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一般2023年09月27日 「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」から10年を経て 執筆者:多賀啓

 今からちょうど10年前、2013年は、日本のスポーツ界における一つのターニングポイントであったと言って良いでしょう。その2月に、下村博文文部科学大臣(当時)が「日本のスポーツ史上最大の危機」と評するなど、スポーツにおける暴力・体罰が社会的に大きく注目された時期でした。その2か月後の 2013年4月25日には、「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」が、(公財)日本体育協会(現日本スポーツ協会)や(公財)日本オリンピック委員会等により採択されました。

 それから10年を経て、スポーツにおける暴力やハラスメントの問題はどのように変容したのでしょうか。日本スポーツ協会が設置する「スポーツにおける暴力行為等相談窓口」1では、過去数年の相談内容を次のとおりグラフ化しています。

(公益財団法人日本スポーツ協会ウェブサイトより引用2

 上記のデータを踏まえ、①暴力の割合は減少した、②他方で、(暴力・暴言を除く)パワー・ハラスメントや暴言という目に見えない形での行為が増えた、陰湿化傾向にあると言われています。筆者が各種相談窓口の対応をしている中での実感としては、人間関係からの切り離しや無視といった事例の相談も増えているように思います。スポーツの指導者向けの研修や講習を行う際には、こういった行為もハラスメントに当たることはもちろん、自身の指導に当たりいかにしてハラスメントを回避すべきかを考える機会を提供していく必要があるでしょう。

 なお、日本スポーツ協会は、近年相談件数は増加傾向にあるとも説明しています。このことを重視すべきであることは言うまでもありませんが、相談窓口の周知が進んだこと等により、声を上げるケースが増えてきているという側面もあるでしょうから、単純に暴力やハラスメント事案の総数が増加していると結論付けることまではできないでしょう。

 スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>原則9においては、通報制度を構築することが求められています。同コードの策定もあり、近年では中央競技団体を中心に相談窓口の整備が進んできています3

 また、(公財)日本サッカー協会は、JFAセーフガーディングポリシー4を策定し、子どもたちがサッカーを安心・安全に楽しみ続けられる環境を生み出すための基本原則を策定しています。(公財)日本ラグビー・フットボール協会においても、セーフガーディング推進ガイド5を策定し、ラグビー界の環境整備のための各種施策を整備しています。

 このほかにも、国際オリンピック委員会(IOC)6やカナダスポーツ紛争解決センター(SDRCC)7といった海外の機関において各種取組みがなされています。

日本スポーツ協会や日本オリンピック委員会等6団体は、暴力行為根絶宣言を採択してからちょうど10年後の2023年4月25日に、「NO!スポハラ」活動8を開始することを宣言しました。
スポーツに関わるすべての人が、これまで繰り返されてきた痛ましい事件を二度と繰り返さないという強い意志のもとに、今後もスポーツ界全体として取組みを続けることが求められます。




1 https://www.japan-sports.or.jp/cleansport/tabid1354.html
2 https://www.japan-sports.or.jp/cleansport/tabid1355.html
3 スポーツ庁ウェブサイトでは、各スポーツ団体等の相談窓口を一覧化して公開しています。
  https://www.mext.go.jp/sports/b_menu/sports/mcatetop10/list/1412106.htm
4 https://www.jfa.jp/respect/safe_guarding.pdf
5 https://rugby-japan.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/file/article/159582_6390780a960c6.pdf
6 IOCは、2021年9月に『IOC Certificate : Safeguarding Officer in Sport』という資格認証コースを創設した。
  https://stillmed.olympics.com/media/Documents/Athletes/Safeguarding/IOC-Safeguarding-Certificate-Information.pdf
7 SDRCCは、Abuse Free Sport Programというサービスを提供している。
  https://abuse-free-sport.ca/
8 https://www.japan-sports.or.jp/spohara/

(2023年9月執筆)

執筆者

多賀 啓たが ひろむ

弁護士

略歴・経歴

パークス法律事務所・弁護士
東京都立大学法科大学院・講師
尚美学園大学スポーツマネジメント学部・講師
学歴
2010年 首都大学東京都市教養学部法学系(現 東京都立大学法学部)卒業
2012年 首都大学東京法科大学院(現 東京都立大学法科大学院)修了

取扱分野
スポーツ法務、企業・団体法務、訴訟・仲裁その他紛争解決

著書
『スポーツの法律相談』(共著)青林書院(2017年3月)
『スポーツ事故対策マニュアル』(共著)体育施設出版(2017年7月)
『Q&Aでわかる アンチ・ドーピングの基本』(編著)同文館出版(2018年11月)
『法務担当者のための契約実務ハンドブック』(共著)商事法務(2019年3月)

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