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一般2022年10月05日 スポーツに関する通報手続及び懲罰手続に関する留意点 一般社団法人日本スポーツ法支援・研究センターからの便り 執筆者:古田直暉

1. はじめに

 昨今、スポーツ界において、プロ・アマチュアを問わず、暴言、暴力、ハラスメント等の不祥事が問題になっています。これらが発覚する端緒は様々ですが、内部又は外部による通報窓口制度は、これらを早期に発見し、対応するのに有効な制度です。
 そこで、今回は、スポーツ庁の「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>」等を参考に、望ましい通報手続や、それに続く懲罰手続のあり方について、考察したいと思います。

2. 通報手続について

 まず、問題事象を認識した相談者に対して通報をしてもらうためには、当然、通報制度を認識してもらう必要があります。そこで、通報窓口については、ウェブサイトやSNS等を通じて、その存在、制度の内容、連絡先等について、広く周知をする必要があります

 また、相談者が通報を行う際、自己が通報をした事実や、通報をした内容について、第三者に知れ渡る又は不利益を被るおそれがある場合には、相談者は相談を控えてしまい、通報制度が十分に機能しないことになってしまいます。
 そこで、通報制度を構築する上では通報の内容が秘匿されるようにし、また、通報による不利益が生じないように担当者に守秘義務を課し、また、一定の規定を設けて情報管理を徹底するとともに相談者に対する不利益取扱いを禁止する必要があります。
 更に、職員その他内部関係者等が通報窓口を務める内部通報窓口のみでは、通報者として匿名性が確保されるかについて不安に感じ、また利益相反の問題もあるため、通報を控えてしまうというおそれもあります。したがって、通報窓口には、職員その他内部関係者等が通報窓口を務める内部通報窓口に加えて、外部の弁護士等が通報窓口を務める外部通報窓口を併設することが望ましいといえます

 また、通報内容について調査・検討をする際には、法的、会計的に専門的な知識を要する場合も多いため、通報制度の運用体制は、弁護士、公認会計士、学識経験者等の有識者を中心に整備される必要があります。

 最後に、通報を受けた際、窓口の担当者によって対応及び判断が異なることは避けることが望ましいため、業務フローや、調査の適否の判断基準、調査の方法等について予め定めておくとともに、定期的に意見を交換する機会を設けておくことが望ましいといえます。

3. 懲罰手続について

 通報窓口を通じて調査が必要と判断された事案については、調査を行い、場合によっては処分対象者に懲罰が科されることになります。もっとも、懲罰制度は、対象者の権利・自由を制限し、又は不利益を課すものであるため、処分を行う際は、適正な処分手続に則り、その内容も相当であるといえる必要があります。

 適正な手続を確保するために、懲罰制度の適用対象となる禁止行為、処分対象者、処分の内容、基準及び手続等を、規程において明確に定め、それに従って懲戒手続を行うことが望ましいといえます。また、処分基準については、事案によってズレが生じ、不平等な処分が行われないよう、予め規程等で明確な基準を設けておくことが良いかと思います

 事実を調査する機関(事実調査委員会等)及び処分を審査する機関(処分審査委員会等)は、通報制度で説明したのと同様の理由から、ステークホルダーや経営陣から独立した、中立な機関である必要があります。また、各機関の独立性を確保するため、各機関の構成員は、他の機関の構成員を兼任しないことが望ましいといえます。

 上記の機関を通じて調査を行い、処分内容を決定する際は、有効かつ適切な証拠によって認定された行為のみを処分の対象とすることが望まれます。動画や音声といった客観的な証拠のほか、関係者の証言を根拠にすることが考えられますが、証言のみに基づいて事実認定を行う際には、内容の具体性や、他の関係者の証言との整合性等を考慮して、慎重に認定をする必要があるものと考えます。

 また、処分審査の際には、処分対象者に対し十分な手続保証を与える必要があります。したがって、処分を行う前には、事前に処分対象者に対して聴聞(意見聴取)の機会を設けることは必須です。また、その際には、書面により、処分対象行為を具体的に摘示することが望ましいといえます。
 最後に、処分対象者には、その処分結果を、処分の内容、処分対象行為、処分の理由、不服申立手続の可否、その手続の期限等が記載された書面にて告知することが求められます。また、認定根拠となった証拠や処分の手続の経過についても、可能な範囲で告知することが望まれます。

4. おわりに

 勿論、組織によっては人員面・資金面等で制約がありますので、採り得る体制については限界があります。しかしながら、少なくとも以上の留意点については意識をした上で、通報及び懲罰に係る制度を定め、可能な限り適正な手続を経て、相当性を有する処分を行うことが望ましいものと考えます。

 https://www.mext.go.jp/sports/content/1420887_1.pdf
 なお、各スポーツ団体の暴力・ハラスメント相談窓口については、スポーツ庁のHP(https://www.mext.go.jp/sports/content/20210430-spt_sposeisy-000014419_1.pdf)をご参照ください。
 民間企業においても外部通報窓口を顧問弁護士にする事例も少なくありませんが、通報内容に関する認識、評価が通報者と団体との間で対立するような場面は利益相反の問題が生じ得ます。仮に顧問弁護士が窓口を担当する場合でも、その役割をあくまでも窓口業務に限定し、当該業務を超えて懲罰手続までは担当しないようにすることが望ましいといえます。
 規程の策定の際には、「スポーツを行う者を暴力等から守るための第三者相談・調査制度の構築に関する実践調査研究協力者会議」のスポーツ団体処分手続モデル規程(試案)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/sports/020/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2015/06/12/1358629_4.pdf)を参考にすることも考えられます。
 処分の軽重に係る基準を考える際には、公益財団法人日本スポーツ協会の「日本スポーツ協会公認スポーツ指導者処分基準 別表」(https://www.japan-sports.or.jp/Portals/0/data/katsudousuishin/doc/shobun_kijun_beppyou_20220531.pdf)を参考にすることも考えられます。

(2022年9月執筆)

執筆者

古田 直暉ふるた なおき

弁護士(桃尾・松尾・難波法律事務所)

略歴・経歴

京都大学法学部卒業
京都大学法科大学院修了
日本スポーツ法学会会員
専門分野はスポーツ法務、企業法務、一般民事

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