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一般2025年06月05日 “友人”からの無料相談への対処法(健やか弁護士シリーズ) 執筆者:冨田さとこ

 「〇〇君が逮捕されちゃった。すぐに出てきたみたいなんだけど、トミーの携帯番号を伝えといたよ!!」駆け出しの弁護士だった頃、突然、地元の友人からかかってきた電話です。〇〇君は確かに同級生だけど、なぜ勝手に携帯を伝えるんだろう。

「何してる?近所の居酒屋で飲んでいるから来ない?」仕事を終えて、疲れて歩いていたら、趣味仲間からの誘い。「美味しいビールを飲める!!」と駆け付けると、いくつもの法律相談が用意されていました。あれ?なんで私は仕事を終えたのに仕事をしているのだろう…、趣味の話をしたいのに…、と頭の中でうずまく気持ちと、まずくなる酒。予め「相談もあるんだけど」と言われていたら、全く違う気持ちで受け止めたはずです。

 極めつけは、ある年の12月31日、何もかも忘れて南国のビーチで海を眺めていたら、SNSを介して「こんにちは!」と、仕事関係者からのメッセージ。少し前に仕事を依頼した方だったので、「今年はお世話になりました」と返信しました。すると、始まったのは長文のプライベートな法律相談。こちらが頼んだ仕事は謝金を払ったのに、なぜ無料で相談できると思っているんだろう…返信するんじゃなかった…と、押し寄せる苛立ちと後悔の波。目の前には美しい海が広がっているのに。

 こういった「友達(と思いたい人)に、無料で使われる」「仕事とプライベートの境界をあっさり踏み越えられる」という事態は、弁護士であれば多かれ少なかれ経験していると思います。アメリカの大学院での同級生が、弁護士になったばかりの時に、「『ちょっと聞かせて』とか、安く使おうとするな。あんたのために弁護士になった訳じゃない!」とSNSに投稿しているのを見て、この現象は国境を越えて発生することを知りました(大げさに言ってみた)。

 新人のときほど、法律相談1件当たりの負担が重いことも相まって、「友人に都合よく使われようとしている」というストレスは強く感じるはずです。今回は、私が弁護士になったばかりの頃、知人・友人からの「ちょっと教えて相談」が押し寄せて辛くなった際、自分で心に決めたルールを、「そんなこと思っていたのか。嫌なやつ」と思われることを覚悟して書いてみます。なお、お調子者の私の場合、初めて持つ名刺が嬉しくて配って歩いた結果の自業自得であることも、併せて告白しておきます。

 まず、「友達(知人)のことなんだけど」という第三者に関する相談は、受けないことに決めました。「ご本人に近くの法律相談に行ってもらって!」と伝え、それ以上のアドバイスはしません(緊急性が高い場合にのみ応急処置的な助言をすることはあります)。そういう相談は、情報が不十分で、場合分けをしなければ回答できないことが多いからです。また、「友達に弁護士がいるから、聞いてみるよ!」と安請け合いして、人のふんどしで相撲を取る姿が想像できて嫌な気持ちになるからです。ただ、この手の相談は、自分の利害関係は絡まず、依頼案件として育つ可能性もあるので、「仕事として、ご本人の話を直接聞けるなら対応します」という対応もありだと思います。

 次に、友人などからの相談を無料で受けることはあっても、その先の仕事は必ずお金をもらうことにしました。当たり前のことかもしれませんが、新人の頃は上手くできませんでした。経験の浅さ故に事件の見通しはつかないけど、友人だから何とかしてあげたい。困っている姿を見て、「ひとまず受任通知を打ってみるか…」と動き出して、なし崩し的に事件処理がスタートする…ということが何度かありました(法テラスの常勤弁護士になる前の話です)。その結果、事件に対する自分のスタンスが曖昧かつ無責任なものとになり、依頼者も覚悟が決まらず、方針が右往左往してしまい、結局うまく進みませんでした。当然、依頼者である友人にとっても良くない結末です。何度か後味の悪い思いをしたあと、これはプロとして受けることを明示しなかった自分の責任だということに気づき、少なくとも費用の取り決めをしてから事件処理を始めようと心に決めました。

また、直接の友人であっても、恋愛沙汰(離婚、交際絡みのトラブルなど)は受任しないことにしました。相手方からの主張によって、友人の嫌な側面が見えることがあるからです。他の事件類型でも、相手方からの反論などを通じて、依頼者の別の顔や事件の違う側面が見えることはよくあります。民事事件は、100%どちらかが悪いということは、ほとんどありません(「ない」とは言わない)。そこから落としどころを探るのが、民事事件の面白みでもあります。でも、恋愛絡みのそれは、愛憎相まって、とても感情的で、不合理な時も修正が効きません(私の場合、そもそも事件類型として好きではないけど、仕事だと割り切ってやっています)。これが友達同士の「恋バナ」の延長に依頼があると、プロとして打合せとの間の線引きが難しくなり、結果として、依頼者の依存度も高くなります。依頼者となった側も決まりが悪かったのか、事件終了後に縁が切れてしまった友人もいたので止めました。大切な友人の場合には、信頼できる弁護士に繋ぎます。

 さいごに、私のことを一方的に利用しようとする人は、友人でいてもらう必要がないと諦めることにしました。友人ではなく、「知人」です。知人には嫌われても構わないから、以降は塩対応でも問題なし。そう心を整理したら、とても楽になりました。ストレスになっていたのは、「嫌われたくない」「いい人でいたい」という自分の欲だったのだなと。

 親切で無償のアドバイスをしたのに、その顛末の報告はないというのも、嫌いです。弁護士は、ケースにより経験値を上げることができます。無償のアドバイスで、こちら側が得られるものがあるとしたら、その結果を知ることくらい。それなのに、「ありがとう!報告するね!!」と、約束していてる時さえも何らフィードバックがない。そして、また困った時だけ連絡してくる。そんな相談は、その人との付き合いを続ける理由がなければ、そっと放置することにしました(「知人」としてでも付き合いを続ける理由がある場合には、「嫌です」とどこかで伝える)。

そんな風にしていても、本当の友達は残りました。相談事がある時も、対応する私の負担・気持ちをまず考えてくれる人たちです。彼らは、無茶なことは言いません。費用についても、こちらが言いにくいだろうと先に話してくれたりもします。そんな友人だからこそ、私も全力で対応してあげたくなるという好循環が生まれます(様々な制約でできないことも多いけど)。いま悩んでいる弁護士のストレスが、少しでも軽くなることを祈りつつ。

(2025年5月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

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執筆者

冨田 さとことみた さとこ

弁護士

略歴・経歴

【学歴】
2002年(平成14年)11月 司法試験合格
2003年(平成15年)3月 東京都立大学法学部卒業
2013年(平成25年)9月 Suffolk大学大学院(社会学刑事政策修士課程(Master of Science Crime and Justice Studies))修了

【職歴】
2004年(平成16年)10月 弁護士登録(桜丘法律事務所(第二東京弁護士会))
2006年(平成18年)10月 法テラス佐渡法律事務所赴任
2010年(平成22年)3月 法テラス沖縄法律事務所赴任
2015年(平成27年)9月 国際協力機構(JICA)ネパール裁判所能力強化プロジェクト(カトマンズ、ネパール)チーフアドバイザー
2018年3月~現在 日本司法支援センター(法テラス)本部
2020年7月~現在 法テラス東京法律事務所(併任)
※掲載コラムは、著者個人の経験・活動に基づき綴っているもので、新旧いずれの所属先の意見も代表するものではありません。

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