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一般2025年01月16日 スポーツ基本法改正において持つべき視点 執筆者:堀田裕二

1 スポーツ基本法は1961年に制定されたスポーツ振興法を全面改正する形で2011年に成立した。スポーツ振興法は、主に第1回の東京オリンピックに向けて制定されたという経緯があり、スポーツ基本法も第2回の東京オリンピック・パラリンピックの開催を前提に制定されたというものである。

2 そこで、東京オリンピック・パラリンピックが終了し、成立から13年以上経過した今、スポーツを巡る状況にも変化が生じたことから、改めてスポーツ基本法の意義を検討する必要があり、現在改正に向けた議論が行われている。

3 スポーツ基本法は、スポーツ議員連盟などの議員が日本スポーツ法学会や各種スポーツ団体と連携して議員立法の形式で成立したという経緯がある。そこで、改正に関しても、通常の立法と異なり、内閣法制局など国家が主導するのではなく、一般財団法人日本スポーツ政策推進機構(NSPC)などの民間団体が主導で行われている。

4 NSPCは、東京オリンピック・パラリンピック後のスポーツ界の人材活用などを見すえて2020年に生まれた「日本スポーツレガシーコミッション」を改組した組織として、2022年4月に設立されたものであり、2023年1月以降「日本スポーツ会議」を開催し、スポーツ政策に関する課題について議論や提言を行っている。

5 この間、2022年3月25日、第3期スポーツ基本計画として2022年度~2026年度までの5年間で国等が取り組むべき施策や目標等を定めた計画が策定された1
① 多様な主体におけるスポーツの機会創出
② スポーツ界におけるDXの推進
③ 国際競技力の向上
④ スポーツの国際交流・協力
⑤ スポーツによる健康増進
⑥ スポーツの成長産業化
⑦ スポーツによる地域創生、まちづくり
⑧ スポーツを通じた共生社会の実現
⑨ スポーツ団体のガバナンス改革・経営力強化
⑩ スポーツ推進のためのハード、ソフト、人材
⑪ スポーツを実施する者の安全・安心の確保
⑫ スポーツ・インテグリティの確保

6 そして、2024年1月15日に開催された日本スポーツ会議2024において、下記の5つの提言がなされた2
提言1. スポーツ基本法改正の実現
提言2. スポーツ推進のための財源の確保と拡充
提言3. 国際貢献・国際連携に資する国際競技大会等への戦略と国内競技大会の変革
提言4. 地域でのスポーツ参画人口の拡大
提言5. スポーツ指導者等の育成及びトレーナー資格の国家資格化と職域拡大
 ここで、スポーツ基本法改正の実現が明確にされ、その改正内容にも関連するスポーツ政策等に関するその他の提言も行われた。

7 そして、日本スポーツ会議2024での上記提言を踏まえ、スポーツ基本法の改正に向けた政策提言の議論を本格的に行うべく、2024年4月15日、NSPCにスポーツ基本法改正検討委員会が設置され、第1回委員会が開催された。
第1回委員会では、スポーツ基本法策定の背景と経緯、委員会設置の趣旨が述べられ、スポーツ基本法の概要と重要性、改正の論点等についての発表が行われた。
 続いて2024年5月15日に第2回スポーツ基本法改正検討委員会が開催され、中央競技団体等のスポーツ関連諸団体に対して行われたスポーツ基本法改正に関するアンケート調査の結果についての発表が行われた。
 そして、2024年11月6日に第3回のスポーツ基本法改正検討委員会が開催され、「スポーツ基本法改正と今後のスポーツ施策の充実に向けた提言(案)」(非公表)が発表された。まだ案文段階であるが、改正の視点としては、「『ウェルビーイング』の向上と『ソリダリティー(つながり)』の実感に向けて」、「社会課題を改革のチャンスに」、「『ユニバーサル』や『バーチャル』に配慮した環境づくり」、「スポーツの運営基盤を強化」などが示された。そして、改正の視点を受けて、改正の方向性として、4つの提言がなされた。
提言1 スポーツを巡るパラダイムシフト、社会環境の変化に合わせた基本理念の見直し
提言2 スポーツを通じた社会の成長、社会課題の解決の推進
提言3 スポーツ・インテグリティの強化
提言4 多様なスポーツの機会の確保や充実による「する」「みる」「ささえる」等の強化

8 このような流れを受けて、スポーツ議員連盟は、2025年通常国会での改正法案提出に向けて調整を進めており、2024年6月13日に開催された総会で議連内にプロジェクトチームを設置し、議論を進めている。

9 上記のような流れからすれば、概ねスポーツ基本法の改正には、①スポーツによる健康増進、共生社会の実現といったスポーツの効果をより広げるもの、②スタジアムなどのハードやDXを活用するなどした主にスポーツを「みる」場面におけるビジネス的観点からのもの、③部活動の地域展開やスポーツ団体のガバナンスやインテグリティの問題など主にスポーツをする場面における問題を解決するためのものを中心とした内容が盛り込まれていくことになると思われる。いずれも大切なものであるが、重要な視点は、スポーツをするにあたっての大前提となる、事故防止などの安全の視点や、スポーツ選手を暴力や性的被害から守るためのインテグリティの問題は、他のビジネスやスポーツの効果などと同列に論じられるべきものではないということである。これらの問題は、基本法だけにとどまらず、具体法において対処すべき事項であり、他の改正の視点の大前提となる重要な問題であることから優先して議論されるべきであると考える。

(2025年1月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

執筆者

堀田 裕二ほった ゆうじ

弁護士/アスカ法律事務所パートナー

略歴・経歴

【経歴】
平成17年10月 大阪弁護士会登録 アスカ法律事務所入所
平成23年 1月 アスカ法律事務所 パートナー

公益財団法人日本スポーツ仲裁機構 スポーツ仲裁人・調停人候補者
一般社団法人奈良県サッカー協会 常務理事
OCA大阪デザイン&IT専門学校eスポーツ学科 講師
日本スポーツ法学会理事・事務局長
大阪弁護士会スポーツ・エンターテインメント法実務研究会世話役
日本スポーツ協会スポーツ少年団協力弁護士等

【主な取扱い分野】
インターネット、コンピュータに関連する法律問題
スポーツ(eスポーツ含む)・ファッションビジネスに関連する法律問題

【書籍】
「eスポーツの法律問題Q&A」 (共著・eスポーツ問題研究会編)民事法研究会
「スポーツの法律相談」 (共著・菅原哲朗・森川貞夫・浦川道太郎・望月浩一郎 監修)青林書院
「発信者情報開示請求の手引」 (共著・電子商取引問題研究会編)民事法研究会
「スポーツガバナンス実践ガイドブック」 (共著・スポーツにおけるグッドガバナンス研究会編)民事法研究会
「スポーツ界の不思議 20問20問」 (共著・桂充弘編)かもがわ出版
「Q&A スポーツの法律問題(第4版)」 (共著・スポーツ問題研究会編)民事法研究会

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