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人事労務2019年08月27日 性同一性障害の診断を受けた女性社員からの要望への対応は? 女性社員の労務相談 執筆者:山浦美紀(弁護士)

Q&A

Q 当社(製造メーカー)の営業担当の女性社員Aが、 「性同一性障害」の診断を受けました。女性社員Aが ある日、「来月から会社では、男性名を使いたい。トイ レも制服も更衣室も男性用を使いたい。」と要望してきました。 どのように対応したらよいでしょうか。

A 女性社員Aの要望が、トイレや更衣室の使用といった他の社員にも影響のある範囲に及びますので、女性社員Aの性別変更の段階(性別適合手術を受けているのか、戸籍の変更も行ったのか)をヒアリングしてから具体的対処を検討しましょう。これらの情報は、女性社員Aの名誉やプライバシーに大きく関わる事柄ですので、業務上必要な範囲の情報に限定して、ヒアリングを行いましょう。ヒアリング後の個人情報の取扱いには厳重な注意が必要です。
また、ヒアリング内容に応じ、トイレや更衣室の使用方法や制服着用について、女性社員Aと職務上関わりのある他の社員や取引先への説明をするために、女性社員Aと協議すべきです。
そして、周囲の理解を得ながら、女性社員Aが働きやすい環境を徐々に整えられるようにしましょう。

解説

1 社内での性的少数者に対する理解と配慮

LGBTは、一般に「性的少数者」を総称する言葉として使用されますが、一口に、LGBTといっても、この分類の中には、「性的指向」に関する分類と「性自認」に関する分類が混在しています。いわゆる「恋愛の対象」を指す「性的指向」に関する分類が「LGB」の部分です。
Lはレズビアン、女性の同性愛を指します。Gはゲイ、男性の同性愛を指す言葉です。そして、Bはバイセクシュアル、両性愛を指しています。
そして、「自らの性別をいかに認識するか」すなわち、「性自認」に関する分類が「T」の部分です。「T」は、「トランスジェンダー」すなわち、割り当てられた性別に違和感のある状態を意味します。
本問の女性社員Aは、いわゆる「T」=「トランスジェンダー」の状態にある方となります。

2 性別変更の段階

さて、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律3条1項では、家庭裁判所で「性別の取扱いの変更」の審判を受けるために、次の要件を全て満たすことが必要とされています。
① 20歳以上であること
② 現に婚姻をしていないこと
③ 現に未成年の子がいないこと
④ 生殖腺がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること
⑤ その身体について他の性別に係る身体の性器に係る部分に近似する外観を備えていること
女性社員Aは、「性同一性障害」の診断を受けたのみであり、「性別適合手術」や、上記の「性別変更手続」がとられたか否かわかりません。女性社員Aの要望が、トイレや更衣室の使用といった他の社員にも影響のある範囲に及びますので、会社としては、まず、女性社員Aに業務上の必要性を示し、診断書の提示を受けて、女性社員Aに対し、「性別適合手術」や「性別変更手続」を経た段階であるのか否かをヒアリングする必要があります。このヒアリングは、女性社員Aの名誉やプライバシーに大きく関わるものですので、労務管理上必要な情報に限って、ヒアリング内容の守秘も徹底した上で、慎重に行いましょう。
その上で、「女性社員Aが、どのような要望を持っているのか?」、「女性社員Aの要望を受け入れた場合に、周囲にどのような影響があるのか?」、「周囲が疑問に思った場合、会社としてはどのような説明をするのか?」等を話し合って、具体的な解決策を検討していく必要があります。
なお、本問では、女性社員Aの要望が、トイレや更衣室の使用にまで及んでいることから、性別の変更や手術の有無といった点もヒアリングせざるを得ないと思われます。しかし、単に「男性名」を通称として使用したいというだけの要望であれば、性別の変更や手術の有無にまで踏み込んでヒアリングをする必要はないと考えられます。女性社員Aの具体的な要望に即して、ヒアリング内容もプライバシーを過度に侵害しないように配慮しましょう。

専門家のアドバイス

1 トイレや更衣室使用への対応方法

もし、女性社員Aの「性別適合手術」や「性別変更手続」が、いまだとられていない段階であれば、女性社員が男子トイレや男性用更衣室を使うと、他の男性社員の大きな混乱を招くおそれがあります。
他方で、「性同一性障害」のある女性社員が、女子トイレや女性用更衣室を使い続けなければならない精神的負担も大きいでしょうから、しばらくの間は、「多目的トイレ」を活用したり、更衣室については空き部屋やパーテーションのような区切りを利用したりして、なるべく双方への配慮をし、周囲の理解を得ながら、徐々に環境を整えていく必要があるでしょう。

2 アウティングに注意

社員自らが周囲に「性同一性障害」であることをカミングアウト(自ら表明すること)していないにもかかわらず、それを相談された人事担当社員が、当該社員が「性同一性障害」であることを他の社員に知らしめてしまうということは決してしてはいけません。これは、いわゆる「アウティング行為」といい、当該社員の権利を侵害する行為です。他の社員や営業先への説明をする前に、説明方法について、当該社員と協議し、了解を得るというステップを経ることが必要です。

3 改正セクハラ指針を踏まえての研修

平成29年1月1日に運用が開始された「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成18年厚生労働省告示615号、最終改正平成28年厚生労働省告示314号。以下「改正セクハラ指針」といいます。)では、職場での性的少数者(LGBT等)への差別的な言動がセクハラにあたることが明記されました。
わが国では、レズビアン・ゲイといった同性愛者の方に対し、「ホモ」「オカマ・オナベ」という言葉を使ったり、いわゆる「オネエタレント」の風貌について、笑いの対象とするような風潮がいまだにあります。それは、それ以外のヘテロセクシュアル(異性愛)が当たり前であるという発想に基づいているように思われます。また、トランスジェンダーの対になる言葉として、「シスジェンダー」(割り当てられた性別に違和感がない)という言葉がありますが、シスジェンダーが当たり前であるというような発想も根強いように思われます。個々人が、そのような旧来の発想から抜け出さない限り、性的少数者に対するハラスメントをなくすことはできません。
平成29年1月の改正セクハラ指針の運用開始とともに、今一度、社内での「ジェンダー」に対する考え方を検討し直し、あわせて、セクハラ研修のあり方を見直す時期が来ていると考えます。

コラム

性同一性障害を理由とした懲戒処分の禁止

本問の事例と類似の事案に、S社懲戒解雇事件(東京地決平14・6・20労判830・13)があります。これは、出版社Sに勤務していた性同一性障害の男性(36歳)が「女装を理由に解雇されたのは不当」と主張して、地位保全を求め、仮処分を申し立てたものです。東京地裁は、元社員の申立てを認め、解雇を無効とする決定をしました。男性は、性同一性障害の診断を受けた後、平成13年には家庭裁判所で女性名への改名を認められました。平成14年1月、配置転換を内示された際、女性の服装で勤務することや女性用トイレの使用などを求めました。会社側はこれを認めず、女性の服装で出勤した元社員を服務命令違反などで懲戒解雇にしました。決定では、「女性としての行動を抑制されると、多大な精神的苦痛を被る状態にあった」とした上で、時間がたてば違和感や嫌悪感も、緩和される余地があり、取引先や顧客が抱く違和感や嫌悪感については、業務遂行上著しい支障をきたすおそれがあると認めるに足りる的確な疎明はないと判断しました。
これは「女装」の事案ですが、「性同一性障害」であること自体を理由に、懲戒処分を課すということができないことは言うまでもありません。
なお、平成28年のセクハラ指針改正の際のパブリックコメントの意見に対する厚生労働省の回答においても「LGBTであることを理由とした解雇等は、労働関係法令上問題となる」旨記載されています。

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執筆者

山浦 美紀やまうら みき

弁護士

略歴

◯経歴 平成12年 大阪大学法学部卒業 平成13年 旧司法試験合格 平成14年 大阪大学大学院法学研究科修士課程修了(法学修士) 平成15年 司法修習修了(第56期司法修習生)       弁護士登録(大阪弁護士会) 現在    鳩谷・別城・山浦法律事務所パートナー弁護士 ◯公職等 平成21年~現在    大阪大学法学部非常勤講師 平成24年~平成28年 大阪地方裁判所民事調停官(非常勤裁判官) 平成26年4月~現在  大阪大学大学院高等司法研究科非常勤講師 ◯業務概要 使用者側労働法務に特化した大阪有数の法律事務所のパートナー弁護士。労使紛争に関する訴訟や交渉を手がけながら、多数の企業において、労務に関する研修講師をこなす。経営法曹会議会員。著書に「有期契約労働者の無期転換ルール」(新日本法規出版H29.11)ほか。

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