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人事労務2021年01月21日 時間外手当の割増率が上がることを御存知ですか? 執筆者:大神令子

 コロナ禍が問題になる前までは、働き方改革関連法案による法改正が話題になっていたことを覚えていらっしゃいますでしょうか。その時には、36協定の様式が変わり延長できる労働時間に規制が掛かるようになったことや、年次有給休暇の5日以上の付与義務が生じるようになったことなどについては、皆様も御対応なさったことと思います。
 しかし、もっと大きな改正が行われていたことに気付いていらっしゃらない経営者の方が意外に多いことに気付きましたので、今回はそのお話をいたします。

 何かと言いますと、中小企業については適用猶予措置が設けられていた1カ月60時間を超える時間外労働(残業)に対する時間外手当の割増率を50%にする法改正が、2023年(令和5年)4月以降は中小企業についても適用されるようになるということです。今は大企業だけが対象になっている時間外手当の割増率が中小企業にも適用され、60時間を超える残業には50%増しの残業代を支払わなければならなくなります。
 多くの中小企業では今は何時間の残業であっても25%増しの残業代になさっているのではないかと思います。それが一気に50%増しになってしまうということは、大きな人件費の増加になるのではないかと思います。幸いなことに実施されるまでにはまだ2年と少しの余裕があります。今のうちに対策を立てておけば、適用されるようになったとしても対応できるのではないかと思います。早い目の対策をしておかれることをお勧めいたします。
 とはいえ、60時間を超える残業に50%増しで支払わなければならないことには違いありませんので、とるべき方策としては、60時間を超えるような残業をさせないという方向になります。恒常的に60時間を超えるような残業時間となっている企業については、労働時間の削減について考える必要があります。

1.まずは労働時間の見直しをする

 もちろん、今でも労働時間の削減について対策なさっていらっしゃる企業も多いことと思います。しかし、60時間を超える時間外労働(残業)が発生している場合は、今一度、本当に無駄な時間がないかの検討をなさってみてください。例えば必要以上に長い会議や社内での手待ち時間等がないか、あれば、それを減縮するにはどうすべきかを、全社で相談・検討なさってみてください。
 よくあるのが長時間労働に慣れてしまっていて、必要以上に時間を使っていることに気付いていないケースです。従業員自身が「これは必要なこと」と思い込んでいて時間短縮に抵抗するケースもあるのではないかと思います。抵抗する理由の一つとして、労働時間が短くなることによって残業代が減るために収入が減るということがあります。その場合は、なんらかのインセンティブを設けるなどして従業員の給与額が大きく下がらないような給与面での工夫も必要かもしれません。ただ、労働時間が短くなることのメリットについては、従業員の皆様に御理解いただく必要があるでしょう。
 そして、実際に時短を始めると、意外と必要のない時間が多かったことに気付き早く帰ることが習慣化されるケースも多いようです。私の関与先企業様でも、そのようなケースがかなり生じています。まずはやってみることから始めてみてください。

2.働き方そのものを見直す

 どうしても業務の都合で長時間となる業務もあるだろうと思います。他社との関係や仕事の流れなどでやむを得ないケースもあるでしょう。その場合は、シフトを利用して早番・遅番等を作ることによって一人当たりの労働時間を削減する方法が取れないか、検討してみてください。
 また、1カ月単位の変形労働時間制や1年単位の変形労働時間制を利用することによって、労働時間の短縮が図れるケースもあります。そのような制度の利用ができるかどうかも、検討してみてください。

3.従業員数を増やす

 長時間労働となる原因に、人手が足りないということがよくあります。今の時代はなかなか採用が難しいという面もあると思いますが、人が少ないのに仕事が多ければ長時間労働となることは当然に生じてしまいます。
 人を増やせば人件費が増えるとお考えの経営者もいらっしゃいますが、割増した残業代を支払うことを考えれば、人を増やした方が却って人件費を抑えることができるのではないでしょうか。まして、今後50%増で支払わなければならなくなることを考えれば、人を増やした方が良いのではないかと思います。
 また、長時間労働が続くことは労災を引き起こす可能性が高くなります。特に精神疾患が生じてしまうと、他への影響も大きくなってしまいますので要注意です。精神疾患でなくても労災が生じた時に長時間労働が続いていたということが判明すれば、労基署の調査と是正勧告は必須となります。
 簡単に人を増やすことはできないかもしれませんが、人手不足の場合は従業員数を増やすことを考える必要があると思います。

4.代替休暇の導入を検討する

 これは既に大企業には導入されている制度です。代替休暇の導入は実際に割増の割合が50%になってからとなりますが、60時間を超える時間外労働について、その時間数を有給で休ませた場合は残業をしていなかった扱いにすることができるというものです。この有給による代替休暇は年次有給休暇とは別に有給で休ませるもので、この制度を導入するには過半数組合か従業員代表との間で労使協定を結ぶ必要があります。
 実際に代替休暇の対象とできる時間数等に細かい決まりがありますので、詳しくは社会保険労務士にお問い合わせください。

 まだ、実際の施行までには時間がありますが、労働時間の削減は一朝一夕にできるものではないと思います。しかし、今から対応していれば実際に施行された時に慌てずに済むと思いますので、まだまだ先のこととは考えず、少しずつで良いですので労働時間の削減を図るように検討してください。

(2020年12月執筆)

執筆者

大神 令子おおがみ れいこ

社会保険労務士

略歴・経歴

大神令子社会保険労務士事務所代表

2000年(平成12年)12月 社会保険労務士試験 合格
2001年(平成13年) 2月 大阪府社会保険労務士会 登録
2002年(平成14年) 4月 大阪府内社会保険事務所にて 社会保険相談指導員
2006年(平成18年)12月 大神令子社会保険労務士事務所設立

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