民事2025年03月17日 預託金返還請求訴訟について(3) 強制執行免脱をはかったBカントリー経営会社に、正義が勝った!! 執筆者:北村明美

1.Bカントリークラブは、1998年11月開場した。Aさんの父上は1998年2月据置期間10年経過後に退会する場合、入会保証金を返還するという約定により、850万円の保証金を預託した。
 ところが、Bカントリークラブ経営会社(以下「B社」という。)から、2006年、「預り保証金の据置期間の延長のお願い」という書面を渡された。父上は、当分様子を見てみようということで、2008年には、預託金返還請求をしなかった。
 しかし、2016年、B社から、またしても「保証金償還期限再延長の申し出」があった。
 父上は「入場者数が年間42,000人もあって経営が成り立たないのは経営者の能力不足にあり、はじめから返す気のない絵空事で会員を騙し続けた行為は許せない。詐欺と同じだ」と怒り、退会を決意し、2016年4月8日、預託金返還請求をしたのであった。
 父上は、B社に対し、何度も預託金を返還するよう要求したが、B社は手許不如意で等と言い、いっこうに返還してくれなかった。
 そうこうするうちに、病気になってしまった。父上は、「Bカントリーが保証金850万円を返してくれないのはおかしい。自分が死んだら、弁護士に頼んででも、必ず取り戻せ」とAさんらに言い置いて2022年11月亡くなった。

2.Aさんは、父上の遺志を継いで、弁護士に依頼し、B社に対して預託金返還請求訴訟を提起してもらい、勝訴判決を得た。
 B社は任意に支払ってこないため、2023年4月、執行文付与を得て、クレジット会社を第三債務者として債権差押をしたが、クレジット会社3社に問い合わせると、B社との契約自体ないとのことであった。もしやと考え、第三債務者の中に、B社と同じグループのC社を入れて、再度、債権差押をした。するとC社から、「差押債権はあるが、貸付金債権等と相殺予定のため、弁済の意思はない。」という陳述書が届いたのであった。
 B社とC社が属するグループの代表者はD氏である。このグループは、ゴルフ場を4つと富士山の見える高級ホテル、飲料のOEM・ODM企業の稼ぎ頭のE社、芸術作品を多数有するF文化振興財団を有し、上記グループ各社の総務・広報・営業などの機能を果たすC社で成り立っている。
 調べてみると、2008年頃、預託金返還請求をしたが、B社が任意に支払ってこないため、提訴し、勝訴判決に基づいて、第三債務者であるクレジット会社に対し、債権差押をした会員が複数名おられた。差押えをされると、クレジット会社とB社との間の加盟店契約では、クレジット会社から契約解除するような条項になっている。そのため、B社は、Bカントリー利用者にクレジットを使用してもらえない事態となった。
 プレーフィー(利用料)を現金で支払う利用者はわずかで、ほとんどの利用者はクレジットカードを利用する。そこで、C社が、あたかもBカントリークラブを経営しているかのように装って、名古屋市を本店所在地とするクレジット会社2社と契約し、Bカントリー利用者がクレジットカードを使用できるようにした。クレジット会社2社とさえ契約すれば、どこのカードでも使えるとのことであった。そして、C社はB社との間で、Bカントリー利用者のプレーフィーを回収する業務受託契約を締結した。
 このままだと、C社は、クレジット会社を通じて回収したプレーフィー等から手数料を差し引いて残った金銭をB社に返還しなければならない。それを、会員に差押えられたら、支払わなければならない。預託金返還請求をする会員にはどうしても支払いたくなかったようだ。
 代表者D氏に雇われた弁護士等は、会員から、C社を第三債務者として差押えられても、C社が支払わなくてもよいスキームを考えた。
 C社がB社にお金を貸すことにしたのである。
 そして、C社がB社に対して返還義務を負うプレーフィー等と、B社から返還してもらうべき貸金等を対当額で相殺すると、預託金返還を請求する会員から、C社が差押えられても、支払わなくてもよくなる。

3.このようなスキームについて、Aさんやその代理人には、はじめは全くわからなかった。
 C社が、Bカントリークラブの経営も含めてすべての業務受託をしていれば、C社は、B社の預託金返還債務を承継するので、単純である。しかし、C社もB社も、そうすれば、今度はC社がB社と同様にクレジット契約を解除されてしまうので、Bカントリークラブの経営者はあくまでもB社で、C社は、プレーフィーや会費や名変料をクレジット会社を通して回収するだけの業務を受託したということにしたのであった。
 さあ、Aさんはどうすべきでしょうか。
 次回に続きます。またご覧ください。

(2025年3月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

執筆者

北村 明美きたむら あけみ

弁護士

略歴・経歴

名古屋大学理学部物理学科卒業
コンピューターソフトウェア会社などに勤務
1985年弁護士登録(愛知県弁護士会所属)
著書・論文
「女の遺産相続」(NTT出版)
「葬送の自由と自然葬」(凱風社・共著)など
「医療事故紛争の上手な対処法」(民事法研究会・共著)
「証券取引法の仲介制度の運用上の問題点」(商事法務 ・1285)

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