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企業法務2021年09月03日 過労死等の防止に関する対策について 執筆者:大神令子

 6月末頃に「過労死ライン」に関する見直し案についての報道が行われておりました。
これは、国が過労死を認定する基準について、時間外労働(残業時間)が ①病気の発症直前1か月に100時間 ②発症前の2か月から6か月は1か月平均で80時間のいずれかが認められる場合に、労災と認定するという基準でしたが、時間外労働がそれらの時間数にまで達していなくても、過労死として認定すべきという提言が有識者の検討会から行われ、この提言に基づいて認定基準を変更するというものです。
 そもそも、「過労死」とはどういうものを指すのか?については、①業務における過重な負荷による脳血管疾患・心臓疾患を原因とする死亡 ②業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡 ③死亡には至らないが、これらの脳血管疾患・心臓疾患、精神障害 と定義づけられています。そして、その「過重な負荷」として、長時間労働が過労死ラインの認定基準となっているのは脳・心臓疾患に関する労災認定ですが、精神障害についても長時間労働が評価の基準として設けられています。

 現実問題として、時間外労働(週40時間を超える労働)が1カ月で100時間あるということは、毎日約5時間の時間外労働を行うか、毎日約2時間の時間外労働を行った上に休日にも労働しているかという状況となりますので、相当な過重労働であると言えるかと思います。5時間の時間外労働を行っているということは、所定労働時間が9時から18時の場合、23時まで労働していることになり、毎日終電で帰宅している状況と言えば想像しやすいのではないかと思います。これでは病気が発生してもおかしくない状況と言えると思います。
 また、2カ月から6カ月の平均で時間外労働が80時間になるという状況も、1カ月で100時間の時間外労働の状況と大きな差はないのではないかと思います。むしろ平均を取るために1カ月だけでカウントすれば100時間を超える可能性もありますので、より長時間労働が行われているとも言えます。
 このような長時間労働があってはならないのは労働環境として当然のことと言えるのではないかと思いますし、企業としてそのような状況を回避する対策が必要であるとも言えると思います。労災の認定基準がどうであるかに関わりなく、そのような長時間労働は行わせるべきではありませんし、労基署の監査があった場合は、労働時間短縮へ向けての対応を求められる可能性が高くなります。また、現在では、36協定の締結にあたって1カ月の時間外労働が100時間以上となるものは認められていませんし、80時間以上のものについても、労基署の調査対象となる可能性が高いですので好ましくはありません。もし、このような長時間労働が生じているのであれば、業務内容の見直しや人員の増強などの対策を行う必要があります。
 従業員が健康で長く勤務している企業は、それだけ長く継続し発展できる企業であると思います。従業員に無理な労働を強いて使い捨てにするような企業は、現実に長期間の経営が維持できなくなっているケースが多いです。やはり、企業は経営者と従業員の双方が車の両輪として稼働できる状況でなければ長続きしないようです。経営者として、そのために行うべきことが何であるかは、お考えいただく必要があるように思います。

 ところで、話を元に戻しまして掲記の記事の内容ですが、8月末時点では過労死ラインの引き下げが具体的に運用されているということではないようです。しかし、令和3年7月30日付で「過労死等の防止のための対策に関する大綱」が改訂されました(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000812465.pdf)。この内容には、既に行われている過労死等防止対策について更なる推進を図っていくことや、勤務間インターバル制度の導入やメンタルヘルス対策に関して中小企業への支援を行うことなどが記載されています。また、令和7年までの対応として、週労働時間40時間以上の雇用者のうち、週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下とするということが謳われています。これは週20時間の時間外労働ということになりますので、月に換算すると80時間を超える時間外労働がある労働者を5%以下にするということになるかと思います。やはり、国としては1カ月の時間外労働を80時間までに抑えたいという意識があると思われますので、1カ月80時間以上の時間外労働となっている企業につきましては、労基署の指導対象になる可能性が高いとお考えいただいた方が良いと思います。
 それとは別に、令和5年4月1日からは月60時間を超える時間外労働については、中小企業も50%の割増賃金となりますので、それまでには労働時間の短縮を検討した方が良いと思います。それまでにあと1年半程度しかありませんので、もし1ヵ月の時間外労働が60時間を超える状況が恒常化されているのであれば、具体的な対策を早急に御検討いただく必要があるように思います。

 過労死等の防止に関しては、特設サイトが作られています
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/karoushizero/index.html)。
また、パンフレット(https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/2020karoushiboushipamphlet.pdf)も作られており、このパンフレットはとてもわかりやすく説明されていて、チェックリストもありますので、ご活用をお考えいただきたいです。

(2021年8月執筆)

執筆者

大神 令子おおがみ れいこ

社会保険労務士

略歴・経歴

大神令子社会保険労務士事務所代表

2000年(平成12年)12月 社会保険労務士試験 合格
2001年(平成13年) 2月 大阪府社会保険労務士会 登録
2002年(平成14年) 4月 大阪府内社会保険事務所にて 社会保険相談指導員
2006年(平成18年)12月 大神令子社会保険労務士事務所設立

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