学院(現 東京都立大学法科大学院)修了

取扱分野
スポーツ法務、企業・団体法務、訴訟・仲裁その他紛争解決

著書
『スポーツの法律相談』(共著)青林書院(2017年3月)
『スポーツ事故対策マニュアル』(共著)体育施設出版(2017年7月)
『Q&Aでわかる アンチ・ドーピングの基本』(編著)同文館出版(2018年11月)
『法務担当者のための契約実務ハンドブック』(共著)商事法務(2019年3月)

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