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企業法務2026年10月23日 カスハラ対策は「義務」です! 執筆者:亀井真紀

 2026年10月1日、改正労働施策総合推進法が施行されました。これにより、カスタマーハラスメントを防ぐ対策がすべての事業主の法律上の義務になりました。ここでいう「カスタマーハラスメント」(以下「カスハラ」といいます)とは、職場において行われる ① 顧客等の言動であって、 ② その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより ③ 労働者の就業環境が害されるものであり、①~③の要素を全て満たすものをいいます。

 事業主には、カスハラに対する方針を明確にして周知すること、相談に応じる体制を整えること、実際に起きたときに迅速かつ適切に対応することなどの措置が求められます。また、従業員が相談したことを理由に不利益に扱うことも禁止されています。これまでは企業や事業所の「努力」に委ねられていた部分が、はっきりと「責務」として位置づけられたことに留意しなければなりません。

 一方、現場では「どこからがカスハラなのか」の判断に迷う場面が少なくないと思います。上記の要素でいえば、社会通念上許容される範囲を超えたかといえるどうかは評価の問題です。一義的ではないところが悩ましいです。厚生労働省のあげている例でわかりやすいものとしては、① 身体的な攻撃( 殴る、蹴る、叩く等の暴行を行うこと、物を投げつけること、 わざとぶつかること、 つばを吐きかけること)や ② 精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要等、店舗の物を壊すことをほのめかす発言やSNS等のインターネット上へ悪評を投稿することをほのめかすこと、SNS等のインターネット上へ労働者のプライバシーに係る情報の投稿等をすること)などがあげられています。これらは刑法上の構成要件にも該当し得るので警察への相談がしやすいともいえます。問題は、表現や手段自体は穏当なものでありながらもリクエストや質問が相手に過度な負担を課すものであったり、執拗であったりするものです(例えば「〇日以内に再発防止策をマニュアル化して書面で回答されたし」とか)。要求のきっかけとなった事案の重大性や事業の性質等により社会通念上許容される範囲を超えるかどうかの判断がされます。最後は程度問題、総合判断です。このあたりになると第三者である弁護士に相談した方がよいといえます。

 このように、その境目がはっきりしないために、従業員は「これくらいは我慢すべきなのでは」「断ったら自分の対応が悪いと思われるのでは」と一人で抱え込みがちです。

 特に注意したいのは、従業員側に何らかのミスが実際にあった場面です。この場合、まずはミスを認め、真摯に説明や謝罪をすることは基本です。ただ、そのことと被害を受けた方からの要求に全て応えるかは別問題です。残念ながらミスにつけ込んで過度な謝罪(土下座や謝罪文など)や要求(金銭、必要以上の説明や体制整備、時間外の対応など)をする例はよく見られることです。その場合でも従業員は、自分に落ち度があるとの負い目から断れず、要求がさらにエスカレートしてしまいがちです。これが一番よくありません。例えば、一度やむを得ず時間外や休日に対応したためにそれを前提にやりとりが続いてしまい、その後も時間外対応が当然の前提とされてしまうことなどがあります。また、書面での回答を約束してしまったためにその後も逐一書面を求められ、延々と負担が続いてしまうなどの例があります。そういったことにならないように初動の対応が肝心であり、そこで誤った方向にいかないよう、しっかりと組織として対応していくことが重要です。そのためにも従業員が迅速に相談をできる窓口、体制整備が不可欠なのです。従業員にはミスを隠したいという心理が働き、積極的には上司に申告・相談しないこともあるのでしょう。だからこそ、逆に積極的にカスハラに関する相談窓口、体制整備をしたことを周知しなければならないのです。

 また、 従業員同士の「気付き」も大切です。被害を受けている本人ほど大それたことにしたくないと抱え込み、声を上げにくいものです。「最近あの人、特定のお客様の対応で疲れていないかな」「あの電話、長すぎないかな」など、そうした周囲の小さな気付きや一言の声かけが、早めの対応と心身の不調の予防につながります。

 そもそもお客様の要望に丁寧に応えることは、サービスの基本です。正当な苦情は、むしろ事業の運営改善のためにも貴重なご意見であるという姿勢を維持しつつ、不当な要求には毅然とした対応をとり職場の健全な環境づくりも行っていくというこの両立こそが経営者に求められているといえます。

(2026年10月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

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執筆者

亀井 真紀かめい まき

弁護士

略歴・経歴

第二東京弁護士会所属。
平成13年弁護士登録。北海道の紋別ひまわり基金法律事務所(公設事務所)に赴任。
その後、渋谷の桜丘法律事務所(現事務所)に戻り現在に至る。
第二東京弁護士会高齢者・障がい者総合支援センター委員会、日弁連高齢者・障害者権利支援センター委員会等所属。
一般民事・家事、刑事事件のほか、成年後見、ホームロイヤー契約等高齢者、障がい者の事件を多く担当する。

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