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行政・財政2025年06月13日 普通財産の貸付制度 5 執筆者:髙松佑維

1.はじめに

 前回前々回、普通財産の貸付事案の検討では「当該財産を取り巻くこれまでの経緯・経過」が大変重要であることについて、事例を取り上げながら紹介しました。
 取り上げた事例ではいずれも原告側の請求が認容されていましたが、今回は、経緯等を踏まえて原告側の請求が認められなかった一事例を取り上げてみたいと思います。

2.普通財産の明渡し請求に関する事例

(1)事案の概要

 今回の事例で対象となった普通財産は、漁港修築事業と海岸線都市計画道路整備事業に伴う漁港地区利用計画に基づき公有水面の埋立てや造成、土地取得等がなされた際に、周辺の関係土地と一緒に原告(地方公共団体)所有となった土地(本件土地)でした。
 被告組合(漁業協同組合)は、前身組織時代から長年、漁港地区利用計画に定める用途に供すること等を条件として、原告より本件土地や関係土地を無償で借り受けて使用していました。
 本件土地の一部は、被告組合の前身組織が途中から簡易舗装をして駐車場(本件駐車場)として使用しており、他の一部は、被告組合の前身組織から委託された被告会社が給油所(本件建物)とガソリンスタンド施設(本件工作物)を設置して使用していました。
 その後、住民から本件土地の使用状況及び無償貸付に対して住民監査請求が行われ、当該住民監査請求は棄却されましたが、監査委員から“貸付け当初から20年近くが経過し、社会環境や経済的事情なども大きく変化しており、使用の必要性や使用実態などを早急に再調査した上で、貸付料徴収の要否のみならず貸付けの要否も含めて検討、調整等を行い、財産管理に遺漏なきよう努められたい”旨の意見が付されました。
 これを受けて原告は検討を行い、本件土地についてこれまでの無償使用を改め、被告組合との交渉により適正価格による売却もしくは適正賃料による貸付けをする方向で対処しようとしたものの、交渉は難航し、その後の簡易裁判所での民事調停では買取価格及び賃料額について両者の開きが大きく、当該調停も不調に終わりました。
 そのため原告は訴訟を提起し、本件土地と関係土地を被告らに使用貸借した後、その中の本件土地については貸付期間満了により使用貸借が終了している旨を主張して、被告らに本件土地上の本件建物及び本件工作物の収去、本件土地の明渡し、明渡しまでの賃料相当損害金の支払いを請求しました。対して被告側は、漁業権の補償としての土地利用権等の主張や無期限の地上権設定等の主張を行い、争いました。

(2)裁判所の検討・判断

 上記事案で裁判所は、漁港修築事業等の時点からの原告及び被告組合との間のやりとりや事業内容等も含めた従前の経緯、これまでの状況等を踏まえ、本件土地について「無償使用承認期間が満了し,原告と被告組合との使用貸借関係は終了したものと解するのが相当である」として被告側の土地利用権等の主張を認めませんでしたが、一方で「何らの代償なくして…本件明渡請求(被告らに対する…本件建物及び本件工作物の収去土地明渡請求)をすることは,信義則に反し,許されないと解する」とし、結論として原告の請求を棄却する判断を下しました(高松地方裁判所平成22年3月15日判決)。
 上記判断にあたって、まず裁判所は「本件土地の取得時・貸付時の状況」として、“漁場、漁港を対象とした漁港修築事業が漁業者に及ぼす影響の大きさ”、“道路敷設敷地確保のため漁業者の多くが代替土地へ移転し、生活環境の変化が生じた中で行われた埋立て工事だったこと”、“埋立て工事の以前から漁業補償交渉が行われていたこと”、“交渉の結果、覚書(本件覚書)が締結され、その趣旨に則って、規則に基づき、本件土地等の普通財産借受願が提出され、原告が使用承認したこと”を踏まえ、「無償貸付けが,本件覚書の締結された趣旨に則ってなされ…漁港修築計画の実施及び都市計画道路…の実施に伴う漁業補償的な意味合いを有すること」に着目しました。
 次に裁判所は、「本件土地の無償貸付の途中経過」として、“本件駐車場が組合員らに対する有料駐車場として長期にわたり平穏公然と利用されていたこと”、“被告会社において長期にわたり平穏かつ公然と本件ガソリンスタンドを経営してきたこと”、“これらの利用状況に対して、住民監査請求がなされるまで誰からも異議が述べられなかったこと”等の事情に着目し、これらの点に鑑み、上記の結論を示しました。

(3)上記事例から留意しておくべきこと

 貸付側から見た場合、途中経過の中で見直し等の契機となり得る出来事があった際、見直し等をせずそのままの状況を続け、その期間が長引くと、そのような経過や状況がその後の紛争時にはリスクとなる場合があり得るように思われます。
 一方、上記事例では当初の補償的意味合いや途中経過等があったために信義則が適用されましたが、被告側が裁判で主張した利用権等は認められませんでした。単に平穏公然と利用継続しているだけで信義則が適用されるわけではないと考えられますので、借受側として上記事例を参考にする場合はその点に留意が必要です。
 上記裁判例はあくまで上記事例における判断ではありますが、“財産の取得時・貸付時の状況・経緯”に加えて、“その後の途中経過の部分の状況・経緯”も合わせて総合的に判断された点が、結論に大きく影響したように見受けられます。
 そのため、他の事例においても上記の各着眼点を意識しておくことは重要と思われます。
 加えて、貸付側・借受側いずれの立場でも、特に現在進行中の長期貸付事案等においては、現状や今後の対応が後々の結果に影響する事情となり得ることを念頭に置きながら節目の処理をその都度行い、見直し等の契機を逃さないようにしておく必要があるでしょう。

(2025年5月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

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執筆者

髙松 佑維たかまつ ゆうい

弁護士

略歴・経歴

早稲田大学高等学院 卒業
早稲田大学法学部 卒業
国土交通省 入省
司法試験予備試験 合格
司法試験 合格
弁護士登録(東京弁護士会)
惺和法律事務所

大学卒業後、約7年半、国土交通省の航空局に勤務。
国土交通省本省やパイロット養成機関の航空大学校などに配属され、予算要求・予算執行・国有財産業務などに従事。

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