カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

一般2022年11月04日 スポーツ調停とは 執筆者:多賀啓

1 スポーツにおける紛争、例えばアスリートとスポーツ競技団体との間で紛争が発生した場合に、スポーツ仲裁という手続きが用いられることがあることは、現在広く知られているでしょう。スポーツ仲裁は、公益財団法人日本スポーツ仲裁機構(JSAA)が仲裁機関となって提供する手続きです。
スポーツ仲裁にもいくつかの種類がありますが、それについてはまた別の機会にするとして、スポーツ仲裁以外に、スポーツ調停という手続きも用意されています。

2 調停とは、辞書的にいえば、第三者が当事者の間に入ることによって、紛争の解決を図ることをいいます。スポーツ調停は、文字通り調停のスポーツ版で、JSAAのリストに載っている調停人が当事者の間に入り、話合いによる紛争の解決を図る手続きです。
スポーツ仲裁とスポーツ調停が根本的に異なるのは、スポーツ仲裁においては基本的にスポーツ仲裁パネルが仲裁判断を下すために手続きが進められる1一方で、スポーツ調停は当事者の話合いによる円満解決を目指す手続きであるという点です。
また、スポーツ調停においては、規則上、対象とする紛争は「スポーツに関する紛争」とされているのみですから、この範囲で当事者が設定して良いこととなっています2。ただし、次の紛争については、事実関係について当事者双方が確認し、理解することのみを目的に手続きが行われます34
① 競技中になされる審判の判定に関する紛争
② スポーツ競技又はその運営に関して競技団体又はその機関がした懲戒処分決定に関する紛争
他にも、スポーツ調停ではスポーツ仲裁と異なり申立期間の制限がない等の手続上の違いは多くありますが5、本稿での手続きの比較はこの程度に留めたいと思います。
なお、スポーツ調停もスポーツ仲裁と同様、当事者が紛争をスポーツ調停に付することを合意して初めて手続きを利用することが可能になります。

3 スポーツ調停は、先に述べたとおり円満解決を目指す手続きです。紛争が生じた場合に、様々な経緯があって話合いがつかないものの円満に解決をした方が当事者や各所への影響も少なく、また当事者もできるならば円満な解決を望むという場合に、第三者に間に入ってもらい話合いを実施できるという効用があります。スポーツ調停はスポーツ仲裁よりも非公開性が高く、調停内容は公にされませんから、その意味で当事者としても話し合うモチベーションは上がるものといえます。

4 スポーツ調停の手続きは、スポーツ調停の運用が開始された2006年から2020年の間で、申立受理件数が15件、そのうち和解成立に至ったのが4件というデータが出されています6。申立受理件数15件とは別に、申立てがあったものの被申立人が調停に応諾しなかった件数は12件です。スポーツ仲裁(ドーピング仲裁等は除く)は、2003年から2020年までの間に申立受理件数が102件であり、スポーツ仲裁に比べスポーツ調停はまだ申立件数が少ないということに驚きはないのですが、一方で、14年の間に27件の申立てがあったということは、実際にスポーツ調停の需要があることも確かであることを示しているように思います。

5 スポーツ調停の手続きや和解内容は公にされませんから、スポーツ調停が奏功した/しなかった事案の検証・分析を加えることはできません。また、どのような場合にスポーツ調停を利用すべきかについては、当然ですが個別の事案の性質等にもよるところかと思います。
いずれにせよ、このようにスポーツの紛争解決手段にもバリエーションがあることは、スポーツ関係者が広く認識しておく必要があるでしょう。


1 スポーツ仲裁においても、和解の内容を仲裁判断とする手続きは用意されており(スポーツ仲裁規則第45条)、実際に和解により解決に至った例も複数件あります。
2 スポーツ調停規則第2条第1項
3 スポーツ調停規則第2条第2項
4 この制限がなされていることについては、「当事者間限りで和解をしてしまうことは公正性・透明性の観点から妥当ではないと考えられるため」と説明されています(道垣内正人「日本スポーツ仲裁機構とその活動」『日本スポーツ法学会年報第15号 スポーツ仲裁・調停』32頁、2008年)。なお、①の「競技中になされる審判の判定に関する紛争」は、スポーツ仲裁の対象からは除外されているものです(スポーツ仲裁規則第2条第1項)。
5 スポーツ仲裁の場合は、スポーツ仲裁規則第13条の第1の1項・第1の2項の申立て期間の制限があります。
6 JSAAの2020年事業報告(https://www.jsaa.jp/doc/jigyou/2020report.pdf

(2022年10月執筆)

執筆者

多賀 啓たが ひろむ

弁護士

略歴・経歴

パークス法律事務所・弁護士
東京都立大学法科大学院・講師
尚美学園大学スポーツマネジメント学部・講師
学歴
2010年 首都大学東京都市教養学部法学系(現 東京都立大学法学部)卒業
2012年 首都大学東京法科大学院(現 東京都立大学法科大学院)修了

取扱分野
スポーツ法務、企業・団体法務、訴訟・仲裁その他紛争解決

著書
『スポーツの法律相談』(共著)青林書院(2017年3月)
『スポーツ事故対策マニュアル』(共著)体育施設出版(2017年7月)
『Q&Aでわかる アンチ・ドーピングの基本』(編著)同文館出版(2018年11月)
『法務担当者のための契約実務ハンドブック』(共著)商事法務(2019年3月)

執筆者の記事

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索